キャンプブームや電気代高騰、脱炭素の潮流でポータブル電源市場が拡大している。
EcoFlow
キャンプブームを追い風にポータブル電源の需要が拡大している。最近は電気代高騰とクリーンエネルギーへの関心向上を受け、ソーラーパネルを組み合わせて発電した電気を貯める使い方も広がっている。
ポータブル電源は中国メーカーが世界のシェアの約90%を占め、各社ともキャンプ大国かつ災害が多い日本を重要市場と位置付けている。その中で後発ながら急成長を遂げているのが深センに本社を置く「EcoFlow(エコフロー、正浩創新科技)」だ。
創業4年でユニコーン企業に
ポータブル電源の認知が広がり、売れ筋製品の大型化が進んでいるという。
EcoFlow
先日、中国メディアがEcoFlowの2022年の売上高が10億ドル(約1420億円、1ドル=142円)近くに達したと報じた。同社が公表している2021年の売上高は2億ドル超なので、1年で4~5倍に伸びている。
中国化学物理電源業界協会によるとポータブル電源の世界シェアは2020年時点で Jackery(ジャクリ、深圳市華宝新能源能)、EcoFlow、BLUETTI(ブルーティ、徳蘭明海)がトップスリー。出荷台数では首位のJackeryが16.6%のシェアを持ち、EcoFlowが6.2%で追っていた。
Jackeryが発表した2022年の売上高は32億元(約640億円、1元=19.7円)、BLUETTIは20億元(約390億円)。EcoFlowは上場しておらず、同年の売上高を公式に発表していないが、報道通りだとすればJacreyを抜いてトップに立ったことになる。
EcoFlowが設立されたのは2017年。創業者でCEOの王雷氏は香港大学大学院で蓄電・電池技術を研究し、ドローン世界最大手のDJI(大疆創新)に入社、電池開発部門を立ち上げ責任者を務めた。その後、DJIの仲間たちとEcoFlowを立ち上げた。
同社は2011年設立のJackery、OEMメーカーとして2009年に蓄電池の研究開発に着手し、2013年に自社ブランドを立ち上げたBLUETTIに比べて市場への参入が遅かったが、創業早々に有力VCから資金調達し、2021年の4回目の調達で評価額10億ドルを突破。ユニコーン企業(設立10年以内で評価額10億ドルの未上場企業)の仲間入りをした。
アメリカと日本が大きな市場
EcoFlowは深セン市内の自社工場で製品を生産している。
浦上早苗撮影
後発ながら急成長できた背景を、同社広報の伊藤麗雅さんは「タイミングも良かった」と話す。リチウム電池価格は2014年から2017年の3年間で4割以上下落し、一般消費者の手の届く価格で製品を供給できるようになった。
ポータブル電源の最大の需要はアウトドア・キャンプ利用で、各社とも本社がある中国ではなく、アウトドア・キャンプ市場が成熟したアメリカに最も力を入れている。国土、住宅、車のどれもが大きい同国では、より大型で高機能な製品も売れやすい。
EcoFlowも2017年にラスベガスで開かれる世界最大級の家電見本市「CES」に出展し、アメリカからビジネスを始めた。そして2019年、2番目の市場として日本に進出した。日本もアウトドア・キャンプ文化が成熟した市場だが、2020年に始まった新型コロナウイルスでソロキャンプが一大ブームとなり、スマートフォンやパソコンの充電はもちろん、ドライヤーや調理器具も使えるポータブル電源のニーズが一気に高まったタイミングを捉えることができた。
その後、EcoFlowは2020年に中国、2021年にヨーロッパに進出し、現在は100カ国以上で製品を展開している。全体の売上高に占める中国市場の比率は10%程度で、伊藤さんによるとCEOをはじめ幹部は社内にほとんどおらず、海外市場の開拓に努めている。
EcoFlowの最大の特徴は、充実した研究開発と自社生産体制だという。2000人の従業員のうち研究開発スタッフが48%を占め、数年前に深セン市内に自社工場を稼働した。
生産ラインの責任者を務める安仕煬氏は、「発売から時間が経った製品は外部に生産を委託することもあるが、主力製品は生産を内製化した方が問題点を見つけやすく、製品の改善に生かせるし、検査を徹底できる」と話す。
消費者のニーズに対応して開発した急速充電システム「X-Stream」は、1時間で80%の充電を実現し、高度なアルゴリズムが消費電力の大きい家電を識別し、その電圧を下げることで定格出力を超える電化製品でも稼働させる「X-Boost」と併せ、他社製品の差別化につながっているという。
祇園祭りの電力供給にも利用
日本市場では、ポータブル電源の需要として電気代高騰を受けた節電や災害用備蓄も注目されている。
日本能率協会総合研究所のマーケティング・データ・バンクが2019年に行った調査は、日本の家庭用蓄電池市場の2023年度の市場規模を2020年比2割増の1200億円と見込んでいる。東日本大震災翌年の2012年に家庭用蓄電池の導入を支援する補助金制度が導入されたのを機に、防災食品や補助電源など防災対策市場の成長が始まった。
マーケティング・データ・バンク
日本市場はJackery 、EcoFlow、BLUETTIの3社に、モバイルバッテリーを中心にロボット掃除機など多彩な商品を手掛けるANKER(アンカー、安克創新科技)を加えた4社が個人ユーザー向けのEC販路を中心にしのぎを削っているが、BLUETTI が2022年8月に法人・行政向けのビジネスを展開する子会社を設立するなど、災害用備蓄に力を入れる動きも活発化している。
EcoFlowも2021年にソーラーパネルによる発電、ポータブル電源による蓄電・電気使用を一気通貫で行えるエコシステムを発売した。防災目的の場合、停電時にも充電できるように別売のソーラーパネルとセットで購入する人が多く、同社が今春都内にオープンした期間限定店舗ではセット購入率が36%に達した。
京都の祇園祭の山鉾にソーラーパネルで発電した電力を使用する。
EcoFlow
脱炭素の潮流から再生エネルギー利用への関心も高まっており、EcoFlowは7月に実施されている京都の祇園祭にポータブル電源とソーラーパネルを提供し、山鉾の電気供給に協力する。
同社は「EcoFlowの2023年1~6月の日本での売上高は前年同期比75%拡大したが、ポータブル電源の存在をまだ知らない人も多く、伸びしろは大きい。今はECや家電量販店での販売が中心だが、アウトドア愛好家以外の層への認知度を高めるため、常設店舗の開設も検討したい」としている。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。