広告代理店のオグルヴィは、AI生成のインフルエンサーを使った場合、ロゴとハッシュタグで開示する予定だ。
Ogilvy
アイデア出しから編集作業の自動化、バーチャルキャラクターの作成まで、AIはすでにクリエイターエコノミーのさまざまな面で影響を与えている。最近の2つの調査では、90%以上のクリエイターがAIを定期的に使用しており、企業ブランドはこれらのツールを最大限に活用するよう促していることが明らかになった。
AIの利用が拡大するにつれ、インフルエンサーマーケティングの代理店の中には、キャンペーンでのAIの使用について透明性を高める取り組みを始めたところもある。
大手広告代理店グループWPP傘下の広告代理店、オグルヴィは最近、透明性を高める方向に舵を切った。バーチャル、またはAIが生成したインフルエンサーを起用したオグルヴィのインフルエンサーマーケティングキャンペーンには、#PoweredbyAIというハッシュタグと透かしが付けられることになった。
またオグルヴィは、広告、PR、ソーシャルメディアに関わる他の企業に対し、AI生成クリエイターを起用した場合の情報開示を義務付けるよう働きかけるため、「AI説明責任規則」を作った。その最終目標は、プラットフォームが現在スポンサー付きコンテンツにつける「有料パートナーシップ」というタグと同じようなラベルを導入することだ。
ボリウッドのスーパースター、シャー・ルク・カーンやブラジルのバーチャル・クリエイター、ルーのAI生成バージョンの裏にはオグルヴィ自体が関わっている。AIで生成されたキャラクターが増加し、生身の人間に酷似してきている中で、AIで生成されたものだと開示することはこれまで以上に必要になってくる、と業界関係者は指摘する。
「人間がアバターと見分けがつかなくなる日もそう遠くはないでしょう」と、デジタル・タレント・マネジメント会社Currentsの創業者であるキャメロン・アジュダリ(Cameron Ajdari)は言う。
しかし、これはAIが生成したキャラクターに限った話ではない。インフルエンサーマーケティング会社Izeaの調査によると、インターネットユーザーの86%が、AIが生成したコンテンツについてはその事実は広く開示されるべきだと考えている。
Izeaは、ChatGPTが生成したテキストなど、AI生成コンテンツの開示を可能にするツールを作ったが、それを使うことを強制するものではないという。
AIはコンテンツ制作におけるほぼすべての面にすぐにでも浸透する可能性があるため、AIの情報開示を義務付けることは、「言うは易く行うは難し」ということかもしれないと業界関係者は言う。
AI生成のバーチャルインフルエンサーは開示されるべき
Insiderが取材したDIYクリエイターのエマ・ダウナー(Emma Downer)をはじめとする複数のクリエイターは、AI利用の開示はスポンサー・パートナーシップの開示に似ており、クリエイターと視聴者の関係の基盤である「信頼」を損なわないためにも、開示の義務化は必要だと述べる。
「マーケティングは、嘘をつかれたり、惑わされて何かをさせられたりしないという信頼の上に成り立っています。私たちは、十分な情報に基づいた選択をしたいと思っています」(ダウナー)
バーチャルインフルエンサーやキャラクターに関しての情報開示はさらに重要で、「人間的要素とグラフィックの区別がつきにくくなる場合は特にそうです」と、クリエイター・エコノミーのスタートアップ、ハッシュタグ・ペイ・ミー(Hashtag Pay Me)の創業者シンシア・ラフ(Cynthia Ruff)は言う。
「マーケティング担当者が、AIが生成した画像や肖像、音声をマーケティング目的で使用するのであれば、情報開示は絶対に必要だと思います。私たちはすでに今、アメリカの政治家が中傷キャンペーンで対立候補をディープフェイクで生成しているのを目にしていますし、その画像を本物だと思って送ってくる家族がいる可能性も高いのです」(ラフ)
AI生成で作られたインフルエンサーであることを示す透かしが入った画像例。
Ogilvy
AIの進歩に伴い、規制は可能なのか?
AIの進歩の速さを考えると、規制が意味を持つかどうかについては、クリエイター業界関係者の間で意見が分かれているという。
UCLA公開講座のインフルエンサーマーケティング教授でマーケターでもあるリア・ハバーマン(Lia Haberman)は、「私たちは、8ビットのキャラクターから完全にレンダリングされた人間まで、わずか数週間で何十年もの時を飛び越えたようです」と語る。
「ただ、AIがオンラインでのあらゆる行動に関係してくるにつれ、#PoweredbyAIというハッシュタグは、キャンペーンやデジタル作業全般での幅広いAI利用をカバーするには、見直しが必要かもしれません。
AIが生成するバーチャルインフルエンサーと、AIの力を活用するリアルなインフルエンサーとの境界線は微妙で、どこでそれを区別すればよいのでしょう?」
そして、幅広く情報開示を義務付けること、とりわけ関連の法律を整備するとなると難しい。
「すぐに実現するとは思っていません」と語るのは、コンサルティング会社、パートナーウィズクリエイター(Partner with Creators)の創業者であるアヴィ・ガンジー(Avi Gandhi)だ。
「アメリカ議会はTikTokのCEOにまともな質問すらできませんでした。AIを規制することは、悲しいことに彼らの能力をはるかに超えています」
プラットフォーム側は、AIコンテンツにラベルを付けるようになるのはいつになるかは分からないという。
TikTokは本稿についてのコメントを差し控えるとしたが、2023年5月、オンラインメディアのジ・インフォメーション(The Information)は、TikTokはAIが作成した動画かどうかを開示するシステムを開発しているようだと報じている。スナップチャット(Snapchat)とピンタレスト(Pinterest)もコメントをせず、YouTubeとメタ(Meta)はInsiderのコメント要請に回答しなかった。
クリエイターのアラスデア・マン(Alasdair Mann)は、AIが発展するスピードとその浸透度を考えると、実際にはリバースラベリング(AIを使っていないものにラベルを付けること)のほうが理にかなっているのかもしれないと言う。
マン自身、画像やコンテンツのアイデアやテンプレート生成のため、数カ月前から人工知能を使っている。
彼が入れる透かしは 「AIが作りました」というようなものより、「AIは使用していません」とか 「これは人間が作りました」というようなものになるのかもしれない。
「AIコンテンツは大量生産が非常に簡単で、急速に改善されているため、世の中にあるすべてのAIコンテンツにラベルを付けるのには苦労することになるでしょう」