フルのアイアンマンレースは、スイム3.8km、バイク180km、ラン42.195km、合計距離226kmで競われる。写真はハーフ・アイアンマンのトレーニング中の筆者。
Courtesy of Kathleen Elkins
2022年、友人とアイアンマンレースに出場しようということになったが、そのとき自分は、肉体的、さらには経済的にどれだけのものを捧げることになるのか、完全には理解していなかった。
結果的にトライアスロンはお金がかかる趣味であることがわかった。ランニングが趣味の私は、レクリエーションに大金を使うことに慣れていない。ランニングに必要なお金は、年一足のシューズとレース参加費のみだ。
フィジカル面に関して言えば、アイアンマンレースは、3.8kmのスイム(水泳)、180kmのバイク(自転車)、42.195kmのラン(マラソン)を17時間以内に終わらせる必要がある。
2022年7月にこのレースに登録した時、私の水泳の実力は、ウィリアムズ大学1年生のときに、必修の水泳テストに合格する程度だった。自転車の乗り方はだいたいわかっていた。しかし、自転車、サイクリングシューズ、クリートなどの必需品を何も持っていなかった。
つまり、ほぼゼロからのスタートであり、お金がかかった。
結局、2022年7月19日の出場登録から2023年6月18日のレース当日、スタートラインに立つまでに、5000ドル(約72万5000円、1ドル=145円換算)を優に超えるお金がかかった。
アイアンマンレースに参加するためにかかった費用の一部を紹介しよう。
- レース参加費:1100ドル(約16万円)。オーストリアのケルンテン州クラーゲンフルトで行われるアイアンマンのフルレースは参加に700ドル(約10万円)かかった(信じていただけると思うが、これは「早割特別料金」だった。登録がレース当日に近づくほど、参加費は高額になる)。また、トライアスロンのキャリアを「フル」から始めないことが強く推奨されていたので、友人も私もトライアルとしてのハーフ・アイアンマンレースに登録した。このレースはテキサス州ガルベストンで行われ、参加費は400ドル(約6万円)だった。
- 中古ロードバイク:550ドル(約8万円)。友人の友人から「スペシャライズド(Specialized)」の古いモデルを安く譲ってもらった。しかし、ロードバイク本体は自転車関連の出費の始まりにすぎなかった。
- ロードバイクのメンテナンスと追加パーツ:580ドル(約8万4000円)。私は手に入れた中古ロードバイクをすぐにREIで120ドル(約1万7000円)かけてチューンナップした。さらに150ドル(約2万2000円)かけて「バイクフィット」を行った。これは乗り手の全体的な快適性を高めるために専門家が調整を行う作業だ(これは間違いなく、最も有益な出費だった)。さらに、領収書には、新しいタイヤ、タイヤのゴムチューブ、自転車修理キットなど、さまざまな自転車部品や工具に170ドル(約2万5000円)を費やした明細が記載されている。加えて、ガルベストンのハーフ・アイアンマンレースのメカニックに140ドル(約2万円)を支払った。レース当日までにバイクを調整して、しっかり走行できるようにしてもらうためのものだ(このお金の使いみちも有益だった)。
- 屋内用バイクトレーナー:650ドル(約9万4000円)。私は、ロードバイク自体よりも、その練習のための器具に多くを費やした。これは純粋に安全を重視した買い物だった。私が住んでいるロサンゼルスの道路を走るのは危険だと感じたので、トレーニングのほとんどを屋内用のスマートトレーナーで行うことにした。
- ロードバイクの運搬:570ドル(約8万3000円)。登録した両方のレースに空路で行く予定だったので、自転車の持ち運び用のバッグを購入する必要があった。これは高いものだと1000ドル(約14万5000円)かかるが、私はFacebook Marketplaceで300ドル(約4万4000円)の中古バッグを見つけた(これはあまり良いお金の使い方ではなかった。値段重視でバッグのサイズと機動性を妥協してしまった。この300ドルのバッグでテキサスまで移動するのはたいへん厄介だったので、オーストリアへの持ち込みはやめて、現地でレンタルすることにした。オーストリアでのバイクのレンタルの料金は250ユーロ〔約4万円〕だった)。
旅費を計算に入れないでも、金額はすでに3500ドル(約50万円)近くになっている。航空券、ホテル、レンタカーを合わせると、総額で5000ドル(約72万5000円)は優に超える。
サイクリングショーツやビブなどの装備、週に4回、1時間4ドル(約600円)で予約していた公共プールのスイミングレーン、そして1日2回のトレーニングを継続するうえで必要な追加のカロリーなど、時間の経過とともに小さな出費も積み重なっていったことは言うまでもない。
空き時間すべてと給料のかなりの部分を投資して1年が経過した2023年6月、私はついに本番を迎えた。スイム、バイク、ランで合計226kmを完走するのに14時間14分を要した。まさに精根尽き果てる長いイベントだった。私は、これに出場するために多くのお金を払ったことを自分自身に言い聞かせ続けた。
そして、お察しのこととは思うが、私はもう一度チャレンジするだろう。少しも後悔しておらず、その理由も自分でわかっている気がする。
1. 規律正しくすること、目標を設定することの重要性を学んだ
目標の達成、特にそれがアイアンマンレースの完走と同じくらいのスケールで、かつ具体的な場合には、規律と集中力が要求される。週に最大6日間、約17時間のエクササイズを要した6カ月のトレーニングプログラム中は、仕事、運動、食事、睡眠、それでだけで終わりだった。
トレーニング中に、私はインタビューした人たちのことを思い出した。数十万ドルの借金の返済だったり、最初の家の購入だったり、大きな貯蓄目標を持っていた人たちだ。彼らは目標とその達成を望む日付を設定する。それから計画を立て、そこに向かって突き進む。多くの場合、自由裁量の支出を排除し、旅行や高価なグループディナーなど、自分の進む道から逸らされるものに対して「ノー」と言うことを学ぶ。
しかし、彼らがそれを続けられるのは、終わりの日があるからだ。たった一つの目標のために、永遠に犠牲を払う必要がないことを彼らはわかっている。初めての住宅購入のために多くを諦めたある女性は、インタビューで「期限があれば、何でもできる」と語っていた。
アイアンマン・オーストリアを完走した著者。
Courtesy of Sportograf
何カ月間ものライフスタイルの変更を要する大きな目標を設定し、その目標を達成することは、満足感以上のものを与えてくれる。筋肉も鍛えられる。目標を設定し、計画を立て、それを達成し、その達成を祝えば、次回はおそらくより野心的な目標を持って、そのプロセスを繰り返すことができることがわかる。
たとえレースのすべてが苦痛で、次のレースには絶対に出たくないと思ったとしても(残念ながら、私の体と銀行口座にとってはそうではない)、何か困難なことにトライして実践するという、自分自身に挑戦することで得た自信のおかげで、後悔することはなかっただろう。
目標を設定し、計画を立て、計画を実行し、それを祝うという行動パターンは、5kmレースやアイアンマンレースから、週末の旅行や家の購入のための貯金まで、大小を問わず何にでも当てはめることができる(また、そうすべきだ)。皆さんも試してほしい。特に実行の段階では、すべてが晴れやかで虹がかかっているわけではないが、全体としてはたいへん満足感の高いプロセスとなる。
2. 自分の健康への投資でもあった
ジムの会員登録から栄養士を使うことまで、健康に投資する方法はさまざまだが、私がおすすめするのは、ハーフマラソンのようなレースの予定をカレンダーに書き入れることだ。私にとって、レースは一貫して走るモチベーションを維持してくれるので、体のコンディションを維持するうえで、とてもシンプルだが効果的な方法となっている。
アイアンマンレースは、10kmレースやマラソンよりもはるかに多くの時間とお金の投資だった。トレーニングのおかげで私の健康は保たれ、これまで経験したことのない形で睡眠と栄養を優先するよう仕向けられた。レースが終わった今でも、その恩恵を受け続けているだろう。
いま私には、何年も使えるロードバイクや屋内用トレーナーなどの器具がある。さらに、水泳とサイクリングという、2つのまったく新しいスポーツに出会った。これらのスポーツは身体への負担が少なく、ランニングよりもはるかに取り組みやすいと感じている。
アイアンマンレースに出る前は、エクササイズとして水泳や自転車をやるとは考えもしなかった。楽な道を選んで自分のやり方にこだわるのは簡単だ。私の運動ルーティンはランニングで、それに慣れ親しんでいた。私にとって、ランニングは気楽で何も考えずにできる。
トライアスロンはその逆だった。オープンウォーター(ほとんどのアイアンマンレースは川、湖、海で行われる)での泳ぎ方を学ぶのは本当にカオスだった。プールでの泳ぎですら学びがあった。ラップスイミングのエチケットや「サークルスイム」などの概念を学ばなければならなかった。新しいことに挑戦する大切さを改めて認識した。もしかしたら、それを(最終的には)好きになるかもしれない。
3. 自分の価値観と優先順位に沿って使われたお金であり、専門家によると良いお金の使い方だという
お金の使いみちをどのように選択するかは重要だ。実際、サイコロジカル・サイエンス(Psychological Science)が発表した研究では、お金の使い方は、往々にして収入や支出の合計金額よりも重要であることが示されている。そして、ハーバード・ビジネス・レビュー(Harvard Business Review)の調査では、より幸せを感じたいのであれば、モノではなく経験にお金を使うべきだということが示唆されている。
私個人の支出に関する哲学は、常に自分の価値観に基づいて最も重要な支出を特定し、予算内にそれらの支出のためのスペースを確保して、それ以外の部分は切り詰めるというものだ。つまり、レースや健康関連の支出は優先するが、外食や服の購入などの他の出費は抑える。
アイアンマンレースを完走したことで、オープンウォーターで快適に泳ぐ術が身に着いた。
Courtesy of Kathleen Elkins
これは、パーソナルファイナンスの専門家であるラミット・セティ(Ramit Sethi)氏の「お金のダイヤル」コンセプトに似ている。彼は何年にもわたる人々の消費習慣についての講演を経て、このコンセプトを導き出した。この「お金のダイヤル」とは基本的に旅行、経験、自己啓発などの支出カテゴリーであり、そのダイヤルを強くしたり弱くしたりすることができる。彼は、どの「お金のダイヤル」が自分にとって最も重要であるかを、時間を割いて理解することをすべての人に勧めている。私にとってそれは健康と経験だ。
自分を突き動かすものがわかったら、その「お金のダイヤル」を最強にする許可を自分自身に与えなさいとセティ氏は言う。それ以外のダイヤルは弱くするのだ。言い換えれば、自分にとって重要でないものにはお金を使わないということだ。
「幸福をもたらすものに使えるお金とエネルギーが増えるだけでなく、他のすべてのことには目を向けず使えるお金を解放したことがわかっているので、罪悪感なくそれらにお金を費やすことができるようになる」とセティ氏は書いており、次のように続けている。
「自分が自然に好きで、お金を使いたい分野があることを認識することに問題はない。お金のダイヤルは人それぞれ異なるため、自分の支出について他人がどう思うかは関係ない」
確かに、誰もが14時間の過酷なレースを完走するために数千ドルを投じるとは思えない。しかし、私にとってはそれだけの価値があったのだ。