ライザップが始めた24時間ジム「chocoZAP」が好調だ。
撮影:土屋咲花
RIZAP(ライザップ)が作った運動初心者向けジム「chocoZAP(ちょこざっぷ)」が好調だ。2022年7月にサービスを開始し、わずか1年で店舗数は572店、会員数は55万人(2023年5月15日時点)。「年商200億円規模」(5月の決算説明会より)を稼ぎ出すビジネスに急成長した。
ライザップといえば、3カ月約30万円の高価格でトレーナーがユーザーに伴走し、「結果にコミットする」がウリの本格パーソナルトレーニングだ。
一方でちょこざっぷは「着替えなくてOK」「1日5分でもOK」「初心者OK」の無人ジムなうえ、価格は約100分の1の「月額2980円(税抜き)」と対照的なサービス。
なぜライザップはちょこざっぷのサービスを始め、なぜ短期間でこれほどの支持を得ているのか。ライザップグループの瀬戸健社長に聞いた。
運動の「こうあらねば」を取り払う
RIZAPグループの瀬戸健社長。
撮影:土屋咲花
「やはりそれだけ需要があったのだと思います。北海道から鹿児島まで、人口が少ないエリアにも出店していますが、どこも東京に遜色なく通っていただいています。
ジムでのトレーニングは、着替えを持って店舗に移動し、到着したら靴を履き替えて、せっかく来たからには1時間くらい頑張って、シャワーを浴びてまた着替えて帰る —— という、会費だけでなく、手間という意味でもコストがかかります。運動自体が、正直まだ特別なものだと思うんです。
お客様のストレスを極限までなくし、気軽に簡単に楽しく、日常生活の一部として運動ができるようにハードルを下げていったことが大きい」
ちょこざっぷが好調な理由について、瀬戸社長はこう分析する。
ちょこざっぷは「コンビニジム」をうたい、ユーザーにコストをかけさせない仕組みを作った。ライザップがパーソナルトレーニングの常識を打ち破ってきたように、ちょこざっぷもそれまでのトレーニングジムの常識を取り払っている。
リーチしたいのは、運動初心者層だ。同社の資料は、トレーニング上級者は対象外であると明確に示している。会員は女性が半数以上を占め、中でも20~40代が多いという。
トレーニングジムは24時間営業のエニタイムフィットネスやJOYFIT24のほか、GOLD'S GYM、ティップネスなど、既に競合がひしめく市場だが
「米国はフィットネス参加率が20%程度ある中で、日本は3%程度です。潜在的な需要は間違いなくあるんですよね。誰もが『運動はやっぱり必要だ』と思っているはずなので、パイの奪い合いとは全く思っていないです」
ライザップより多くの人に「コミット」
ライザップとは一見対照的なちょこざっぷだが、サービスにはライザップで培った「継続させる」「人の行動を変える」ノウハウが盛り込まれている。瀬戸社長は「どうしたら運動自体を挫折せずにできるのかをデジタルに移植した」と表現する。
ちょこざっぷの会員は専用アプリのダウンロードが必須で、入退館の管理をアプリ上で行う。ライザップの実績データをもとに最適なトレーニングをレコメンドするほか、トレーニングの頻度が下がると、あの手この手で来館を促す。トレーナーが土下座して来館を請う動画や、シンボルの「ちょこっとくん」が呼び掛ける動画など、複数種類を制作し、どれが最も来館動機につながったのかを分析しているという。
「継続率は重要な指標にしています。幽霊会員はいずれ辞めてしまいますから。お客様の行動変容というか、習慣化するための動機付けを泥臭く繰り返していった結果、1年前と比べて継続率がどんどん上がっているんです。これがやはり、お客様が増え続けている重要な理由だと思います」
スポーツジムは幽霊会員から収益を得ていることが多いとも指摘されるが、ちょこざっぷはそれを良しとしない。結果的に8割以上が毎週通っているという。
2026年までに2000店
chocoZAPのトレーニングマシンは、日本人の骨格に合わせた安全性の高いものを採用している。
撮影:土屋咲花
店舗はコンビニや小規模フィットネスジムの跡地などに出店していて、面積はそれほど広くない。一方で会員数は55万人と、ちょこざっぷの約1.7倍の1000店舗を持つエニタイムフィットネスの約74万人に迫る勢いだ。会員数は増加傾向なうえに、幽霊会員も少ないとなると店舗が飽和状態にならないのか気になるが、その問題はどうしているのか。
「平均滞在時間が約30分で、10分程度で帰る方も多いです。一度の利用時間が短いことに加えて、アプリで全国の店舗の混み具合が分かるので、空いている店舗を利用いただいています。ただ、混雑時に近くの別店舗に行けるよう、混雑しやすい店舗の近くに新規出店をするなどして店舗を増やしています」
ちょこざっぷは当初の予定を上回るスピードで出店し、2026年までに店舗数を2000店に拡大することを掲げているが、機動力高く出店できるのには理由がある。
一つは出店条件の明確化だ。いくつかの出店ルールを設けることで、都度判断を仰ぐ手間をなくし、出店に至るまでのプロセスを簡素化しているという。
スピーディーに展開するぶん、出店ルールは退店時のリスクを考えた内容になっている。期間の縛りがなくいつでも退店できる契約を結ぶ、原状回復を担う事業者はライザップが指定する企業とするなど、「出ていく時のコストを最小限に抑える」ことを重視する。
「ジムと呼ぶのは違和感」
コンビニやスマートフォンのように、様々な機能を増やしながら利用者を拡大する計画を描く。
出典:RIZAPグループ中期経営計画
他の大手24時間ジムがフランチャイズ形態を取るのに対し、完全直営にこだわるのも今後の展開を見据えた戦略の一つだ。
「新しいサービスやマシン導入の提案をする時に、フランチャイズの場合オーナーの理解を得ないとできません。我々は今後もどんどん新たなチャレンジやサービスの提供をしていきたいので、リスクを自分たちで負ったうえで迅速な意思決定ができる直営形態を取っています」
ちょこざっぷはサービス開始当初から、施設にセルフエステやセルフ脱毛機器を置いたり、ゴルフ練習ブースを設けたりするなど、来館動機につながるサービスを提供している。コンビニジムを謳うように、こうした「トレーニングマシンに留まらない」サービスを今後も増やしていく考えだ。
「コンビニは小売りから始まりましたが、今ではチケット販売や荷物の受発送もできるようになり、どんどん便利で欲しいものがある場所になっていきました。
ちょこざっぷも、ジムというには違和感があると思っています。運動する目的でなくても、エステマシンをきっかけに入会して、『ついでにちょっと走ってみようかな』と結果的に運動する形だって良いと思っています。まだ言えませんが、コンビニのように今後もさまざまなサービスを広げていこうと考えています」
ライザップ店舗は縮小も「相乗効果出す」
chocoZAP店舗の内観。
RIZAP提供
ちょこざっぷが急成長する一方で、ライザップの店舗数は減少傾向だ。ボディメイク事業のライザップ国内店舗数は、コロナ禍前の2019年3月末の130店舗をピークに2022年3月末には123店舗に減った。新規会員の増加数も、2018年3月期の2.7万人から、2022年3月期は1.3万人と鈍化した。
2023年3月期の決算は、ちょこざっぷ事業への先行投資として営業損失45億円を計上したが、中期経営計画では2026年3月期に営業利益300億円の達成を掲げる。うち5割強の165億円は、ちょこざっぷを含むライザップ事業で稼ぐ計画だ。
既存のボディメイク事業(ライザップ)の今後についてはどう考えているのか。
「ちょこざっぷとライザップは、どんどんシームレスにしていきたいと思ってます。ライザップは本気の方限定のパーソナルトレーニングで、それはそれで良かったのですが、そこまで本気の方は数としては少ない。エントリーの方々に対してのアプローチをすることで間口を広げた結果、中には、もう1歩踏み込んだサポートを求めている人もいることが分かりました」
実際に、ちょこざっぷ会員向けにライザップトレーナーによるトレーニング体験会を募集したところ、3日で850件の申し込みがあった。
「実は、ちょこざっぷ会員の中からライザップへの入会者も生まれています。すごい人数ではないですが、ライザップの会費は100倍なので、会員の1%が移行するだけでも大きい。ドラゴンボールで言う『フュージョン』じゃないですが、ライザップとちょこざっぷが一緒にあるからこそ、1足す1を3以上にしてより大きな価値提案ができる形にしていきます」