コンスエロ・ヴァンダービルトは、ヴァンダービルト家の7代目当主。
Vital Agibalow
最近のことだが、ある朝、ニューヨークのコロンバスサークルを見下ろすカフェで、インドで最も力を持つ王家の77代目を代表するジャナヴィ・クマリ・メワール(Jahnavi Kumari Mewar)王女が記者たちに対して、なぜ自分や他のファミリーオフィスのトップがほとんど記者たちの取材に応じないのか、その理由を説明していた。
「私的な利益が目的であるならば、プロフィールを公開することに何のメリットもないと思います」と彼女はコーヒーを一口飲みながら言った。
「私たちは、人を玄関に招き入れることがなく、敷地の境界線に近づくことさえ許さないような恐ろしいファミリーオフィスとして知られているのですが、にもかかわらず、数週間に1度は1人か2人のベンチャーキャピタル(VC)が友人を介して、あるいは誰かの知己を通じてやってきます。最終的には私がそれに対応しなければなりません」
王女は、どういうわけか彼女の電話番号を入手し、厚かましくも1日に何度もWhatsAppで彼女に売り込みをかけてきた、特にしつこいVCのことを思い起こしたようだ。
「実際、オフィスから彼に警告してもらわなければなりませんでした」
ファミリーオフィスとは、裕福な一族の財産を管理するプライベートな資産管理会社のことだ。その運用額は通常の裕福な一族の場合は3億ドル(約435億円、1ドル=145円換算)程度、ウォルトン(Walton)家やベゾス(Bezos)家のような超富裕層の場合は10億ドル(約1450億円)を超える。
RBCとCampden Wealthが2022年に発表した調査によると、世界で最も裕福な一族の資産がここ数十年で爆発的に増加したのに伴い、ファミリーオフィスの数も増加しており、北米のファミリーオフィスだけでも推定1820億ドル(約26兆3900億円)を管理しているという。
しかし、その影響力が増しているにもかかわらず、ファミリーオフィスの運営者たちの声を聞くことはほとんどない。
中米の裕福な一族を代表する大規模なファミリーオフィスの最高投資責任者は、ある会議に出席した際、議題に会社の名前が印刷されているのを見て落胆したと語った。盗聴の可能性を避けるため、筆者が携帯電話をドア付近に置いたままにしてくれるなら、詳しいことを話すと彼は言った(当然、彼の名前を明かすことは許されない)。
あまりにもしつこいVCに追い回されたくないという理由は別として、他のファミリーオフィスのトップたちは、自分の資産を誇示する一部の成金とは異なり、一族の一員として思慮深さを最重要視するように教育されてきたという。
「一族のことを最優先し、いかなる立場も誇示したりしないという、特有の品格があります」と、不動産業で数十億を稼いだサンフランシスコの大富豪の御曹司である、オリバー・スウィッグ(Oliver Swig)氏は語った。
「私はいつも、他のファミリーメンバーにとって悪い印象を与える可能性があるのではないかと思い、話すのをためらっていました」
「それはしばしば誤解される可能性があると思います」とスウィッグ氏は付け加え、部外者は秘密主義を邪悪なものだと考えるべきではないと説明した。
「重要なのは見出しに載ることではく、適切なモラルで正しいビジネスを実践する責任です。このファミリーオフィスでの経験の中で、私はその考えを受け継いできました」
フォーブス・アイコノクラスト・サミット(Forbes Iconoclast Summit)に出席するために今月ニューヨークに滞在していたスウィッグ氏と他の5人は、マスコミをにぎわせることになるリスクを承知の上、ファミリーオフィスのカーテンを開け、その内情の一部を明らかにすることに同意した。
信頼はすべてに優先する
ファミリーオフィスの世界は、何よりも人間関係と信頼の上に成り立っている。ファミリーオフィスの一員になっても、一族を怒らせるようなことをすれば永久に締め出されてしまう。多くの場合、一族は何十年にもわたって同じ親しいアドバイザーや投資パートナーに囲まれている。
「私たちは90年代後半から同じ顔ぶれで、まったく同じ人数で共同投資を行っており、それは今も変わっていません」と前述の王女は言う。
「常に信頼という財産を大切にしているのです」
資産の保全が最も重要
他の資産運用会社は積極的に運用を行うが、ほとんどのファミリーオフィスはすでに裕福であるため、はるかに保守的だ。
「ファミリーオフィスは何よりも資産の保全を目的としています」と、A100x Venturesのマネージングパートナーであるニーサ・アモイルズ(Nisa Amoils)氏は言う。
「ベンチャー企業のゼネラルパートナーの多くは、特に外部からのリターンを重視し、それに伴うリスクをとります」
メワール家のように、テクノロジーを完全に避けてきた一族もある。王女は次のように述べた。
「私がVCをしないのは、そこがナビゲートするには複雑すぎて、時間と労力を費やすに値しない場所だからです。私たちが大切にしているのは、保全と緩やかな成長です」
また、ヴァンダービルト(Vanderbilt)家の7代目であるコンスエロ・ヴァンダービルト(Consuelo Vanderbilt)氏のように、ベンチャー投資が必ずしもうまくいくとは思っていないと言う人もいる。しかし、彼らはすでに十分な富を持っているため、好ましい活動を支援することには抵抗がない。ヴァンダービルト氏の場合、それはクリエイティブなファウンダーや、過小評価されているファウンダーたちだ。
SohoMuseの共同創業者でもあるヴァンダービルト氏は「現在の位置から、もう少しコミュニティをサポートしたいと思っています」と述べる。
ファミリーオフィスの形態や規模はさまざま
ファミリーという言葉はしばしば漫然と使われるが、そのオーダーメイドの性質上、彼らをすべて同じと見るのは間違いだ。
多額の資金があってもそれをほとんど投資せず、パーティーや会議に出席するためにその呼称を利用している「偽」のファミリーオフィスも多数存在すると、中米のファミリーオフィスのCIOは述べている。
彼は、ファミリーオフィスには管理資産の多い順に厳格なヒエラルキーがあると明かす。ウィンブルドンやワールドカップのような有名なスポーツイベントで顔を合わせるような、最も裕福なファミリーオフィスは一般的に、それより少ない額しか管理していないファミリーオフィスとは関わりを持ちたがらない。
「ファミリーオフィスにはいろいろな形があります」と言うのは、一族がドイツの自動車産業で築いた資産の管理を手伝い、ヘルスケアに特化したベンチャー企業Harmonixを設立したマクシミリアン・ウィンター(Maximilian Winter)氏だ。
「ファミリーオフィスの中には、事業会社を持っているところもあり、より起業家的であったり、あるいはより経営者志向が強かったりとして、ビジネスについてよく理解しているところもあります。また、ファミリービジネスをかなり前に売却し、持ち株投資会社のようになっているところもあります」
ファミリーであることの難しさも
当たり前のことのように聞こえるかもしれないが、自分の家族内の個人的な力関係をすべて考えた上で、一緒に事業を営み、多額のお金を管理する方法について全員が合意に至るよう試みることを考えてみてほしい。多くのことがうまくいかない可能性があるのは当然だろう。
「家族でありながらビジネスをするのは難しいことです」とウィンター氏は言い、ほとんどのファミリーオフィスには組織図が存在しないと指摘した。
「だから曖昧なのです。場合によっては、若い世代と上の世代が共同CIOや共同代表になることもあります」
スウィッグ氏によれば、この力関係は、さまざまな視点や優先順位にあふれる多世代の大きな一族の場合には特に厄介なものになる可能性がある。彼は他のファミリーメンバーを説得して、テクノロジーに特化した別の投資部門であるSOJA Venturesを立ち上げることを許可してもらったという。
「ファミリービジネスであると同時に、家族のビジネスでもあるのです。その点で、それぞれの世代的な注意点を抱えた個性を管理することになるのです」
『メディア王 〜華麗なる一族〜』に共鳴する部分も
スウィッグ氏は、架空のロイ(Roy)家を描いた、終了したばかりのHBOのコメディドラマ『メディア王 〜華麗なる一族〜』(原題: Succession)はやり過ぎだと感じたが、強く共鳴する部分もあったと話す。
「刺激的という観点から言えば、誇張されて風刺が効いてはいますが、彼らは間違いなく、ファミリーオフィスというインフラの何たるかを明らかにしたと言えるでしょう。自分たちはそれほど混沌としておらず、もっと機能的であると思いたいです」