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6月の最終週、アメリカにあるスターバックスの150店舗がストライキを実施した。店舗のスタッフから、過去に前例のあるプライド月間の装飾が許可されなかったと、SNSを通じて拡散された後のことだった。
スターバックス本社は、装飾を拒否したことを否定し、「パートナーへのメッセージ:スターバックスは常にあなたが自分自身である権利を守ります」と題したリリースを発表したが、ストは、同社の労働組合(スターバックス・ワーカーズ・ユナイテッド)によって敢行された。
また、6月30日にはグーグルが、キリスト教徒の従業員が反対の署名を始めたことを受けて、プライド月間のイベントの結びに計画されていたドラァグショーのスポンサーを降りたことが報じられた。
CNBCの取材でイベントから撤退した理由を尋ねられたグーグルは、社内のイベントチームが「通常のイベント計画のプロセスを踏まずに通過した」ためだとしたが、2022年は行われたイベントなだけに、物議を醸している。結局、このイベントは、グーグルのスポンサーのつかない、公のイベントとして開催された。
前回のコラムでも、米小売大手ターゲット(Target)のプライド関連商品が宗教右派の抗議の標的になったことで、同社が商品の引き下げを決めたことについて書いたが、このようにLGBTの象徴であるレインボーを商売やマーケティングに使ってきた企業がコミットメントを縮小することに対しては、反発も小さくない。
2012年に同性結婚が合法化されて以来、プライド月間は祝祭のムードが強まっていたが、上述した一連の動きによって、今一度「抵抗運動」と位置づけ直す言論が加速している。
スタバ経営陣の妨害行為
米連邦議会で開かれた公聴会で、スターバックスが労働法順守問題で証言するハワード・シュルツ氏(2023年3月29日撮影)。
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ところで、スターバックスのストを主導したスターバックス・ワーカーズ・ユナイテッドは、従業員を代表する労働組合だ。2021年に、ニューヨーク州バッファローで立ち上がった労働運動が、組合化の是非を問う投票の結果、組合になった。以来、全米300以上の店舗が、投票を経て組合化を決めた。全米で9000店前後あるスターバックス直営店全体の約3%ではあるが、その数は日々、増え続けている。
これに対しスターバックスは、投票が行われる直前、創業者で元CEOのハワード・シュルツ率いる経営幹部がバッファローに乗り込んで間接的な説得活動にあたったり、組合化を決めた店舗を閉店したり、あるいは組合運動に参加したスタッフを解雇したりと、妨害活動に勤しんできた。
こうした行為は違法にあたると、労働争議を管轄する全米労働関係委員会から指摘を受けているが、シュルツは、スターバックスは法律違反をしていないとして、指導に応じない構えを見せている。また、スターバックスは、これまでに組織された組合との団体交渉にも応じていない。
求めているのは賃金や福利厚生だけではない
スターバックスの店舗前でストライキをする同店従業員(ニューヨーク、2023年6月25日撮影)。
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今アメリカでは、これまでになく労働運動が活発になっている。コロナ禍以来、根強く続く人手不足によって労働者側は交渉力を強めており、組合運動やストライキに関するニュースを見ない日はないほどだ。
このトレンドを牽引しているのはカリフォルニアだ。6月には、エンターテインメント業界の脚本家組合がストを敢行して現在も団体交渉を続けているし、俳優組合は目下、契約をめぐる交渉の真っ最中だ。また、ホテル業界、港湾の労働者たちのストも始まるというから、カリフォルニアの主要産業とインフラが揺らぐ可能性もある。
労働者たちの要求は、賃上げ、福利厚生などの待遇改善が中心だが、それだけではない。より安定的な契約や就労時間の保障、働き方、就労規則の改定まで、業界や業種によって多岐にわたる。
スターバックスは従業員の学費補助や医療保険を売りにしてきたことで、これまで本格的な組合運動が起こらなかった。しかし現在、同社の組合は経営陣に対し、就労時間の保障や団体交渉権の認知を求めている。
今回の「Strike with Pride」も、プライド装飾を却下されたことに対する抗議という意味合いだけではない。LGBTの従業員たちが、特に会社に組合活動を妨害されたことの影響を認めた上で、組合との交渉の席に就くよう求めるものでもある。
6月25日、ニューヨークの公式プライドマーチ以上に盛り上がりを見せた「クィア・リベレーション・マーチ」では、ニューヨーク州および市、アマゾン、UPS、スターバックスなどの組合のリーダーたちの姿が数多く見られた。組合には、LGBTQの労働者の権利を守り、差別と闘ってきた歴史がある。
コロナ禍やBLM(ブラック・ライブズ・マター)を経て、よりインクルーシブな存在になろうとしているように見えたアメリカ企業が、LGBTQの権利保護運動から距離を置こうとしていることには失望するが、レインボーキャピタリズムは、やはり「ウォッシング」に過ぎなかったのかもしれない。
グーグルが撤退したイベントに出演したドラァグのパフォーマー、ピーチズ・クライストことジョシュア・グラネルの言葉が響いた。
「商品にレインボー旗をつけて、クィア(既存のジェンダー、セクシュアリティのカテゴリーに当てはまらない人)のプライド・パレードを行進しながら、クィアの従業員をサポートせず、宗教という大義のもとであっても反クィアの風潮に反対しないのなら、真のアライ(Ally:LGBTQの人たちに共感し、支援する人たちのこと)ではない」
佐久間裕美子:1973年生まれ。文筆家。慶應義塾大学卒業、イェール大学大学院修士課程修了。1996年に渡米し、1998年よりニューヨーク在住。出版社、通信社勤務を経て2003年に独立。カルチャー、ファッションから政治、社会問題など幅広い分野で、インタビュー記事、ルポ、紀行文などを執筆。著書に『真面目にマリファナの話をしよう』『ヒップな生活革命』、翻訳書に『テロリストの息子』など。ポッドキャスト「こんにちは未来」「もしもし世界」の配信や『SakumagZine』の発行、ニュースレター「Sakumag」の発信といった活動も続けている。