動物や野菜が体育座りで座る「まちぼうけ」シリーズ。オリジナル商品から派生し、これまでに「クレヨンしんちゃん」や「仮面ライダー」シリーズなどのコラボも展開している。
撮影:荒幡温子/©BANDAI
最近、街中に大量に並ぶ「カプセルトイ」の自動販売機(以下、自販機)と、それを楽しむ“大人たち”の姿をよく見かけるようになった。
現在、全国に設置されているカプセルトイの自販機の数は55万台(トイジャーナル調べ)。郵便ポスト(約18万台)の数を上回る。
今やカプセルトイのブームは国内だけにとどまらず、日本のポップカルチャーとして海を渡り始めている。
累計38億個の『ガシャポン』(バンダイのカプセルトイの商標)を販売してきた業界最大手のバンダイでは、2022年から「Bandai Gashapon Official Shop」の海外展開をスタートしている。
コロナ禍を経たカプセルトイブームの変遷と現在地をバンダイに聞いた。
自販機の「自社開発」で進化するガシャポン
「自販機を進化させることで、実はできることがどんどん増えていっているんです」
そう語るのはバンダイで、ベンダー事業部・事業推進チームマネージャーを務めるの瀬谷朋子さん。
バンダイでは、商品はもちろん、ガシャポンの自販機、決済方法までを自社開発。毎月100以上の商品を展開しており、年間の出荷点数は約1億点にも上る。そのうち、同社が得意とする人気アニメのキャラクターなどとのコラボ商品(IP商品)が半分を占める。
最近ではお菓子メーカーとミニチュアアイテムやオリジナル商品の開発などにも注力している。
たこ焼きからタコのリングが出てくる「Ringcolle!(リンコレ)」。ノーベル製菓の「男梅キャンデー」など、人気のお菓子とのコラボ商品も展開する。
撮影:荒幡温子/©BANDAI
カプセルそのものにも工夫を凝らす。
カプセルがリングケースとなった人気シリーズ「Ringcolle! (リンコレ)」などの「カプセルレス」商品も登場。カプセルトイは、「カプセルの中に商品を納める」という性質上、どうしてもサイズに限りがある。カプセルレスにすることで、これまでのカプセルサイズでは難しかった大きさの商品の開発も可能となり、自由度が高まった。
累計1000万個を販売する「いきもの大図鑑」シリーズ。写真左の状態で自販機から出てくる。カブトムシのツノ部分は取り外し可能。組み立て式で、手の平に収まり切らないサイズに。
撮影:荒幡温子/©BANDAI
シリーズ累計1000万個を販売する大ヒットシリーズ「いきもの大図鑑」もカプセルレス商品の一つだ。
「『自販機からこんなに大きいものが出てくるの?』という驚きが届けられていると思います」(瀬谷氏)
2021年に発表した「プレミアムガシャポン」では、精巧なフィギュアなど、付加価値の高い商品を取り扱う。価格は最大で2500円まで対応可能で、コインの投入口も、500円玉が入る設計だ。
プレミアムガシャポンは、カプセルサイズが直径8センチメートルと、一般的なカプセルサイズ(6.5センチメートル)と比べて、大きさも“プレミアム”仕様となった。
ガシャポンもキャッシュレス対応に
キャッシュレス決済にも対応した「スマートガシャポン」。コインの投入口の変わりに、交通系ICカードなどのリーダーが設置されている。
撮影:荒幡温子
ガシャポンの“支払い方法”も現代に即したものに変わってきた。
2019年には電子マネーやQRコードなどのキャッシュレス決済に対応した「スマートガシャポン」を稼働。2022年からは、現金・キャッシュレス決済どちらにも対応可能な「ガシャポンステーション W」の展開も進めている。
キャッシュレス化が進んだことで、「手元に小銭がなくても、小銭を切らしているからと“言い訳できない”んですよね……(笑)」と、瀬谷さんは話す。
大人がハマる「第5次ブーム」
「ガシャポンのデパート 池袋総本店」は、2021年に「単一会場におけるカプセルトイ機の最多数」として、3010面でギネス世界記録に認定されている。
撮影:荒幡温子
バンダイでは、2020年よりカプセルトイ専門店「ガシャポンのデパート」を展開。2023年7月現在では全国で87店舗まで拡大している。
「ガシャポンのデパート 池袋総本店」は、カプセルトイ機3000面以上を設置する世界最大の専門店として、2021年にギネス世界記録にも認定された。
前述した商品ラインナップの拡充や自販機、決済方法の進歩に加えて、こうした店舗形態の盛り上がりも影響し、カプセルトイは子どもだけでなく、大人も楽しめるものとして普及した。各社で定義の差はあるものの、現在カプセルトイ業界は「第5次ブーム」の真っ只中だという。
「コロナ禍を経て現在まで、売上は好調に推移しています」(瀬谷さん)
気になる商品を発売前からチェックし、“指名買い”する大人たちも増えているという。
ガシャポンのDX(デジタルトランスフォーメーション)も進む。「ガシャどこ?PLUS」では、各商品の設置店舗を検索できる。キャッシュレス対応の自販機や、販売情報を管理できるPOS搭載自販機を展開している同社ならではだ。
加えて2020年9月には「ガシャポンオンライン」をオープン。オンラインでいつでも欲しい商品を購入できるようになったことで、「自販機の設置店舗が見つからずに購入できない」という機会損失を減らした。なお、オンラインでも“ガチャを回す”という演出はそのままで、必ずしも狙った商品を購入できるわけではない。
「たまごっち」シリーズのガシャポンのように、懐かしさを感じるアイテムも展開する。
撮影:荒幡温子/©BANDAI
「ガシャポンは46年の歴史もあって、例えば当時キンケシを買ってくれていた少年たちは、今立派な大人になっています。
そんな大人たちにも楽しんでもらえたらと、最近ではプレミアムな素材で作った『ダイキャストキンケシ』や、 関節が動かせて技をかけられる『キンケシフルアクションスペシャル』なども発売しています。
商品だけじゃなくて自販機も、アナログなイメージを持たれている人も多いと思うんですが、実は地味にすごく進化していて。大人になっても、愛され続けるガシャポンをこれからもつくっていけたらと思っています」(瀬谷さん)
※編集部注:取扱商品は店舗により異なる。販売が終了している場合もあることに注意。
ワールドワイドなガシャポンへ。専門店は7カ国に進出中
LEDディスプレイを備えた巨大な筐体「ガシャポンオデッセイ」は、現在訪日観光客に人気の観光地「東急歌舞伎町タワー」に設置してある。
撮影:小林優多郎
ガシャポンは、回復しつつある訪日観光客にも人気だ。
コロナ以前から、訪日観光客が帰国前に空港に設置されたガシャポンを回す光景はよく見られていた。当時は小銭を使い切る手段としての提案だったが、今では各地のカプセルトイ専門店が観光スポット化しているという。
「最近は、海外の訪日観光客向けメディアからのお問い合わせを受けることもあります。ジャパニーズポップカルチャーとして打ち出している最中なので、例えば京都の店舗には、外国人の方がたくさんいらっしゃいます」(瀬谷さん)
タイ・バンコクの「Bandai Gashapon Official Shop」の様子。
提供:バンダイ
2022年頃から海外展開にも注力。もともとは現地法人を通じて店先などで小規模展開していたというが、大型のカプセルトイ専門店「Bandai Gashapon Official Shop」として海外進出に力を入れ始めた。
「ゲームセンター事業などを手がけるグループ会社・バンダイナムコアミューズメントと協力して、国内でも設置台数が増えてきました。そうしたら次は海外かなと、現地法人と協力して、まずはチャレンジとして進出しました。 海外では、日本ほど自販機から物を買う習慣が浸透していないので、まずは興味本位というところも大きいのだと思います」(瀬谷さん)
現在は中国、香港、タイ、シンガポール、マレーシア、米国、英国の7カ国13店舗に展開中で、どこも売り上げは「好調」だ。ポケモンやサンリオなどのIPものに人気は集中する傾向にあるというが、オリジナル商品である「動物系」も売れ行きがいいという。
今後はさらなる地域と出店数拡大に向け、「いつかは現地オリジナルのガシャポンも発売したい」(瀬谷さん)と語る。