スポットシェフを利用して働く宮田征典さん。記者会見で実際の調理の様子を再現した。
撮影:横山耕太郎
「飲食業では既存の採用手法が機能していません。これまでの求人サービスを私達がリプレイス(=置き換える)したい」
出張シェフサービスを運営するシェアダインの井出有希共同代表は、新サービスの意図をこう説明した。
7月5日、同社が発表した新サービス「SPOT CHEF(スポットシェフ)」は、飲食店やホテルのレストランなどが、最低3時間から、時間単位でシェフを手配できるサービスだ。
飲食業ではコロナ後、急激な人手不足に加えて、人件費を含めた固定費の上昇によって厳しい経営を迫られているケースも少なくない。
シェアダインが飲食業・サービス業の関係者を対象に、「コロナ禍後の店舗運営で困っていること」を複数回答でアンケート調査したところ、1位が「原価の上昇(食材や光熱費など固定費)」(38.2%)、2位が「人手不足が原因の売上の低下」(23.7%)だった。
こうしたニーズから、スポットシェフという飲食店向けの新サービスが生まれた。
シェフの経歴やレビューを見てマッチング
「飲食業では離職率が高いため採用にかかる単価も高い傾向があり、繁閑の波も大きい。新サービスでは繁閑の波に合わせてシェフを手配でき、また最短翌日のマッチングも可能でコストカットにも繋がる」(井出氏)
シェアダインは、飲食業界の需要についてこう説明する。
新サービス「スポットシェフ」は、2022年10月からβ版のサービスを開始。現在は約4500人のシェフが登録している。
シェアダインはもともと個人宅向けの出張シェフサービスを展開しており、個人宅出張シェフサービスに登録しているシェフが、「スポットシェフ」にも登録する例が多いという。
「スポットシェフ」では、飲食側が最短で翌日以降、1回3時間以上を条件に求人を掲載。シェフ側は希望する求人に応募し、飲食店側は応募があったシェフの経歴とレビューを確認し、事前に仕事内容の詳細もチャット機能ですり合わせもできる。
これまでのマッチング実績数は公開していないが、マッチング率は8割程度で、求人掲載から最短で15分でマッチングした例もあるという。
実際に「スポットシェフ」で料理人を採用している飲食店経営「U-MORE」の担当者は、「慢性的に人手不足だったが、スポットシェフで経験と知識のあるシェフに働いてもらえるようになった。料理長の休みも取りやすくなって労働環境が改善している」と話した。
追加報酬設定も可能
実際の「スポットシェフ」の募集ページ。都内や横浜などのレストランのほか、北海道や山梨、沖縄の施設も掲載されていた。
撮影:横山耕太郎
飲食店には初期費用や月額固定費などはかからず、求人は無料で掲載できる。実際に働いた場合には、シェフへの報酬額に加え、報酬額の3割の金額をシェアダインに支払う仕組みだ。
シェフの報酬単価は1時間1815円(税込み)。報酬単価は飲食店側が求人募集の段階で、上乗せして募集することもできる。
シェアダインによると、例えば「鉄板焼のシェフ」など特殊なスキルを有するシェフの場合は、報酬を上乗せしている例もあるという。
事業部長の宮下悟氏は「現状では多くが1815円の報酬単価ですが、ケースによっては時給を300円、500円を上げていた例もある」と説明した。
1年で導入数375社から「2000社目指す」
シェアダイン共同代表の井出有希氏。
撮影:横山耕太郎
スキマバイトの「タイミー」など、スポットでアルバイトをマッチングするサービスは他にもあるが、共同代表の井出氏は「シェフに特化しているスポットシェフの類似サービスはない」と言う。
「タイミーでホールスタッフを募集している事業者でも、キッチンのシェフの募集はスポットシェフを使っているという事業者が多くある」(井出氏)
また、シェフの経歴や、他店で働いた際のレビューを事前に知ることができる点も、他のサービスとの差別化になっているとした。
スポットシェフを導入している企業は、飲食店やホテル・介護施設など375社だが(7月3日現在)、1年後には2000社を目指すという。1年で導入企業数5倍という高い目標を掲げる背景には、それだけ業界ニーズが高いという自信があるということなのだろう。
井出氏は「β版についてはほぼ宣伝をせずに375社まで利用が広まった。今後はマーケティングにも力を入れることで利用を広げていきたい」とした。
元イタリアン調理長「自由な働き方ができる」
記者会見にはスポットシェフで働く料理人も登場した。
撮影:横山耕太郎
一方で、実際に「スポットシェフ」で働く料理人たちは、時間単位のスポットマッチングサービスをどう感じているのだろうか?
イタリアンカフェで料理長経験のあり、現在はフリーランスのシェフとして働く辻真樹さん(45)は、週に4日ほどスポットシェフで働き、週末は一般の個人宅への出張シェフとして働く。
スポットシェフの仕事は都内イタリアンや結婚式場の調理場での仕事を多く受けており、勤務時間は主に午前9時から午後3時の時間帯をメインに設定している。
「飲食店の調理長だった時代は、夜や週末に働くことが当たり前で、働き方を見直したいと思っていました。調理長だった時に比べると収入は減りましたが、今は家庭で過ごす時間や、趣味の時間も確保しながら働けている」
辻さんは2015年からフィリピンのセブ島でもレストランを運営しており、2カ月に1度は現地に滞在している。
「飲食店に勤務していると頻繁に休みを取るのは難しい。スポットでのマッチングを使うことで、シェフという仕事でも自由な働き方ができている」
一方で、スポットシェフの中でも当然、実力差があるのが現状だといい、「今後はシェフのスキルに応じたランク分けをするなど、収入が上げられるような仕組みも合った方がモチベーションにつながる」と話した。