西武鉄道は翻訳対応透明ディスプレイ「VoiceBiz UCDisplay」の実証実験を西武新宿駅で始める。
撮影:小林優多郎
西武鉄道は7月5日、西武新宿駅で翻訳対応透明ディスプレイ「VoiceBiz UCDisplay」を使った実証実験を開始すると発表した。
実証実験は7月10日から9月末までの予定。西武新宿駅の案内所を訪れる訪日外国人向けに活用される。
西武鉄道は今回の実証を通して、ディスプレイの有用性や翻訳精度などを検証し、同駅への2023年秋頃の本格導入を目指している。
「相手の表情や感情がつかみやすく」凸版印刷が開発
「VoiceBiz UCDisplay」は31.5型で、筐体サイズは縦69×横75×幅3cm。
撮影:小林優多郎
「VoiceBiz UCDisplay」(ボイスビズ ユーシーディスプレイ)は、凸版印刷が開発する窓口向け翻訳ソリューションだ。
インターネットに接続された「タブレット端末」と「透明ディスプレイ」、「マイク」などで構成され、窓口担当者と訪問客それぞれの話している言語と翻訳文が同時に表示される。
透明ディスプレイであるため、対面で目と目を合わせてコミュニケーションできる。
また、比較的シンプルなハードウェア構成であり、スペースと電源、ネット環境さえあれば導入できる点が特徴的だ。
対話を開始する前に、手元にあるタブレットで翻訳する言語を選ぶ方式。
撮影:小林優多郎
翻訳には情報通信研究機構(NICT)が開発する国産エンジンを採用。日本語から英語、中国語(簡体字)、韓国語、タイ語など12言語の翻訳に対応する。
7月5日に実施された報道関係者向けのデモでは、英語と中国語の話者が駅内の案内所を訪れたというシチュエーションだった。
デモの様子は00:19あたりから。
撮影:小林優多郎
翻訳精度に関しては、西武鉄道側が用意した例文を話したため評価できないが、反応速度はなかなかのものだった。
文章の長さにもよるだろうが、話者が話し終えてから2〜3秒でディスプレイに吹き出し型の見た目でテキストが表示される。
中国語(簡体字)にも対応。それぞれの話者の向かって左側に読むべきテキストが表示される。太い吹き出しが相手側がしゃべった内容になる。
撮影:小林優多郎
西武鉄道は既に、従業員の持つ端末に多言語対応の翻訳アプリを導入しているが、それらとは違い目線が常に対峙している人に向いているため、相手の表情や感情がつかみやすくなっていると言える。
西武グループと凸版印刷は2023年1月31日から2月14日までの間、「西武ツーリストインフォメーションセンター池袋」で同様の実証実験を行なっていた。
今回導入されたVoiceBiz UCDisplayは、その実験の踏まえ中身のシステムや、駅構内の騒音に対応するためのマイクなどの音響装置の改善などを施した新バージョンとなっている。
外国人旅行客はコロナ禍前と比較して「7〜8割回復」
外国人旅行客も多い西武新宿駅。
撮影:小林優多郎
今回の実証実験を担当する西武鉄道の矢島綾乃氏は、実証の経緯についてコロナ規制緩和による訪日外国人の増加をあげた。
「今より多くのインバウンドのお客様に、西武線沿線を利用していただいて、安全で快適な西武鉄道での旅を、言葉の壁を感じることなく楽しんでいただきたい」(矢島氏)
日本政府観光局が6月21日に発表した訪日外客統計によると、5月の訪日外客数は189万8900人と、コロナ禍前の2019年同月と比較して68.5%と、回復している。
「VoiceBiz UCDisplay」の開発を担当している凸版印刷の事業開発室 多言語コミュニケーションチーム係長の野阪知新氏(左)、実証実験を担当する西武鉄道 運輸部スマイル&スマイル室インバウンド担当課長補佐の矢島綾乃氏(右)。
撮影:小林優多郎
西武鉄道としても「コロナ前と比較して7〜8割、訪日外国人のお客様が戻ってきている」(同社広報)とコメント。
また、今回の実証実験の場として西武新宿駅を選んだ理由を「東急歌舞伎町タワーの開業によってインバウンド需要が高まっている」「新宿駅はターミナル駅であり、池袋駅には既に外国語話者を配置しているから」とした(矢島氏)。
西武鉄道では訪日外国人利用者の国別の統計を公表していないが、多様な訪日外国人の受け入れを強化するため、従業員に各言語のスキルがなくてもコミュニケーションが取れる方法を模索している。