近頃、もはや珍しい語ではなくなってきた「セルフケア」。
しかし具体的に何をするべきなのかを考えると、シンプルに答えるのはなかなかに難しい。
本連載「5 Habits 〜私が整う、ちいさな習慣」では、さまざまな分野で活動している人に、5つの「自分をケアし、整えるために普段からやっている小さな習慣」を聞いていく。
撮影:野口羊
第2回は、『無駄づくり』として工作や発明活動を展開する藤原麻里奈さんにお話を伺った。
藤原さんが生み出す発明は、『オンライン飲み会緊急脱出マシーン』や『謝罪メールを打つパンチングマシーン』をはじめとした、ユニークかつ斬新なものばかり。もともと動画で発信を続けてきた藤原さんだったが、2022年に株式会社無駄を設立し、現在は活動の幅をさらに広げている。
斬新奇抜なアイデアを生み出し続けるにあたって、藤原さんはどんな習慣を持ち、どんなセルフケアを行なっているのだろうか。藤原さんの仕事場を訪ねた。
習慣1. しっかり机に向かう
撮影:野口羊
唯一無二の着眼点で、奇想天外な発明を生み出し続ける藤原さん。アイデアを生み出すべく日々大事にしていることは“ちゃんと机に向かって考える時間を取ること”だと言う。
「生活をしている中でふとアイデアが降りてくることもありますが、ひらめきはあんまり当てにしていないんです」
藤原さんは仕事中、このボールペンしか使わない。
撮影:野口羊
頭に浮かんだ言葉を次々と書き連ねる。絵よりも、言葉でアイデアをまとめることが多い。連想ゲームのようにいくつもの単語が繋がり続け、気づいたときには“無駄の設計図”ができあがる。
しかし、アイデアの種を次々とノートに書き連ねられるのは、日々生きる中で得られる小さな気づきや材料があるからこそ。
撮影:野口羊
「何も考えない時間も“考えるために必要なこと”だと思うので、あえて何も考えない瞬間を作るようにもしています」
集中してノートに書き出すのは、ぼーっとしていたときに浮かび上がったいくつもの小さな思いつき。すぐに忘れてしまいそうなくらい些細なものでも、思い出しながら書き留めていく。
考えるために、考えない。藤原さんにとって、ちゃんと机に向かう瞬間と同じくらい“思考の余白”も大切なのだ。
習慣2. ワクワクした状態のまま手を動かす
撮影:野口羊
意外なことに、ノートにアイデアを書き留めてからどんなものを作るのかは、1日で決まることが多いそうだ。
実際に手を動かすのは、翌日。可能な限り、その日の内に完成させられるよう意識していると藤原さんは言う。
「何日もかけて作ると飽きちゃうので。気持ちの面とか、心が惹かれている瞬間を大事にして作っている感じですね」
(オンライン飲み会緊急脱出マシーン。「ヨミコミュ」の名で製品化もされている)
撮影:野口羊
ノートに書き留めた6〜7割くらいの設計図から、イメージを膨らませて作っていく。昔から勢いで何かをすることが好きだったという藤原さんは、ワクワクした状態のまま手を動かすことを大切にしている。
いつ見ても斬新で新鮮な作品たちは、こうしたところから生まれてくるのだろうと思った。
習慣3. SNSのアプリをスマホに入れない
撮影:野口羊
“何も考えない瞬間”も大切にする藤原さんは、スマートフォンにSNSアプリをほとんど入れていない。SNSを触るのは、仕事のときだけ。Twitterもパソコンから投稿しているそうだ。
「スマホもあまり触らないし、それで思考を止めている感じはありますね」
思考を止める瞬間と、集中して考える瞬間。ある程度の線引きを持ちつつも、時にはゲームに熱中して仕事がおぼつかなくなることもあるという。
意識的に思考の余白を設ける反面、好きなものには忠実であり続けるバランス感が、調子を整える一つのきっかけとなっているのかもしれない。
習慣4. 瞑想をする
撮影:野口羊
約3カ月前から始めたという、瞑想。スマホのタイマーを使って、3分間だけ呼吸に集中する。寝る前に実践し、最近は1週間ほど継続して瞑想を行なっている。
何も考えない時間を持つために散歩をすることもあるそうだが、寝る前の “何もしないための3分間”もアイデアを生み出すための大切な余白となっている。
習慣5. 生活の中で思いつきを実行してみる
撮影:野口羊
2022年末に体調を崩して、しばらく休養を取っていたという藤原さん。何もせずに過ごす中で心が落ち込み、さらに体調を崩す日々が続いてしまった。
「何もしないことを肯定したいのに、何もしないことで自分の生活に価値がないような気がして、心が苦しくなったんです。生産性とかで判断できない部分を肯定したくて活動しているのにって」
調子を取り戻せたきっかけは、やはりアイデアを生み出し続けることだった。しかし、それは『無駄づくり』に限ったことではなかった。
最後までできるかわからないけれど、新しいゲームを最後までやってみる。やったことないけれど、レゴを買って組み立ててみる。
世の中にインパクトをもたらす大きなアイデアではなくても、身の回りにある小さなアイデアを取り入れていくことが調子を整えるきっかけとなった。
以前、嫌いな食べ物だけでパーティを開いたこともあるという。藤原さんは椎茸が好きではない。
撮影:野口羊
「5月中は絶対に傘を差さないと決めて生きています。雨に濡れようと思って濡れるのって、結構楽しいなと感じました」
自らが楽しいと感じるアイデアを生み出し、実行する。何かの価値が生まれるわけでもないが、小さなアイデアを実現していくことで毎日が整う。さまざまなことを試す中で、昨日よりも今日が豊かになるのだ。
これから整えていきたいこと
撮影:野口羊
藤原さんは無駄なものを生み出すプロフェッショナルだが、「『無駄づくり』が生活の全てではありません」と語る。
友達や家族、ゲームや映画など、好きなものがたくさんある。あくまでその中の一つに『無駄づくり』が存在しているからこそ、藤原さんにとって生活を整えることは何よりも大切だという。
「ちゃんと自分と向き合って、いろんな意見に触れて、好きなものをどんどん見つけていきたい。最近は生活が楽しくないと感じることもあるので、アイデアを生み出しながら生活をもっと充実させたいなと思っています」
藤原さんはこれからどんな“好き”を見つけて、どんな“無駄”を生み出していくのだろうか。その発明が照らす未来を、早く見てみたい。
藤原麻里菜
コンテンツクリエイター、文筆家、株式会社無駄 代表取締役社長。
頭の中に浮かんだ不必要な物を何とか作り上げる「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコンテンツを広げている。