左から、国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一准教授、UUUM会長の鎌田和樹氏、クリエイターエコノミー協会事務局長を務めるnoteの淺井健人氏。
撮影:荒幡温子
クリエイターエコノミーの普及やクリエイターへの誹謗中傷対策などに取り組むクリエイターエコノミー協会が、6月28日、クリエイターやタレントを抱えるマネジメント事務所とその活動を支えるプラットフォーム事業者が参画する「誹謗中傷対策検討会」の設置を発表した。
マネジメント事務所からは、YouTuber事務所のUUUMやバーチャルYouTuber(VTuber)事務所のANYCOLOR、カバーの3社。プラットフォーマーとしては、グーグル、noteの2社、合わせて5社が参画する。さらに、誹謗中傷問題の有識者として国際大学グローバル・コミュニケーション・センター山口真一准教授もメンバーとして加わる。
検討会を通じて、業界で連携した誹謗中傷対策を進めていく。
クリエイターの4人に1人が「誹謗中傷経験者」
28日に開かれたメディア説明会には、クリエイターエコノミー協会事務局長を務めるnoteの淺井健人氏と、代表理事のUUUM・鎌田和樹会長に加えて、山口准教授が登壇。活動目的と誹謗中傷の実態について説明した。
「クリエイターを抱えている会社側とプラットフォーム側で、それぞれ対策をしており、有識者の方々へのエスカレーションを行っています。
ただ、一方通行の線が双方に交わることが頻繁ではなかった」
検討会を設置した理由を、鎌田会長はこう説明する。
SNS上に書き込まれた言葉は、ときに誹謗中傷となってクリエイターを傷つける。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2022年10月に発表した調査でも、クリエイターの4人に1人が「誹謗中傷を受けたことがある」と回答している。
クリエイターの4人に1人が「誹謗中傷を受けたことがある」と回答している。
出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング
SNSの普及とともに、クリエイターの誹謗中傷被害が深刻化していく中、2020年頃から、マネジメント側の社内対策チームや通報窓口の設置による対策強化が加速した。ANYCOLORとカバーでは、今回の連携に先駆けて2022年12月に共同声明文を発表。対策を進めていた。
ANYCOLORでは、運営するVTuber事務所に所属するタレントに対してインターネット上で誹謗中傷を繰り返した投稿者に対して、発信者情報開示請求訴訟などによる対応を進めている。この5月にも、約300万円の損害賠償を支払う形での示談が成立したケースがあったと発表している。
ただ、損害賠償にまで至るケースはごくわずかであり、誹謗中傷を受けた約7割が特に対処せず、泣き寝入りしているという調査結果もある。
誹謗中傷対策は、クリエイターやプラットフォームそれぞれの意見を吸い上げた総務省主催のワーキンググループなどで検討される。これまではクリエーター、プラットフォームそれぞれから個別に有識者へと意見が伝えられていた。
今回の連携によって、
「クリエイターの立場と、プラットフォーマーの立場で、その問題の実態は異なる。それを踏まえて、(有識者に)新しい対策を提言できると考えている」
と、クリエイターエコノミー協会事務局長・淺井氏はさらなる対策を進めていく上で重要な取り組みであると説明した。
具体的な活動は「現在検討中」
UUUMの鎌田会長によると、今回の発表は、あくまで連携開始とそれに伴う啓蒙活動の促進を目的としている。noteやグーグルなどのプラットフォームとの具体的な連携については「現在検討中」だ。
また、日本国内で主流となっているTwitterなどのSNSと連携した取り組みについても
「この検討会はさまざまな企業に参画いただくことを目的としており、今後必要であれば検討していきたい」(鎌田会長)
とコメントしている。
誹謗中傷は「表現の萎縮」に影響しかねない
国際大学の山口准教授。計量経済学の手法を用いて、SNS上の誹謗中傷やネット炎上といった課題を研究する。
撮影:荒幡温子
誹謗中傷対策検討会に有識者として参加する国際大学の山口准教授は、クリエイターへの誹謗中傷は、「表現の萎縮」に影響すると指摘する。
ジャーナリストへの誹謗中傷の影響
出典:国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
「おそらく似たような傾向が出ているのではないか」と例に挙げるのが、ジャーナリストを対象にした調査結果だ。誹謗中傷を受けたジャーナリストの20.9%が、「同様のコンテンツや近しいコンテンツに関しての記事を書くことをやめた」と回答している。
「クリエイターというのは、とりわけ個人や少人数の場合も多く、誹謗中傷に対して組織立って戦うことが難しい。だからこそ、加害者に対して裁判などのアクションを取る際のサポート、 相談窓口やカウンセリングの充実、そしてSNS使用に関する啓発、こういったことがより求められるという風に考えております」
クリエイターを取り巻く環境の脆弱性を強調し、事業者全体での連携の重要性を語った。
心無いコメント「クリエイターの人生を崩してしまう」
さらに山口氏は、インターネットが「能動的な発信しかない言論空間」という特性上、ごく少数の極端な意見が目立つ構造となっていることも指摘する。
UUUMの鎌田会長。
撮影:荒幡温子
加えて、鎌田会長はこうコメントする。
「20個の(コメントの)たまたま一つが誹謗中傷だったとしても、その一つが(クリエイターにとって)全てだと思っています。
たわいもない一言かもしれないですが、長年活動してきたクリエイターの人生をその一言で崩してしまう、そんな良くない影響力を持っているのです」
UUUMの定期報告では、2022年6月1日〜2023年2月28日までの9カ月間の対処件数は25件、投稿の削除率は80.0%と発表している。
ANYCOLORの活動報告では、2021年9月〜2022年9月までの対応件数は88件だった。カバーも同様に、社内関連チームや代理人弁護士を通じて実施してきた誹謗中傷対策の結果を報告しており、2022年1月〜2022年12月までの1年間での対応件数は146件だったという。
「(今回の連携により)誹謗中傷に対して、何かが起こった時の課題解決ではなく、未然に防ぐ段階において一歩踏み込んで対策していけると考えております」(鎌田会長)