ビズリーチの酒井哲也社長(右)と、新CMにも出演する吉谷彩子さん。
撮影:横山耕太郎
転職プラットフォームのビズリーチは2023年7月6日、転職で必要な「職務経歴書(レジュメ)」を生成AIで簡単に作れる新機能を発表した。
職種やポジション、業務領域などを、選択または自由記述するだけで、すぐに職務経歴書を書くことができる。
記者会見に参加したビズリーチ社長の酒井哲也氏は、転職活動においては「自分のスキルや経験の言語化や可視化が間違いなくハードルになっている」と指摘。その上で、生成AIによる新機能の価値について、次のように話した。
「転職の希望者は増えているが、実際の転職者数はそんなに増えていない。自動作成機能でそのハードルを解消したい」
入力するのは「4項目だけ」
実際に作成した職務経歴書。現在はアプリでしか利用できない。
撮影:横山耕太郎
ビズリーチが発表した「GPTモデルのレジュメ自動作成機能」では、職種、ポジション、ミッション、業務領域の4項目について入力するだけで、すぐに職務経歴書を作れる。現在はアプリ版(iOS)のみ提供。新機能ではGPT-3.5 turboを利用しているが、詳細は公表していない。
試しに以下のような条件を入力して、職務経歴書を作ってみた。
- 職種……記者、Webコンテンツ企画、編集
- ポジション……一般社員
- ミッション……記事クオリティの向上、コンテンツ企画、読者リーチの拡大
- 業務領域……記事編集、テキスト執筆
これらを入力すると、待つこと数十秒で415文字の職務経歴書が完成した。実際の入力は、「職種」に応じだ仕事内容などの選択肢が多く表示されるため、選択肢を選ぶだけで簡単に入力できる。
完成した職務経歴者の一部を抜粋してみる。
【業務内容】
・記事コンテンツライティング: ニュース記事や特集記事の執筆、記事の構成や編集、情報の収集と分析、正確な情報の伝達
・企画編集: コンテンツの企画立案、テーマの設定、ターゲット読者の分析、記事の編集、タイトルや見出しの作成
【成果】
・記事クオリティの向上: 顧客満足度を10%向上させた
・読者リーチの拡大: ウェブサイトの月間ユーザー数を20%増加させた
自動生成の前の画面では、注意事項として「業務内容の充足を補助する機能であり(中略)、内容をご確認いただき、編集した上でご活用ください」とされている。
試しに作ってみた職務経歴書でも「顧客満足度10%向上」など、自分自身では入力していない具体的な数値も出てきていた。AIが「もっともらしいが不正確な情報」を作り出してしまう、いわゆるAIのハルシネーション(幻覚)の問題はこの職務経歴書生成でも注意しなければいけない。
東大大学院・小島教授が効果検証
東大大学院教授で、「マッチング理論」に詳しい小島武仁氏が新機能の効果検証を実施した。
撮影:横山耕太郎
生成AIによる新機能で作った職務経歴者は、実際に転職活動に役立つのか?
新機能の効果検証を担当した東京大学大学院教授で、東大マーケットデザインセンター長の小島武仁氏も記者会見に出席した。
効果検証では、GPTツールを使ったユーザーと、使わなかったユーザーを分けた上で、業種や年齢など、年収のユーザー属性の偏りを揃えた上で、企業からのスカウトの受信数を比較した。
調査の結果、GPTツールを使って職務経歴書を更新したユーザーは、受信率が40%アップしていた。
ビズリーチ広報によると「職務経歴書に書かれている情報が不足していると、スカウトを送る側も判断しにくくなる。GPTツールによって記述内容が充実したことが受信数の増加に繋がった可能性がある」とした。
また人間による「文章の質」の評価でも効果があった。ビズリーチのキャリア相談員が、生成AIを活用した職務経歴書と、AIを使っていない職務経歴書の文章を評価したところ、AIを使ったケースでは全19の評価項目のうち18項目で、統計的に優位な改善がみられたという。
業績好調のビズリーチ
出典:ビジョナル『決算説明資料』
転職市場の活況を受け、ビズリーチの業績も好調だ。
ビズリーチの親会社・ビジョナルは、2023年7月期第3四半期の連結決算による累計の純利益が、前年同期比44%増の70億3800万円で過去最高を更新。
ビズリーチ事業単体では、第3四半期までの累計売上高は同33%増の364億3600億円でグループの成長を牽引している。
新機能の導入が業績にあたえるインパクトをどう予想しているのか?
記者会見のあと、Business Insider Japanの取材に応じたビズリーチ社長・酒井氏は「期待はしているが、今回の新機能が最終的に採用につながるのか、最後まで見ていかないとわからない」と話した。
「私たちのデータ上では、スカウトをもらう数が多ければ面接に行く数が多くなり、入社・採用に至る方が多い傾向がある。
新機能によって売り上げがどうなるかという数字の予想は言えないが、実際の採用に繋がっていくと期待している」(酒井氏)
生成AIの利用は、新卒採用サービスなどを展開するワンキャリアなどがすでに発表している。
この時期のリリースについては、やや出遅れた印象もある。
「経営の立場としては、もっと早く出したかったという気持ちもあるが、有効に活用できるかとか一定の検証期間が必要だった」(酒井氏)
さらに今後は、大手転職サービスが同様に生成AIを使ったサービスを投入することも考えられる。競合との優位性をどう考えているのか?
「私達は即戦力、ハイクラスの方々をメインのターゲットにしており、データの保有数は国内最大級だ。
他社については言及できないが、自分たちの強みを活かしながら戦っていきたい」(酒井氏)