MWC上海でファーウェイは5.5Gの商用化スケジュールを明らかにした。
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アジア最大のモバイル関連の見本市「MWC上海」が6月28~30日に開かれた。2年ぶりの開催となった今大会は、市場の落ち込みが止まらないスマートフォンに代わって、中国で商用化されて4年が経つ5Gの活用とその次の技術が話題の中心になった。そこには日本からは見えない、6Gに向けたある活発な動きがあった。
スマホ市場低迷で5Gが主役に
MWC上海は2020年と2022年が新型コロナウイルス感染拡大で中止となり、2021年2月もオンラインとのハイブリッド開催だった。同年の来場者は約1万7500人、オンライン参加が7000人。出展企業・団体は220社。当時、中国はゼロコロナ政策下で厳しい入国制限を導入しており、海外からの来場は困難だった。
今大会は海外からの3000人を含め計約3万7000人が来場。出展企業・団体も300社に増え、コロナ前の水準に近づいた。ただ、米中関係の悪化を背景に欧米からの参加者や出店企業は減っており、ビザ免除措置が停止されていることから日本からの参加者も少なかった。筆者もぎりぎりでビザが降りて、4年ぶりに中国に入ることができた。
MWC上海の開催が途切れ途切れになっていた間に、中国のモバイルを取り巻く状況は大きく変わった。スマートフォン市場は2022年に大きく落ち込み、シャオミ、OPPO、vivoの中国大手はいずれも後退。2019年に世界2位だったファーウェイは米国の制裁によってトップ5位からも転落した。
2023年の市場も低迷しており、MWC上海でスマホの影は薄かった。一方、コロナ前最後のMWC上海ではまだ商用化されていなかった高速大容量の通信規格5Gは一気に進展した。
中国で5Gサービスが始まったのは2019年11月。世界で最初に導入した米国、韓国から7カ月遅れたが、コロナ禍の外出制限、非接触社会を支援する技術として5G投資が一気に拡大、ファーウェイは武漢に建設された専門病院に遠隔診療のための5Gネットワークを整備した。
中国移動(チャイナモバイル)、中国聯通(チャイナユニコム)、中国電信(チャイナテレコム)は共同で5G基地局の建設を進めた。シンクタンクの中国信息通信研究院によると、中国の5G基地局数は284.4万基で、5Gユーザーは6億人を超え、基地局数、利用者数ともに世界の6割を占めるという。
中国の5Gユーザー、世界の6割
大会初日の基調講演では、登壇者がこぞって5Gの社会へのインパクトの大きさを訴えた。最も注目を集めたのは、今年4月にファーウェイの輪番会長に就任した孟晩舟氏だ。2018年12月にカナダで拘束され、司法取引を経て2021年9月に帰国した孟氏の初めての社外イベント登壇とあって、多くのメディアが同氏の発言を速報した。
孟氏は5Gが産業と生活を大きく変え、生産性を高める原動力になっていると強調。「5Gの進化の先には必然的に5.5Gがある」と述べた。
孟氏に続いて登壇したクアルコムのジム・キャティCCO(チーフ・コマーシャル・オフィサー)は、5Gについて業界がこれまで行った中で最高の技術投資と見なされるようになると見解を述べ、コロナ禍を乗り越える重要な技術だったと評価した。
孟輪番会長は産業界における5Gの重要性を強調した。
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ただ、中国の基地局建設ペースが世界トップレベルとはいえ、実際の活用には課題がある。チャイナモバイルの幹部は、同社の5月のユーザー数の70%に相当する7億700万人が5Gプランを契約しているが、契約しながら5G対応端末や5Gネットワークを使ったことのないユーザーも少なくないと指摘した。チャイナテレコムの柯瑞文坦言董事長も、「5Gの一層の発展には業界の努力が必要だ。その価値はまだ十分に発揮されていない」と認めた。
スマホの新機種の多くは5Gに対応しているが、動画を見たり音楽を聴いたりするような使い方では、4Gでも不自由を感じない人が多い。5Gへの移行を社会的に進めるには、何らかのキラーコンテンツが必要になるというのがキャリアの共通見解のようだ。
ファーウェイの圧倒的な存在感
5G社会の実現に向けて、中国をリードしているのがファーウェイだ。同社は日本で5Gの基地局建設から事実上排除され、アメリカの半導体輸出規制によってスマートフォンの生産も制約を受けているため、日本にいると動向があまり分からなくなっている。
ただそれはあくまで表向きの話で、ファーウェイは目立つことを避けながら、日本市場でもサプライヤー開拓や法人向けの営業を従来通り続けている。ということを知っていても、海外に行くとファーウェイの元気さにびっくりするし、お膝元の中国で行われたMWCは同社の独壇場だった。
会場ではファーウェイの各部門の責任者が5G関連のソリューションを紹介するイベントが五月雨式に開催され、同社が2024年に5.5Gを商用化することも発表された。入り口すぐの最も目立つ場所に大きなブースを確保し、同社が2021年から取り組んでいる5Gを活用した産業DXの事例を紹介。5Gを進化させた「5.5G」もアピールした。
ファーウェイは上海MWCと並行して深センでも新ビジネスに関連するイベントを開いており、筆者はMWCを途中で切り上げ深センに移動した。その合間には上海と蘇州の研究施設に併設されたショールームを見学した。
上海のショールームでは裸眼で見られる3D動画、数秒で作成できる生成AIコンテンツ、VRグラスを利用したメタバース体験など、話題の新技術を従来よりなめらかに体験できる5G技術を紹介。一方、製造業が集積する蘇州のショールームでは、工場内の作業を効率化する5G技術が披露された。
一枚岩になれない欧州
中国各地にあるファーウェイのショールームでは5Gなど同社の最新技術が紹介されている。写真は上海の研究施設に併設されたショールーム。
撮影:浦上早苗
ファーウェイによると、ステークホルダーを複数の都市に案内して同社の技術やビジネスについて学んでもらう体験型ツアーや世界の通信事業者、業界パートナー、研究者などとの円卓会議や対話の実施は、今年重点的に取り組んでいる啓発活動だという。
それは2030年以降に商用化される5Gの次の規格を見据えた仲間づくりにも見える。ファーウェイが2024年の商用化を発表した5.5G技術は「ネットワーク能力を10倍に向上させ、通信事業者に100倍のビジネスチャンスをもたらす」(同社)5Gと6Gの中間的存在として期待され、同社は既に国内外の通信キャリアの支援に着手している。
アメリカは同盟国にファーウェイ排除を呼びかけるが、欧州委員会のブルトン委員は6月に開いたEUの通信相会合で、重要分野でファーウェイ禁止措置を実施している加盟国は全体の3分の1にとどまると指摘した。
筆者が訪れた各地のショールームには、アフリカや東南アジアからの見学者が多くいた。深センの研究施設に向かうバスではイタリア人グループが一緒だった。
5G市場でファーウェイを排除した日本からは、同社の市場が狭まっているように見えるかもしれないが、世界はそれほど単純ではない。そして6Gの前哨戦は既に始まっている。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。