「風の谷のナウシカ」パンフレットとスタジオジブリが制作した「金曜ロードショー」のオープニングムービーに登場するキャラクター「フライデーおじさん」。
Business Insider Japan
日本テレビ系の映画番組「金曜ロードショー」は宮崎駿監督作品『風の谷のナウシカ』を7月7日に放送するのを皮切りに、3週連続でジブリ作品を扱う。
時同じくして、東京・天王洲の寺田倉庫では金曜ロードショーとスタジオジブリ作品の関係や歴史に焦点をあてた企画展「金曜ロードショーとジブリ展」が開かれている。
展示では、各作品の劇場公開当時や金曜ロードショーでの放送時の時代背景を関係者の証言とともに紹介。宮崎駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』の公開が7月14日に迫る中、過去の作品がどのような世相の中で生まれ、受容されていったのかを知るヒントになりそうだ。
「1985年」を起点に“金ロー”とジブリの歩みを展示
“金ローとジブリ“の歴史をたどる展示。
(C)Studio Ghibli
宮崎監督の『風の谷のナウシカ』が制作・公開されたのは、スタジオジブリ設立前の1984年だった。
翌85年4月には、放映権を取得した日本テレビが「特別ロードショー」枠で『ナウシカ』をテレビで初めて放送。原作本のプレゼント企画を告知すると、大量の応募ハガキが送られてきたことは関係者の間で語り草となっている。
そこから2カ月後の同年6月に「スタジオジブリ」が設立され、10月には「水曜ロードショー」の放送日が移動し、「金曜ロードショー」に。「ナウシカ」は、日テレ・金曜ロードショーとジブリの協力関係の“原点”でもあった。
1985年は“終戦”から40年という節目の年。のちにバブル景気の発端となる「プラザ合意」が成ったのも、この年の9月だった。
「金曜ロードショー」放映開始当時の番組表。
撮影:吉川慧
以来、金曜ロードショーは200回以上にわたってスタジオジブリ作品を放映。日本テレビは製作委員会への参加や人的交流などを通じ、スタジオジブリと密接な関係を築いてきた。
スタジオジブリが制作した「金曜ロードショー」のオープニングムービーに登場するキャラクター「フライデーおじさん」。宮﨑駿監督が生み出し、『耳をすませば』の近藤喜文監督が仕上げたもの。
撮影:小林 優多郎/(C)Studio Ghibli
鈴木プロデューサー「トトロは“金ロー”のおかげで有名になった」
スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサー(「金曜ロードショーとジブリ展」開会セレモニー)
(C)Studio Ghibli
金曜ロードショーでの地上波放映は、ジブリ作品に親しみがない人にも、その魅力や普遍性を幅広く伝える大きなきっかけにもなっている。
2003年1月の『千と千尋の神隠し』テレビ初放送は46.9%(関東地区・ビデオリサーチ調べ)の高視聴率を記録した。
撮影:小林 優多郎/(C)Studio Ghibli
日本国内の動画プラットフォームで、ジブリ作品は配信されていない。そのため、DVDを持っていない人や劇場公開当時に映画館で見たことがない若年層にとって、金曜ロードショーはジブリ作品との接点の一つになっているようだ。
時代を問わない「普遍性」もジブリ作品の特徴だ。例えば、コロナ禍の2020年の年末、金曜ロードショーでは「ナウシカ」を放送。外出時にマスクをつけることが日常となっていた当時の社会状況は、ナウシカの世界観とも重なる。作品を見て、人間と自然の共生関係を改めて考えるきっかけになった人も少なからずいることだろう。
鈴木敏夫プロデューサーは、番組の影響力についてこう語る。
「ジブリってご承知のように『風立ちぬ』(2013年公開)のあと、確かに『アーヤと魔女』(2020年)というのはあったけど、おそらく約10年、映画を外へ出してなかったんですよ。そういう時、改めて思いましたね。皆さんがジブリのことを忘れないでいられるのは、金曜ロードショーに負うところがものすごく大きい」
(2023年6月29日「金曜ロードショーとジブリ展」開会セレモニー)
「『金曜ロードショーとジブリ展』というタイトルでイベントをやろうよと言ったのは、僕が言い出しっぺだった。10年間、色々な作品を出していないのに、色々な人が支持してくれるときに、金曜ロードショーの存在がやっぱり大きかった。
若い人たちと話すと、皆さん必ず僕に対して『(スタジオジブリの作品を)映画館で見ていないんですけれど……』『テレビで見ているんですけれど……』と言われまくったんです。それが多分、ヒントですよね」
(2023年6月29日「金曜ロードショーとジブリ展」開会セレモニー)
撮影:小林 優多郎/(C)Studio Ghibli
金曜ロードショーの元プロデューサー・門屋大輔氏も、「適度なインターバルを空けながら」ジブリ作品を放送したことが、ジブリファンの裾野を拡げることに寄与したと分析している。
「ジブリは金曜ロードショーで育ったと僕は思っているんですよ。ジブリの作品がすごいのは、『ナウシカ』にしても『ラピュタ』にしても『トトロ』にしても、普遍的な作品であるということ」
(『金曜ロードショーとジブリ展〈公式図録〉)
本展では、鈴木プロデューサーが1989年に『となりのトトロ』(88年劇場公開)をテレビ初放送をした当時の思い出を語る短編映像も放映。興行的にはあまりふるわなかった劇場作品が、地上波放映で大きな反響を受けた手応えについて回顧している。
撮影:吉川慧/(C)Studio Ghibli
「トトロは“金ロー”のおかげで有名になった」
(鈴木プロデューサー)
「金曜ロードショーとジブリ展」(東京会場)は9月24日まで、日時指定の予約制。10月からは富山県美術館へ巡回する。