学生ローンは財布だけではなく、心をも蝕む可能性がある…精神的苦痛を感じたら助けを求めて

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学生ローンで苦しんでいるのはあなただけではない。

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  • 返済しきれないほど高額の学生ローンを抱える人は、不安やうつ病、自殺願望を抱くこともある。
  • 自尊心が低下すると自分の負債額の残高に目を向けることさえできなくなる場合もある。
  • 学生ローンが原因で苦しんでいる人は、1人で悩まず、自分を傷つけてしまいそうに感じたらホットラインに電話して相談しよう。

ミゲル・カルドナ米教育長官は5月11日、新型コロナの緊急事態期間の終了に伴い、これまで返済猶予措置をとっていた連邦政府提供の学生ローンについて、早ければ9月1日から返済を再開させる方針を明らかにした。

これにより、何百万人もの学生ローンの借り手は、長引く高インフレですでに圧迫されている生活費に加え、学生ローンの支払いを予算に組み込まなければいけなくなる。専門家は、増大する経済的プレッシャーは借り手のメンタルヘルスにダメージを与えるだろうと危惧している。

学生ローンで自尊心が低下し、孤立する人が多い

ファイナンシャルセラピストのメーガン・マッコイ氏は、学生ローンの負債は自尊心の低下とともに不安感や羞恥心、罪悪感を増大させる可能性があると指摘する。さらに、学生ローンの借り手は、その返済が終わるまで結婚や初めてのマイホーム購入など、人生の大きな節目を先延ばしにする傾向もあるという。

そのような大人の仲間入りとも言える人生の節目を達成できないことによる羞恥心から、彼らは「経済的に苦しいだけでなく、自分が大人になりきれていないと感じてしまい、それにより非常に深刻なうつ病を発症してしまう可能性がある」と、マッコイ氏は警鐘を鳴らす。

オンラインで金融リテラシー教育を提供する企業トラウマ・オブ・マネー(Trauma of Money)のファイナンシャルトラウマ研究員シャンテル・チャップマン氏は、学生ローンの借り手は、自らが多額の負債を抱えているのはアメリカの教育システムの欠陥が原因だとは考えず、自分自身を責めてしまう傾向があると指摘。「羞恥心や孤独感から解放されるためには、考え方を変えなければいけない」と主張する。

「借金による羞恥心に自分が乗っ取られてしまうと、借金に過度に集中してしまう」。

そのため、実際は連邦政府の学生ローンの負債者は約9110万人もいるのに、学生ローンで苦しんでいるのは自分だけだと感じてしまいやすいのだ。

学生ローンが原因で自殺願望を抱く人も

フロリダ州タンパに住む51歳のローリー・L氏(プライバシー保護のため苗字は省略)は、1993年から学生ローンの返済に悩まされている。彼女は約15年間、2つの仕事を掛け持ちし、さらに副業をしながらどうにか月々の支払いを賄ってきた。

L氏は1989〜1993年の間に学生ローンで3万6000ドル借りた。転職や経済的苦境により返済プランを変更し、返済猶予を受けざるを得ない状況にも何度か陥った。彼女は20年近く返済を続けているが、本紙が調べた記録によると、いまだに債務が6万700ドル残っている。

「今までとても苦しい生活をしてきた。学生ローンのせいでストレスと不安が非常に大きく、死んだ方がましだと思って自殺を考えたこともある」

残念ながらL氏のような人は珍しくない。ステューデント・ローン・プランナー(Student Loan Planner)の調査によると、借り手の14人に1人が学生ローンの負債が原因で自殺願望を抱いた経験があるという。特に失業中の人や年収5万ドル以下の借り手になると、それが8人に1人とさらに多いのが現状だ。

ストレスと不安から返済計画を考えられない

ローンを完済するための返済計画を立てることはもちろん、負債の残額に目を向けることもできない人は大勢いる。CNBCによる調査によると、学生ローンの債務者の37%が自分のローンの金利すら知らないという。

マッコイ氏は「私たちが大きな金額を概念化するのが得意ではないことが問題の一部だ」としつつ、「不安やうつ病によって身体的に負担がかかっている」点を指摘。

「メンタルヘルスの問題やめまい、頭痛、腹痛などとの強い関係性を示す研究結果も出ている。彼らには金額のことを考えるエネルギーが物理的に残っていないのだ」

それに加え、チャップマン氏は「借金に関する慢性的なストレスにより思考が欠乏してしまう」と指摘。

「思考が欠乏した人の脳はトラウマが誘発された状態に似ており、認知能力が低下することが分かっている。判断能力を失い、衝動をコントロールできなくなる可能性もある」

つまり、学生ローンによるストレスで、お金に関する日々の決断力にも自信をなくしてしまうということだ。「自信がなくなることで、回避的な行動を取るようになっていく」とマッコイ氏は問題視している。

学生ローンで苦しんでいる人は少なくない

学生ローンがメンタルヘルスに与える害から解放されるためにはまず、そのような状況にいるのは自分だけではないということを認識しよう。L氏は同様の悩みを抱える人と話すことで救われたという。

昨年L氏は、デット・コレクティブ(Debt Collective)という債務者の組合を通じて、学生ローンの借り手たちが集まって借り手の権利を守るための活動をする組合に参加した。

「参加して本当に良かった。正直なところ、発破をかけられたような気分だ。まだうつ病が治ったわけではないが、負債のことで精神を削っていても借金が減るわけではなく、確実に寿命を縮めているだけだということに気付いた」と語る。

その次に重要なのは、残りの返済額を明確に把握することだ。チャップマン氏は、心の落ち着きを維持し、お金に関して大きな決断をするときも冷静でいられるように、自分の「耐性の窓(Window of Tolerance)」を見つけるという、ダン・シーゲル博士が提唱するストレスマネジメントの概念を推奨する。

「“マインドフルネス”と呼ばれる、今だけに集中する精神状態を意識的に作り、ゆっくり呼吸をし、友達に電話したり、散歩に出かけたりすることで、乗り越えられるはずだ。そうすれば、トラウマが刺激された状態から抜け出し、債務の残高に目を向けても神経系が乱れない、より安全な精神状態に持って行くことができる」

学生ローンが原因で自殺したいと感じている人は、24時間対応のホットラインに電話して相談を。さらに、返済に苦しんでいる人向けにファイナンシャルカウンセラーが無償で個別相談に乗ってくれる機関もあるので、ぜひ利用してほしい。

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