グーグルのハードウェア部門のシニアバイスプレジデント、リック・オスターロー。
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グーグル(Google)は、数年間取り組んでいた眼鏡型拡張現実デバイスの開発プロジェクトを停止した。
本件に詳しい関係者3人によると、「Iris(アイリス)」というコードネームで知られたスマートグラスは、グーグルのレイオフと組織再編、さらに同社のAR/VR責任者クレイ・ベイバー(Clay Bavor)辞任を経て、今年棚上げされていた。グーグル広報担当者はコメントの要請に応じていない。
ザ・ヴァージ(The Verge)は、2022年1月にプロジェクトIrisの存在を初めて報じ、スキーゴーグルに似たデバイスだと説明していた。しかしグーグルの従業員は、その「スキーゴーグル」は実際にはサムスン(Samsung)とのパートナー製品として発表されてからは別のARプロジェクトの基盤となっていて、より眼鏡に似た形状のデバイスシリーズがIrisだったと話している。
グーグルはIrisを自社製品として確立してから発売することを計画し、買収を通じて人材面を強化していた。2020年には眼鏡型ARデバイスを製造するカナダのスタートアップ、ノース(North)を買収したと発表。Irisの初期バージョンはノースの最初のデバイス「Focals」に酷似していたが、グーグルが公開デモを行った、以降のバージョンは翻訳機能を備えていた。
スマートグラスIrisを棚上げして以降、グーグルはAR向けソフトウェアプラットフォームをつくることに注力しており、ヘッドセットを製造する他のメーカーにライセンス供与したいと考えている。サムスンのヘッドセット向けにAndroid「XR」のプラットフォームを構築し、またスマートグラス向けに「micro XR」のプラットフォームにも取り組んでいると、計画を詳しく知る人物は言う。
「micro XR」のソフトウェアにたずさわる従業員らは、社内で「Betty」と呼ばれる試作プラットフォームを使用している。ある従業員は、グーグルの新たな野心の対象は「AR向けAndroid」であると説明した。同社はハードウェアよりもソフトウェアを重視している。
グーグルの上層部は、開発中もIrisの戦略を絶えず変更し続けた。おかげでチームは常に方向転換を迫られ、多くの従業員が不満を抱いていたと内部関係者は指摘する。
Irisの頓挫を見れば、グーグルがAIだけに躍起になっているわけではないと分かるだろう。
最近、待望のヘッドセット「Vision Pro」を発表したアップル(Apple)は、グーグルが取り組むIrisに非常によく似た軽量のスマートグラスを製造しているものの、技術的な課題に直面しているとブルームバーグ(Bloomberg)は報じている。サムスンをパートナーとするゴーグル型デバイスは、アップルが開発するものへの恐怖感から生まれたものだと、グーグルの従業員は見ている。
一方、ジ・インフォーメーション(The Information)によれば、メタ(Meta)も眼鏡型ARデバイスを確立し、早ければ2024年にもこのデバイスの初期バージョンを開発者に提供する予定とのことだ。
従業員2人の話では、グーグルはいつかIrisを復活させる可能性があり、一部のチームはまだARテクノロジーを実験しているらしい。また他のチームは、ソフトウェアプラットフォームとサムスンのパートナー事業を担当するべく異動したという。