日本からハーバード、イェールなど海外大学に進学した10名は「何が違う」? そこには英語学習の共通点があった

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「日本人は英語が話せない」と言われて久しい。だが最近は外国語でコミュニケーションをとる必要がある際、AIや機械翻訳を使って乗り切ることもできる。

これからの時代、もう英語学習は必要ないのだろうか?

『海外の大学に進学した人たちはどう英語を学んだのか』を執筆した教育ライターの加藤紀子さんは、「いくら機械翻訳の精度が上がっても、共通の言語で直接コミュニケーションを取れる強さには勝てない」と話す。

「留学はしたことがないし、TOEICの点数も悪い……」と弱気になるのはまだ早い。「英語学習に手遅れはない」と話す加藤さんに、おすすめの学習法やモチベーション維持の秘訣などを聞いた。

大切なことはインフォーマルな場所で生まれる

教育ライター/ジャーナリストで、現在は教育情報サイト「リセマム」編集長の加藤紀子さん。教育分野を中心にさまざまなメディアで取材、執筆を続けている。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)はAmazon総合1位、17万部のベストセラーに。ほか著書に『ちょっと気になる子育ての困りごと解決ブック!』(大和書房)がある。

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──加藤さんは著書『海外の大学に進学した人たちはどう英語を学んだのか』(ポプラ新書)を出されました。機械翻訳やAI技術が発展している今、英語を学ぶことの意義に焦点を当てた理由を教えてください。

まず、グローバルに活躍したり価値ある情報にリーチしたりしようと思うと、日本語だけでは厳しい現実があると思うんです。

世界的によく知られた著名人や話題の人がいても、日本のメディアがその人のことをあまり取り上げないことで、日本人の間での認知度が低いという話もよく耳にします。

もう一つ、機械翻訳もめざましく発達していますが、本当に大事なことは「インフォーマルな場所」で決まったり生まれたりしているという事実もあります。

例えば海外での商談で、クライアントとお酒の席やランチの場で自分の好きなサッカーの話をしたらとても盛り上がって、商談の成立につながったというケースもあります。

最近ではウェブ会議でも、日本語で話すと相手の画面に英語のキャプションが出る程度には技術が進んできていますが、インフォーマルな場所でそういったツールは使えません。

何かを“介して”コミュニケーションをとるのではなく、直接会話をする。やはりグローバルの共通言語である英語を話せることが、チャンスも視野も人間関係も広がることは、テクノロジーの発展に関わらず変わらないのではと思っています。

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「英語力アップ」を目的にするのはNG

──本の中では、日本の高校から海外の大学に進学した10名に加えて、3名の専門家にもお話を聞いていますね。

はい。学生たちの体験談を体系化・一般化して、さらに解像度を上げるために、専門家にもお話を伺いました。

その中の一人、応用脳神経科学者の青砥瑞人さんは日本から海外の大学に進学した経験をお持ちなのですが、学生時代は英語が嫌いで野球ばかりしてきたそうなんですね。でも実は、野球に夢中だった頃の経験が英語力アップにつながったとおっしゃったのが印象的でした。

「自分の能力は経験や努力で向上できる」ということを、野球を通じて体感していたからこそ、失敗を受け入れ、難しいことにも挑戦し、乗り越えるまで粘り強く継続することができたんですね。

──まさに「グロースマインドセット」と呼ばれる力ですね。

そうですね。スポーツを通じて培ったこの力は、英語力アップにも活かせます。青砥さんはその後苦手だった英語を克服し、日本からアメリカの大学に進学されました。

これはプロアスリートにも共通する話で、例えば海外のチームで活躍するサッカー選手たちは言葉が通じないと試合中にコミュニケーションがとれないので、とにかく隙間時間に語学を勉強するそうです。

サッカーの吉田(麻也)選手や三笘(薫)選手など、現地メディアのインタビューにも流暢に答える日本人選手の動画がインターネットにたくさん上がっています。

英語力アップを目的にするのではなく、別の目的に対して一生懸命になった結果、自然と英語が上達しているというのは大変興味深いですね。

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「混ざる」経験でコミュニケーション力を磨く

──あくまでも言語は手段の一つであり、別の目的が英語学習のモチベーションにつながっていることが分かりますね。

拙著にご登場いただいた教育起業家の小林亮介さんは、英語を習得していたとしても、いざ使うときに「この単語はこの人に対して言っていいものだろうか」など、コミュニケーションの不安を抱えている人が意外と多い、という話をされていました。

ご自身も、アメリカに住み始めた最初の頃は「大事なのは英語力そのものより、自分と異なる他者とのコミュニケーションの作法に慣れることだった」とおっしゃっています。どこに落とし穴があるか分からないから、不安で怖くて発言できない。

──小手先の勉強ではなく、本質的なコミュニケーション能力のお話ですね。

そうなんです。日本人は比較的同質性の高いコミュニティの中で暮らしていますが、都心から離れて少し地方に行くだけで、自分とは異なる世界や環境で生きている人もたくさんいる。

そういう人たちと接して、自分の意見をきちんと伝えたり、相手の思いを理解しようとしたりすることが英語でのコミュニケーション向上にもつながる、という話をされていたのが興味深かったです。

また、カリフォルニア工科大学の教授である物理学者の大栗博司先生は、大学には世界各国からさまざまなバックグラウンドを持つ学生が集まってきて、徹底的にお互いの考えを相手に分かってもらうように伝え合うとおっしゃっていました。そのやり取りのなかで、世界最先端の研究が生まれていくのだそうです。

先に述べた通り、自分とは違う背景を持った人と“混ざる”経験は、日本でもできます。英語力を上げるための土台づくりは、海外留学だけではないと言えますね。

自分に合った勉強法は一人ひとり違う

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──ちなみに、海外で通用するような英語力を身につけた人たちに共通する勉強法やマインドなどに、共通点はありましたか?

勉強法でいえば、意外とみんな学校の教科書や動画サイト、英会話アプリなど、誰でも手に入るような身近なツールを使いこなしている印象です。

今はインターネット上にたくさんの情報があるので、自分にフィットする勉強法からどんな国にどんな進路の選択肢があるかまで、ご自身で調べ上げているのも共通していたことです。

このような主体性も、“グロースマインドセット”を育むそうです。グロースマインドセットを持つ学生は、より高い英語力を身につけるという研究結果も出ています。

──さまざまな英語の学習法があるとはいえ、自分に合ったやり方を見つけたり勉強のコツをつかんだりすることが得意な人もいれば、苦手な人もいると思うのですが。

そうですね。例えばソファに寝転がってiPadを見ながら暗記するタイプもいれば、ボイスレコーダーに吹き込んで耳で聞いて習得するタイプもいます。

それはその人が一番頭に入るスタイルだったというだけ。その勉強法を真似したからといって全員がうまくいくわけではありません。

拙著に出てくる学生の中には、庭をぐるぐる歩きながらブツブツ単語を口にして覚えたという人もいました。動くほうが頭に入ってくるんですね。自分に合っているのはどんな方法なのか、とにかく色々な方法を試してみるといいと思います。

──自分に合った勉強法を見つけつつ、それを継続することもポイントですよね。モチベーションを保ち続ける秘訣はありますか?

ある人が「モチベーションが続かないということは、それは自分に必要ないということ」とおっしゃっていて、納得したところがあります。

だからやはり、必要に迫られて英語を使うような環境に無理やり自分を追い込むのがいいと思います。

ビジネスパーソンの場合、もう実行されている人も多いと思いますが、スマートフォンやパソコンの言語を英語に変える、英語のニュースを読むなど小さいことから日常を英語に浸すのもおすすめです。

好きなアーティストの英語の歌詞を丸暗記するところから勉強に入っていく人も多いですよね。

いつ始めても、英語力は身に付く

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撮影:中島日和

──教育の観点でいうと、年々英語の早期教育への熱も高まっています。高校を卒業するまで日本の学校で過ごすとグローバルで活躍しようとする際に不利になる、という議論もありますが、加藤さんはどうお考えですか?

海外留学を視野に入れてお子さんをサポートしている親御さんは増えてきていると思います。では早くから海外に子どもを出したほうがいいかというと、日本の教育にもいい点はたくさんあると思います。

ハーバード大学に進学した学生曰く、大学で複数の学生と多様な意見を戦わせるときに、日本人としての意見を求められることがよくあるそうです。

「自分は高校まで日本で育ってきたので、日本人としてのアイデンティティが確立していて意見を述べることができた」と話してくれました。

ジャパンタイムズ会長の末松弥奈子さんは、子どもが日本の伝統や文化をじっくりと学んでから海外に出てもらうための学校を作りたい、という思いから広島県に小学生対象のボーディングスクールを作られました。

日本の学校で過ごすことは、日本人としてのアイデンティティを育める機会ですし、それはむしろグローバルに活躍する人材に必要なことではないかと思うんですよね。

撮影:中島日和

──最後に、英語学習に興味を持っているビジネスパーソンにメッセージをお願いします。

第二言語習得に関する研究の中で、早く始めるとメリットが大きいという結果は誰もが認めるところですが、「この時期を逃すと手遅れ」ということはありません。いつ始めても、語学力はアップできます。

日本人は英語が話せないとよく言われますが、「できない」というのは誤解です。単に英語を使う機会がないだけなんですよね。TOEICの点数に気を取られがちですが、みなさんもっと自信を持ってほしいと思います。

今回、海外で活躍している人たちの取材を通じて感じたことでもありますが、「ネイティブと同じ土俵に立とうとは思わない」と開き直ることも大切だと思うんです。

そもそも、英語ネイティブの人口は世界の1割未満です。英語を実用的に話す人は4人に1人なので、ほとんどの英語話者はネイティブではないということになります。

アメリカ英語やイギリス英語などを“きれいに話す”ことにこだわるよりも、共通言語としての英語を武器に“多様な人々とコミュニケーションが取れる”ことのほうがこれから大事になるのではないでしょうか。「どうせ無理」「もう遅い」と諦めずに世界に飛び込んでみると、新しい扉が開けるかもしれません。



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