Roar Socialを創業したロバート・ワイス。
Roar Social
Facebookで流れる誤報や、TikTokでのプライバシーへの懸念、イーロン・マスク(Elon Musk)のTwitterをめぐって絶え間なく広がる論争など、SNSはイメージに問題を抱えている。
だからこそロバート・ワイス(Robert Weiss)は、悲観的な情報ばかりの検索から悲観的なものを取り除くことができる、より良いSNSを立ち上げる時が来たと考えている。
ワイスはロサンゼルスタイムズとニューズウィークでジャーナリストとして働いた後、FXやVH1などのテレビネットワークで役員を務め、その後ファン・ドラゴン(FanDragon)、ロック・ユー(RockYou)、ポール・パルス(PollPals)など複数のテック企業を経営してきた。
「従来のSNSは滅茶苦茶なので、本当にディスラプションの機会はあると考えている」とワイスは言う。それが、「人間は生まれつき利他主義である」という考えに基づいたSNSのスタートアップ、ロアー・ソーシャル(Roar Social)をワイスが設立するに至った理由だ。
エンジェル投資家やファミリーオフィスから約1000万ドル(約14億5000万円、1ドル=145円換算)の資金を調達し、MTVのクリエイターやビル&メリンダ・ゲイツ財団(Bill and Melinda Gates Foundation)の元CEOなど著名人揃いのアドバイザリーボードを誇るロアー・ソーシャルが、水面下での活動から抜け出し、いよいよローンチする。
このプラットフォームは、ワイスが「ゲーム化された寄付(gamified giving)」と呼ぶものを軸に構築されている。
「エンゲージメントと社会的影響を結びつけるというアイデアです」(ワイス)
他のプラットフォームと同様、クリエイターはロアー・ソーシャル上で猫の動画や料理のチュートリアルなどのバズるコンテンツを投稿する。しかし、ロアーでは「いいね」ボタンの代わりに「ギブ(寄付)」ボタンが置かれ、これによりユーザーは気候変動、ホームレス、LGBTQ+の権利など、あらかじめ選択しておいたテーマに対して、1セント程度の少額寄付を行える。
理論的には、ロアーのクリエイターは少しずつ実績を積みつつフォロワーを増やし、一方のユーザーは救いようのない気分を味わうことなく無心に検索行為にふけることができる。しかし、分断や分裂を招くようなコンテンツが報われがちなSNSの状況で、ロアーの善意あふれる精神がどこまで実現性のあるビジネスになるのかについては疑問が残る。
ワイスは、ロアーのビジネスモデルは少なくとも最初はFacebookやTikTokのビジネスモデルほどの収益性は上がらないと認めつつも、ユーザー、特に若いユーザーが、支援することが心地よいと感じられるブランドを築くことで差別化を図ることはできると確信している。
これはひとえに、他の多くのプラットフォームに欠けている領域、つまり「コンテンツモデレーション」の技術を習得できるかどうかにかかっている。
「必要とあれば、数百人のユーザー、数千人のユーザーを追放することになるでしょうね」とワイスは言うが、そうすることで成長が損なわれるおそれがあることも十分に理解している。
「問題を起こし、プラットフォームにやってきて騒動を引き起こす人たち。そういう不愉快なユーザーはいりません。私がほしいのは適切なユーザーです。適切なユーザーを獲得するには、少し辛抱強くならなければいけません」(ワイス)
仮にロアーの「目的のある投稿」モデルが軌道に乗ったとしても、既存の企業に模倣されてしまう可能性もある。TikTokがインターフェースに少額寄付機能を追加するようなことは容易に想像がつく。ワイスもその可能性は高いと思っているが、既存のプラットフォームは、ブランドに利他主義を取り入れるにはすでに障害を多く抱えすぎているとも考えている。
「マクドナルド(McDonald's)がフィレステーキを売るとしても、それを止めるものは何もありません。マクドナルドならうまくやれるでしょう。安い値段でやるでしょうが、実際のところ誰もフィレステーキを買うためにマクドナルドには行きません。
もしあなたが16〜36歳だったとして、クリエイターの素晴らしい能力を善事のために活用したいと思うなら、おそらく従来のプラットフォームではやらないでしょう」(ワイス)
既存のSNSに代わるより良い選択肢をつくろうとしているのはワイスだけではない。イーロン・マスクがツイッターを買収すると、多くのユーザーがオープンソースプラットフォームの「Mastodon(マストドン)」に目を向けたし、ツイッターの共同創業者であるジャック・ドーシー(Jack Dorsey)が開発した「Bluesky(ブルースカイ)」はローンチ以降、文化的な名声を積み上げてきた。しかし、こうした選択肢のいずれかが大ヒットするかどうかは未知数だ。
ワイスの行く先に困難な戦いが待っていることは間違いない。わずか1000万ドルの軍資金で、ユーザーの獲得・維持に数十億ドルを費やす競合他社に立ち向かおうというのだから。
それでも、自分の価値観を曲げるくらいなら、この会社が失敗するのを見届けるほうがマシだ、とワイスは言う。
「朝目覚めて、よしSNS企業を立ち上げようと思いつきで決めたわけではありません。これは目的を達成するための手段なんです」(ワイス)