米マスターカード(Mastercard)のエンジニア待遇が「神すぎる」と話題のようだ。
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米クレジットカード大手のマスターカード(Mastercard)は、伝統的な金融サービス業からハイテク企業へと変貌を遂げるため、エンジニアがワクワクしながら働ける会社を目指している。
同社はいま、世界7カ所に設けた「テックハブ(Tech Hub)」で開発者を積極的に採用している。優秀な人材を惹きつけ、やりがいを持って働き続けてもらうために、エンジニアにとって最高の環境と組織文化を築き上げようとしているところだ。
マスターカードのAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)担当エグゼクティブバイスプレジデントであるオラン・カミンズ氏は、次のように語る。
「マスターカードが伝統的な金融サービス業だと思って入社した人は、最初に職場に足を踏み入れた時、少し驚くかもしれません。まさにテクノロジー企業そのもの——それが、新たに入社した人たちが最初に受ける印象だと思います」
世界的なカードブランドとして知られる同社は「オープン・バンキング」を推進するリーダー企業でもある。
オープン・バンキングとは、銀行がAPIを公開することで、銀行以外の第三者が自社サービスと口座情報をひも付けられる仕組みで、決済サービスと他のさまざまなサービスの融合を進める取り組みだ。
マスターカードは、テクノロジー、プロダクト、セールス、コンサルティングの各分野で人材を募集している。
テクノロジー分野の内訳は、ソフトウェアアーキテクト、ITとサイバーセキュリティ全般のプロダクトディベロッパー、プロジェクトマネージャー、クリプト(暗号)と人工知能(AI)の専門家などだ。
同社が2019年12月に買収したサイバーセキュリティ(リスク評価)関連のスタートアップ、リスクレコン(RiskRecon)の人材募集も同時に行っている。
マスターカードのAPI担当エグゼクティブバイスプレジデント、オラン・カミンズ氏。
Mastercard
カミンズ氏によると、マスターカードでは実稼働する自社のシステムやプログラムでイノベーションを起こす仕事に携わることができ、それが技術者たちの大きなインセンティブになっているという。
「マスターカードには『システムはスケールして(利用者が増えて)こそ意味がある』という格言があります。誰も使わないソフトウェア開発に携わりたいと思うエンジニアはいません」
マスターカードのオープン・バンキング事業では、開発中のアプリケーションのコードを1日に何度も更新するようなプロジェクトもあれば、グローバル規模にスケールアップするためにリリースまでに数カ月を要するプロジェクトもある。
開発者には「自由裁量時間」が与えられる
マスターカードの開発者たちには、業務時間の一部を自分の興味や関心があるテーマに充てられる、いわゆるペットプロジェクト(自分なりのアイデアとして暖めてきた企画)に取り組む時間が与えられている。
社内では「オートノミー・デイズ(自主の日)」と呼ばれ、ある開発者はこの自由裁量時間を利用して、カスタマーサポートに送られてくるメールを自動的に分類するプログラムを開発した。
社内のサーバー側の画面に、目の疲れを軽減するダークモードを設定できるようにした開発者もいる。
「自主の日」に生み出した成果によって、同僚たちから賞賛を受けている開発者は少なくない。
カミンズ氏によれば、マスターカードが求めているのは「乗数効果(multiplier effect)」を発揮できる人材だ。つまり、自分一人で何ができるかということだけでなく、周りの人たちを巻き込み、彼らに良い影響を与えて、組織全体の水準をいかに引き上げることができるかを重視している。
同氏によると、マスターカードの技術職の求人広告に記載されている資格や職責は、幅広いスキルを持つ多様な人材を集めるため、意図的に曖昧(あいまい)にしているという。
マスターカードはエンジニア採用のためのチャネルとして、ビジネス特化型SNS「リンクトイン(LinkedIn)」を中心に、学生向けの採用掲示板「ハンドシェイク(Handshake)」、スタートアップやテック企業のための求人コミュニティ「ビルトイン(Built In)」、アフリカ系・ラテンアメリカ系のコンピュータサイエンス専攻の学生向けの就職支援サイト「カラースタック(ColorStack)」を活用している。
マスターカードの求人ページに掲載されている情報によると、ニューヨークを拠点とするソフトウェアエンジニアの責任者クラスの年収範囲は、15万8000〜24万5000ドル(約2275万〜約3528万円)となっている。
技術者は、ニューヨーク、ダブリン(アイルランド)、シドニー(オーストラリア)、バンクーバー(カナダ)など世界7カ所のテックハブのいずれかに籍を置き、イノベーションとコラボレーションに取り組むことになる。
マスターカードのニューヨーク・テック・ハブには、バリスタが常駐するコーヒーバーが備えられている。
Mastercard
例えば、ニューヨークのテックハブは、フラットアイアン地区の5番街に位置するモダンな建物に入居している。室内の壁を覆う苔(こけ)や天井からぶら下がる植物が気持ちを落ち着かせ、広い窓越しにニューヨークの摩天楼を一望できる。
そこで働く人たちは屋上やバルコニーを利用できるほか、オフィス内で自由に席を移動できるようにポータブル充電器が用意されている。バリスタが常駐するコーヒーバーもある。
社員はリモートワーク、オフィス勤務、もしくはそれらを組み合わせたハイブリッドワークのいずれかを選択できる。また、1年のうち最大4週間、世界中どこにいても勤務できる「ワーク・フロム・エルスウェア(Work from Elsewhere)」という制度もある。
「マスターカードはいまや、たまたま金融サービス業を営んでいるハイテク企業と言っていいでしょう。オフィスのエントランスを抜ければ、すぐにその雰囲気が伝わってくるはずです」(カミンズ氏)