2023年5月1日、ホワイトハウス・ローズガーデンでのジョー・バイデン大統領。
AP Photo/Carolyn Kaster
- バイデン大統領は2023年6月28日、「バイデノミクス」と呼ばれる自身の経済計画について演説を行った。
- この演説では、アメリカの好調な経済データと、まだまだやるべきことがあるという事実が強調された。
- だが多くのアメリカ国民は、保守派と共和党によって阻まれた選挙公約をまだ待っている。
ジョー・バイデン(Joe Biden)大統領は、就任以来の経済発展を象徴する「バイデノミクス(Bidenomics)」に全力を注いでいる。だが、大統領の実績ばかりが取り沙汰される中、民主党のTo Doリストにはまだ重要な項目が残されていることを指摘しないわけにはいかない。
2023年6月28日、バイデン大統領はシカゴで演説を行ない、景気回復を促すために自分の政権がこれまで行なってきたこと、そしてその勢いを持続させるためのビジョンをアピールした。
「今日、アメリカは高い経済成長率を誇り、新型コロナウイルスのパンデミック以降、世界経済をリードしている。世界で最も高い」とバイデン大統領は演説の中で述べた。
「皆さん、これは偶然ではない。これがバイデノミクスの成果だ。バイデノミクスとは、富裕層を優遇するものではなく、中間層が経済を主導するだ」
景気回復と労働市場の健全化の兆しから判断するならば、バイデノミクスはうまくいっているように見える。2022年7月までには新型コロナウイルスのパンデミックの間に失われた雇用はすべて回復し、失業率は依然として低く、2023年1月には1969年以来の最低を記録した。アメリカでは2023年5月には33万9000人の雇用が増加し、あらゆるデータが好調な経済を示している。
さらに、インフレ率は歴史的な水準に照らし合わせると依然として高いものの、バイデン大統領就任以来、上昇率は着実に低下している。直近では、インフレ率を示す消費者物価指数が2023年5月までの12か月間で4.0%上昇し、2023年4月の前年同月比の上昇率4.9%を大きく下回っている。そして、2023年は景気後退の懸念とともに始まったが、国家経済会議(NEC)のラエル・ブレイナード(Lael Brainard)委員長は6月27日の記者会見で、「実際のデータで見られるのは、多くの回復力だ」と述べた。
しかし、それでも人々はアメリカの景気を良く思っていない。ギャラップ(Gallup)の世論調査によると、76%のアメリカ人が経済状況は悪化していると考えている。その隔たりは、バイデノミクスが手をつけられない主要な立法上の優先課題に行きつくかもしれない。つまりそれは共和党と、民主党保守派の両方によって妨害されてきたものだ。
このデータだけでもバイデン大統領は多くをアピールしている。だが6月28日の演説で、多くのアメリカ人がまだ当てにしている選挙公約、そして民主党の優先事項があることが明らかになった。コミュニティ・カレッジの無償化から最低賃金の引き上げまで、バイデン大統領の政策はすでに障壁に突き当たっており、大統領2期目に当選した場合に何ができるかは未知数だ。
バイデン大統領の今後の課題
バイデン大統領は、想像を絶するような経済的危機から国家を救い出さなければならなかったフランクリン・デラノ・ルーズベルト(Franklin Delano Roosevelt)大統領にしばしば自分を重ね合わせている。類似点のひとつは、バイデンが景気回復のために何兆ドル(何百兆円)もの資金を投入しようとする動きが、ルーズベルトの経済政策「ニューディール政策( New Deal)」の規模に匹敵するものであることだ。だがバイデン大統領には、ルーズベルト大統領を支持したような強力な協調体制はない。
バイデン大統領は選挙公約のいくつかをまだ達成していないが、それは努力が足りないからではない。民主党の議員たちは、大統領の米国救済計画(American Rescue Plan)の中に、就学前教育とコミュニティ・カレッジの2年間無償化を盛り込もうとした。だが結局、民主党中道派のジョー・マンチン(Joe Manchin)議員の反対によって、この政策は白紙に戻された。同様に、米国救済計画に最低賃金15ドル(約2117円)を盛り込もうとする動きも、50人の共和党議員だけでなく、8人の民主党議員によって否決された。また、連邦政府の有給休暇を保証する「ビルド・バック・ベター法案(Build Back Better Act)」も、全共和党議員とともに民主党の保守派議員らによって阻まれている。
それでもバイデン大統領は、自身がホワイトハウスを去る前にコミュニティカレッジの無料化を実現すると約束している。
2021年、「私はそれを成し遂げるつもりだ」と、バイデン大統領はテレビ番組「CNNタウンホール(CNN Town Hall)」でアンカーマンのアンダーソン・クーパー(Anderson Cooper)に語っている。「もしそうしなければ、私は長い間ひとりで眠ることになるだろう」と彼は言ったが、これはコミュニティカレッジの教師である妻ジル・バイデン(Jill Biden)のことを指しているのだろう。
学生ローンの免除など、バイデン大統領が推進してきた他の主要政策も保守派によって阻まれている。バイデン大統領は2022年8月に、1人あたり最大2万ドル(約289万円)の債務負担を軽減する包括的な救済措置を発表したが、2つの訴訟によってこの救済も阻止されおり、さらにアメリカ連邦最高裁は6月30日、バイデン政権による学生ローン返済の一部免除措置を認めない判断を下した。
だからと言って、バイデン政権は主要な政策課題において何もせずに傍観しているわけではない。それどころか、新たなテクノロジー拠点での手頃な料金の保育サービスや、連邦政府の請負業者に最低賃金を15ドル(約2170円)を義務付けたりするなどしたり、より回りくどい方法を取ることを余儀なくされている。2024年決まるのは、その変化が有権者にとって十分だったかどうかだ。
「私はここで経済の勝利を宣言するつもりはない。私がここで言いたいのは、我々には信じられないほど早く事態を好転させる計画があるということだ。我々にはまだやるべきことがたくさんある」とバイデン大統領は話している。