19世紀にイギリスで起こったラッダイト運動のように、AIが引き起こす破壊的な変化は労働市場を混乱に陥れるのだろうか。
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AIを取り巻く最大の懸念はおそらく、AIが我々の仕事を奪うことだろう。
ウォール街の重鎮2人によると、その懸念には十分な根拠があるという。
Insiderは、数人のトップエコノミストとストラテジストが、AIが経済と市場をどのように変容させると考えているかを理解するため、AIに関する意見を尋ねた。
「AIが労働時間短縮にどのような影響を与えるか」から「AIが以前の技術進歩と比較してどのレベルのイノベーションを達成するか」まで、テーマは多岐に及んだ。
著名な経済学者デビッド・ローゼンバーグ(David Rosenberg)とクオンツ投資の伝説的人物であるロブ・アーノット(Rob Arnott)は、2つの主要テーマについて共通の考え方を示した。
労働市場の大混乱と再生
ロブ・アーノット氏。
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アーノットは、労働市場の面については、テクノロジー自体についての話ではなく、誰がそれを有利に利用できるかという話となるだろうと見る。いずれにせよ、「何百万もの」雇用が失われるだろうとアーノットは語る。
リサーチ・アフィリエイツの創業者であるアーノットはEメールで、「AIによって雇用が奪われることはないが、AIの使い方を知っている者によって何百万もの雇用が奪われるだろう」と述べ、次のように続けた。
「AIはリスクでもありチャンスでもある。誰にとっても、それはどちらでもある。AIが良いか悪いか、リスクかチャンスかについて懸念することは完全に時間の無駄だ。なぜなら、我々も規制当局も想像できないほどAIは急速に進化しており、それは避けられないことだからだ」
しかし、AIは新たな雇用の創出も促すだろうとアーノットは述べ、インターネット、コンピューター、ガスや太陽エネルギー、自動車といったこれまでの技術革新後に起こったことを挙げた。
「産業革命が始まって以来、あらゆる重大な混乱が何百万もの人々の雇用を奪った。そして何百万もの雇用を生み出した。容赦なく進歩し、各世代のラッダイト運動(機械打ちこわし運動)によっても、わずかに減速したのみだった。
200年前の仕事の95%以上がもう存在しないと言っても過言ではない。その過程で何百万人もの人々が生計を絶たれたが、それらの仕事が今も必要だと思う人はいない」(アーノット)
デビッド・ローゼンバーグ氏。
Gluskin Sheff
メリルリンチ(Merrill Lynch)の元北米チーフエコノミストでローゼンバーグ・リサーチ(Rosenberg Research)の創業者であるローゼンバーグも、今後は大規模な混乱が起こると予想している。
しかしローゼンバーグは、インターネットと並行して新たな雇用が創出されることについて、少なくとも短期的にはやや悲観的な見方をしており、AIが失業率の上昇を引き起こす可能性があると見ている。
ローゼンバーグはEメールで、「インターネットは数十年前にも同様の不安を引き起こし、最終的には何百万もの雇用を生み出した。ただし、AIがたどる道がこれほどバラ色になる可能性は低い」と述べる。
「我々が現在話している類のAIテクノロジーは、より深刻な労働者の解雇を引き起こす特徴がある。なぜなら、例えばあらゆる職業のアナリストが世代ごと、完全に入れ替わることが予想されるからだ。そのコスト削減効果は驚くべきことになるだろう。
労働市場における生成AIの影響は、大変動と雇用の不確実性の増大をもたらすだろう」(ローゼンバーグ)
AI産業は「巨大市場の妄想」に陥っている
アーノットにとって、AIは間違いなく収益向上に貢献する。しかし、市場で上位数株をめぐる投機が蔓延していることを考えると、今後の上昇余地はすでに織り込み済みである。
アーノットはまた、誰が勝者になるかを判断するのは時期尚早だとし、現在の熱狂を、数年前のEV(電気自動車)銘柄をめぐる投機と比較する。当時、EVの代表格であるテスラ(Tesla)でさえ72%も下落するという、概して手痛い結果に終わった。
「AI産業は典型的な『巨大市場の妄想』に陥っている。最初は、これらが競合するにもかかわらず、あたかもすべてが成功するかのように価格設定されることが多いが、その多くは失敗するだろう。
我々は2021年にEV産業は『巨大市場の妄想』に陥っていると指摘した。2年後、例外なくすべての自動車がアンダーパフォーマンスの状態にあった。そして、そのアンダーパフォーマンスの程度の順位は、2021年のレポートを書いた時点での、開始価格と売上高の比率とほぼ完璧に重なっていた。
要するに、AIは今後10年で実質的に、今後20年で根本的に、そして50年後には私たちの想像以上に世界を変えることになるだろう。しかし、それはすでに価格に織り込み済みであり、支配的なプレーヤーはまだこれから生まれる可能性がある」(アーノット)
ローゼンバーグも、AIが収益に貢献するという考えに同意する。しかし、投資家は価格を競り続けることに熱心すぎるとも述べ、2000年に崩壊したドットコムバブルの例を引き合いに出した。
「AIテクノロジーの進歩と、その収益性と生産性への波及効果は、正当な投資テーマだ。しかし、マイクロソフト(Microsoft)が(2023年)1月にChatGPTへ追加投資したことで、超大型株の競合他社が独自の計画を発表し、すぐに追随する『軍拡競争』が始まった」
そして、ローゼンバーグは次のように続けた。
「現在我々が目の当たりにしている企業行動のタイプは、ドットコムバブルの最盛期に起こったことと不気味なほど似ている。当時、インターネットを自社のビジネスに組み込むこと(または、単に名前に「.com」を追加しただけで株価を上昇させること)を投資家が求め、そうした欲求を満たす企業が次々と現れた。
そのため、私はAIの長期的なメリットを信じているが、投資家の観点から見ると、現在の環境はある種の『狂気』を帯びているとも考えている」