オックスフォード大学が人工知能(AI)の投資分野での活用について、驚きの研究成果を発表した。
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オックスフォード大学の最新研究で、より良い運用成績を上げるプライベート・エクイティ(PE)ファンドを選別する能力について、人工知能(AI)は多くの機関投資家より優れていることが明らかになった。
同大サイード・ビジネススクールが行った研究の一環で、研究者たちはPEファンドが作成した目論見書395本を読み込ませ、投資家が読み飛ばしがちな長大な説明部分まで詳細に分析することで、優秀な運用成績を上げるPEファンドを特定するよう、AIモデルをトレーニングした。
このAIモデルは結果として、欧州に拠点を置くPEファンド群の中で毎年競合ファンドを5%程度上回るパフォーマンスを上げているものを選び出すことに成功した。
実現損益と未実現損益の両方を考慮する標準的なパフォーマンス評価基準に準拠した場合、AIモデルが上位25%以内に入る優秀な運用成績を上げると判断したPEファンドは、リターンが投資元本の2.10倍になった。機関投資家の同平均は1.85倍だった。
デューデリジェンスの実施に際して、(企業経営の執行に関与せず出資金の範囲で責任を負う)機関投資家などのリミテッド・パートナーは、運営会社の評判や過去の運用実績をチェックするのが一般的だが、実はそのあたりは究極的にファンドのパフォーマンスとは無関係であることも研究を通じて明らかになった。
目論見書に記載される定性情報、とりわけファンドマネージャーがターゲットとする投資機会について詳説する長文の戦略セクションには重要な内容が含まれるものの、読み飛ばされがちだ。
定性的な情報はファンド間で比較しにくいし、そもそも分かりにくいことも読み飛ばされる理由として挙げられるだろう。
しかし、AIはまさにそうした定性的な記述から、各PEファンドの運用成績に生じる差を見抜いたわけだ。
ただし、研究代表者でオックスフォード大サイード・ビジネススクール教授(金融経済学)のルードヴィク・ファリポウ氏は、リミテッド・パートナーは投資判断の際の最終意思決定にAIを活用するのは避け、論理整合性があるかどうかを確認するなどあくまでセンスチェックのツールとして使うべきと強調する。
「全自動化して人間(の評価や判断)が全く手を下さなくていいようにすることはできません。それは大惨事の元です」
研究代表者で、オックスフォード大学サイード・ビジネススクール教授(金融経済学)のルードヴィク・ファリポウ氏。
Oxford Saïd
あるリミテッド・パートナーがほぼ出資を決めたファンドについて、もしAIモデルが「アウトパフォームする可能性は0%」との結論を示したなら、その時は再検討すべきで、逆に「100%アウトパフォームする」とAIが結論した場合も、やはり出資を考え直したほうがいいとファリポウ氏は説明する。
AIが進化を遂げたいまもなお、投資家は判断を下す前により広いマクロ経済環境を考慮する必要がある状況に変わりはない。
また、相場が盛り上がっている時期は、リミテッド・パートナーには出資を求めて多くの声がかかる。その際、AIはプレゼン資料を効率的に選別するツールとしても機能するという。
「極めて専門的な内容で、読者を大手機関投資家向けに限定して作成された中身の濃いテクニカルな書類を人工知能(AI)に読み込ませ、投資先を選別できるという事実が示されたのは初めてのこと。
しかも、それにとどまらず、AIはプロ投資家であるほとんどの大手機関投資家を上回る投資リターンを上げたのです」
オックスフォード大の研究結果は、PEファンドのセカンダリー投資を手がける英コラーキャピタル(Coller Capital)が6月に発表したレポートに続き、PEファンド投資におけるAIの有用性を示すものだ。
同レポートでは、リミテッド・パートナーの大半が、(既存PEファンドの持ち分を購入する)新規出資案件の獲得や事前調査などディールの各段階で、AIが今後重要な役割を果たすと認識している実情が明らかになっている。
投資におけるAIの活用は目新しい動きではない。株式取引におけるデータ分析にAIを活用する事例はすでに枚挙に暇(いとま)がないほどだ。膨大な量のデータを解析してモデル化することで、投資家の戦略立案に役立てることができる。
ただ、AIを活用するリソースを有する投資家は現時点では限られているため、ファリポウ氏はコンサル企業がAIサービスを提供する展開を期待している。