ティモシー・サイクス氏はペニー株の取引を行い、トレーディングの方法を他の人々に教えている。
Timothy Sykes
ティモシー・サイクス氏(Timothy Sykes)はドットコムバブルが弾けた1999年に株式投資を始めた。
当時、彼は自分が何を取引しているのかよく理解していなかった。大型株を売買し、ファンダメンタルズに目を向け、さまざまな指標を注視した。しかし、勝ち越すことはできず、勝ち負けが半々であればラッキーな方だった。
今日、彼が取引を開始・終了する際に使う情報は、出来高加重平均価格(VWAP)やボリンジャーバンドのような通常のテクニカル指標だけではない。自身の取引スタイルをサポートする一連のシグナルも彼は用いている。
「シェフはそれぞれに異なるレシピを持っているでしょう。皆同じ厨房にいるが、マーケットに対して自分なりの考えを持っています。私はシンプルな指標が好きです。プログラマーや多くの学者のように、数学的なモデルを信奉している人もいますが、私は、数学はそれほど得意ではありません」
最適でない指標を使うと、ノイズを生み、分析の麻痺を引き起こす可能性さえあると彼は指摘する。例えば、ある銘柄の株価がVWAPを下回っていれば、多くのトレーダーがその銘柄を空売りしようとすると彼は言う。しかし、皆が同じ指標を見て同じ判断をすれば、殺到することになる。すると、ショートポジションのトレーダーが、それをカバーするために急いで株を買おうとし、価格が再び上昇するため、ショートスクイーズが起こる可能性がある。
取引量の少ないペニー株を取引しているサイクス氏は、仮説が正しいかどうかを判断するのに役立つ指標を使っている。さらに、彼は取引の最大の関門は焦りだと考えており、判断を確認するために、収束する必要のある基準値を何重にも用いる。
彼は、満たすべき6つの主要なシグナルをチェックリストにした。各項目は1~10点、あるいは1~20点まで、合計100点満点だ。より重要な基準は配点を大きくしている。チェックリストは、取引でどれだけのリスクをとるのかを判断するのにも役立つ。彼は70点以上を良い取引と考えているという。
サイクス氏は勝ち負けの比率を70対30くらいだとしている。Insiderは同氏が取引しているIRA口座(個人年金口座)を確認した。全米投資選手権の創設者であるノーマン・ザデ氏(Norman Zadeh)もサイクス氏の取引を確認し、2020年から2022年にかけての彼の利益は合計630%に上ると述べている。
現在、サイクス氏の収入は、トレーダーになる方法を教えるオンラインプログラム「ミリオネア・チャレンジ(Millionaire Challenge)」から得ている。サイクス氏は現在もデイトレードを続けているが、その利益は慈善団体に寄付し、自分のフレームワークを実証するためのライブレッスンとしてトレードを利用しているという。
以降で、サイクス氏が活用している6つのシグナルを明かそう。
サイクス氏の6つのシグナル
値動きのパターンが1つめの基準だ。これらは、彼の取引が満たさなければならない必須基準のひとつであるため、20点満点になっている。
サイクス氏は、取引日の最初の1時間によく起こる3つのパターンを活用している。それはペニー株や1株5ドル以下で取引されている銘柄を50~500%高騰させる、ニュースを源とする値上がりのきっかけと合致している。
その3つのパターンとは次の通りだ。「出来高が前日を上回り、高値を5〜10%上回る」「ニュースがあった後の最初の値上がり日になる」、そして彼がモーニング・パニックと呼ぶ、「株価が20〜50%下落する」パターンだ。
潜在的なリスク対リターン比率も20点満点だ。サイクス氏は、株価がどこまで上昇し、どこまで急落する可能性があるのかを判断する。
例えば、株価が1ドル上昇しても0.20ドル下落する可能性がある場合、リスクとリターンの比率は1対4となり、20点が与えられる。株価の方向性を予測することは不可能だが、過去のチャートパターンから下値支持線と上値抵抗線を引き、ブレイクアウトからすでにどこまで上昇しているか、過去に同じような状況でこの銘柄が急騰したかどうか、そしていくら急騰したかといった情報に基づいて考えることで推測することはできる。
売買のしやすさは10 点満点。これは取引量で決まる。ペニー株は取引株数が少なく流動性が低いため、これは重要だ。サイクス氏は、1日に数百万株の取引があるかどうかを見ている。
「値動きの速い銘柄では、売りと買いに1株0.25ドルのスプレッドがあれば、これはリスキーだと思うでしょう。なぜなら買った後に何らかの理由で上がらず、売らなければならなくなったら、自動的に1株0.25ドル下がるわけですから」
過去のパフォーマンスと急騰したかどうかは10点満点だ。例えば、あるセクターが話題になって、そのときに急騰した銘柄は、たいていまた急騰する。エボラ出血熱が話題になったときに急騰したバイオハザードスーツメーカーの多くは、コロナ禍の際にも上昇したと彼は言う。当時のことをトレーダーは覚えていたからだ。
「私はこれをウェイトリフティングの選手に例えています。過去に体を鍛えていた人は、過去に鍛えたことのない人と比べ、少しトレーニングするだけで運動能力を簡単に取り戻すことができる。体を鍛え上げるのは非常に難しいものです」
カタリストは10点満点。これはニュースリリースが出ていたり、AIのような注目セクターに含まれる銘柄だったりすることだ。突然注目を集め、値動きが活発になる最初の要因となることが多い。
しかし、カタリストは株価をどちらの方向にも動かす可能性があるため、その重要性は上記の基準に劣る。ニュースの解釈はさまざまだと彼は話す。
例えば、ある製薬会社が製品のFDA承認を受けたが、承認はすでに価格に織り込み済みで、正式なニュースが発表された後に取引が急落する可能性もあると彼は指摘する。俗に言う「噂で買って、事実で売る」という動きだ。
市場環境は10点満点だ。個別銘柄にも波及するため、全体的なインデックスの動きを見て、市場全体がどの方向に動いているかを彼は判断している。
例えば、2020年と2021年、激しい買い手市場が多くの銘柄を押し上げた。なぜなら、人々は家にいて、多くの個人投資家が取引を始めたからだ。この2年間で、株価は500%も急騰した。今は市場が低迷しているため、株価の急騰は50%程度にとどまるだろうと彼は話す。
最後に、シグナルではないが7番目の基準として、トレーダーのスケジュールが20点満点で加算される。会議の前や学校に行っている間、あるいは旅行中にスクイーズ取引をしようとする人がいるが、これは危険だ。というのも、株価を見て、いつでも決済できるようにしておく必要があるからだ。
サイクス氏は、株式市場が開いてから最初の1時間以内に取引を行うことを好む。なぜなら、その時間帯は彼が利用するパターンが発生する時間帯であり、取引のために時間を確保している時間帯だからだ。
例えば、サイクス氏はクラウドウェブ(CLOW)を100点満点中82点と評価した。彼は、同社が1カ月の間にプレスリリース等で大々的に宣伝され、2022年10月から11月にかけて株価が約0.54ドルから4.30ドルまで上昇したことに気づいた。2022年12月1日の朝、株価は急落し、彼がモーニング・パニックと呼ぶパターンが生まれた。彼は1株2.83~2.87ドルの下落中に買い、2.89~3.15ドルの上昇中で売った。Insiderが確認した彼の証券口座の記録によると、彼はその取引を10分以内に終えている。
この取引は、カタリストとして注目され、彼が利用するパターンを作り出したので、サイクス氏の基準に合致していた。市場が開いてから数時間以内の出来事だった。彼は、株価の底値をとらえることができれば、過去の動きに基づいて、株価は以前の高値の半分まで持ち直すと考えていたため、リスクに対してリターンは高くなった。ビッドとアスクのスプレッドは1セントで、取引も容易だった。そして2022年最終四半期を通じて業績がよかった。そして最後に、ナスダックが年初来高値を更新するなど、市場環境も好調だった。
たとえすべての条件の合計が高くても、彼が取引をするとは限らない。サイクス氏は慎重で、どの変数がスコアを高めているのかを考慮する。また、価格が不利な方向に向かえば損切りをする準備をしてから、すべての取引に臨んでいるという。