PBRは、企業の株価が割高か割安かを判断する指標だ。
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- PBR(株価純資産倍率)は、会社の純資産と株価を比較する指標だ。
- 業界によって平均値はまちまちだが、PBR1倍割れは株価が割安であることを表すことが多いとされている。
- 7月3日に稼働された東証の新指標「JPXプライム150指数」では、このPBRが重要指標のひとつとして採用されている。
ある株式を買うという意思決定にはさまざまな要因が影響する。もちろん企業業績はその1つだが、同じくらい重要なのが、株価が妥当かどうかということだ。
株価が高すぎる場合、この株式は割高なのでこの先下落し、投資家は最後には損を被るかもしれない。反対に、株価が割安、すなわち価格が安ければ大儲けする可能性がある。
だが、どうしたらそれがわかるだろうか? 1つの方法が、企業の「株価純資産倍率」、すなわちPBR(Price Book-value Ratio)を見ることだ。この指標は株価が割安か割高かを測る手っ取り早い指標で、同業他社との比較に使える。PBRレシオは、1株当たりの株価が妥当な水準か、内在的価値よりも低いか、あるいは非現実的なくらい高いのかを示す。
年初来、日本市場では、このPBRが注目を集めている。日本株は、欧米と比べて「PBR1倍割れ」の銘柄が突出して多いため、この1月に東証がそうした企業に対して改善要請を出したからだ。また、7月3日より稼働した東証の新指標「JPXプライム150指数」でも、PBRは重要指標として採用されている。
PBRの算出方法とその解釈の仕方を以下に説明しよう。
PBRとは何か?
- 株価純資産倍率(PBR)とは、会社の1株当たり純資産(BVPS)に対して株価が何倍で評価されているかを示す。「純資産」とは、会社の内在的な財務価値のことで、具体的には会社の資産から負債を差し引いた金額である。
PBRは正式には比率だが、1つの数字として表されることが多い。
PBRは金融サイトでも調べられるが、次の式を使って自分でPBRを計算することもできる。
注記:PBRは正式には比率だが、1つの数字として表示されることが多い。例えば、12対1という比率は、単に「12」と表示され、「1」は暗黙の了解で表記されない。
PBRの算出方法
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PBRを算出するための3ステップ
ステップ1:現在の株価を調べる。これは、会社名や証券コードを入力してオンラインで検索すればすぐに表示されるので簡単だ。
ステップ2:1株当たり純資産(BVPS)を調べる。最も簡単な方法は金融サイトで銘柄を検索し、下にスクロールすると出てくる。
あるいはBVPSを自分で計算する場合は、まず企業の資産と負債の差である「簿価」すなわち「純資産」を導き出そう。
そのためには、初めに上場企業の貸借対照表を確認するといい。米国企業なら年次報告書(フォーム10-K)や四半期報告書(フォーム10-Q)に盛り込まれており、いずれも米国証券取引所の「エドガー(EDGAR)」で検索可能だ。日本企業の場合は、金融庁の「エディネット(EDINET)」からダウンロードできる。また財務諸表は各企業のホームページのIRセクションからも入手可能だ。
あとは簡単な算数の問題である。貸借対照表上に表示される総資産から負債合計を差し引くと純資産が求められる。
最後に1株当たりの純資産を導き出すのだが、これもまた簡単な計算で導き出せる。上記で求めた純資産を、特定の日における発行済み株式数で割れば良い。発行済み株式数は企業の貸借対照表や株式サイトにも載っているが、後者が最新の数字である。
こうして出た数字が、企業の1株当たり純資産額(BVPS)だ。
ステップ3:株価をBVPSで割って、PBRを計算する。
PBRの重要性
PBRが1倍を割れているということは、その株式が割安であり、他の条件が同じならば今後上昇する見込みが高いと言うアナリストもいる。PBRが1倍とは、株式の市場価格と純資産が等しい「公正」価格かもしれない。一方、PBRが3倍以上とは株式の市場価格が高すぎることを示唆しており、この先下落する可能性がある。
とは言え、PBRが〇〇倍だと「良い」とか「悪い」とか単一の基準を決めるのは危険だ。業界によってPBRのレンジは異なる。ある業種では高いと思われているPBRの水準も、別の業種では低いかもしれない。
なぜなら、製造業はサービス業よりも多くの資産を貸借対照表上に計上しているし、運送業者の間接費はオンライン銀行よりも高いからだ。
こうした業種間の違いがあるため、会社間でのPBRの単純比較が現実的でないことがある。PBRは企業間のバリュエーション(株価評価)比較に役立つかもしれないが、投資家は同一条件、つまり同じ業種の企業同士を比べるよう慎重を期さなければならない。
この点が、PBRは他の指標と併せて使うべきツールであり、「相対バリュエーションを測る数多ある指標の中の1つ」である理由だと、欧州系投資銀行ソシエテ・ジェネラル(Société Générale)で北米株式クオンツリサーチチームを率いるソロモン・タデセ氏は指摘する。
PBRの例
ABC社のある日の純資産が1000万ドル(約14億円)、発行済み株式数が1000万株だったとしよう。この会社の1株当たり純資産は1000万ドルを1000万株で割って計算できるため1になる。つまり投資家は、会社の1株当たり純資産価額に対して実質的に1ドルを支払っている。 もし株価が2ドルだったら、PBRは2である。これは、投資家が会社の1株当たり純資産に対して2ドルを支払っていることを意味する。
ABC社のPBRを長期間追跡すると、その値が安定しているのか、それとも上下に変動しているのかわかる。投資家はまた、PBRを同業他社のXYZ社と比較できる。もしXYZ社のPBRがABC社を大幅に上回っていれば、市場がXYZ社の強い利益成長を期待しており、それを見越して株式を買い進めていることを示唆しているかもしれない。それを見て投資家はXYZ社の株式はすでに割高だと結論づける可能性がある。
反対に、XYZ社のPBRが0.5倍の場合、投資家は純資産を下回る価格しか支払っていないので、株価はディスカウントで取引されていると見なされ割安の可能性がある。と思いきや、まったくダメな株式かもしれない。
PBRはどの程度正確か?
- 「PBRは以前から使われている指標だが、欠点もあり一部の投資家の間では人気がない」とタデセ氏は言う。
- 「1つ目の欠点は、PBRは特許やその他知的財産権といった評価が難しい無形資産を考慮していないことだ。2つ目は、一般的に簿価(総資産から負債合計を引いた額)とは、低価法で評価した資産価額に基づく会計上の概念であることだ。したがって、簿価は会社の1株当たり純資産を過小評価する恐れがある。また、1株当たり純資産を引き下げる可能性があるため、PBRが人為的に高く見えかねない」
- 例えばソフトウェア大手のマイクロソフトのような、多くを特許やその他評価が難しい無形資産からその価値の導き出している企業は、PBRが10を超える。この数値はフォードやGMといった自動車メーカーの1桁台のPBRと比べると割高に見えるだろう。
- 「したがってPBR単体だけ見ても、特にハイテク企業の評価は難しい。PBRは製造業のような資本集約的なオールドエコノミーの企業の評価に向いている」とタデセ氏は言う。
- 2023年7月3日から始まったJPXプライム150指数では、「株価評価指標」としてこのPBRを、「資本収益性指標」として自己資本利益率(ROE)と資本コストの差であるエクイティ・スプレッドを採用している。結果として、時価総額は大きいがPBRが低いトヨタや三菱UFJ銀行などのオールドエコノミー企業は指数に入っていない。
こうした欠点はあっても、バリュー投資の提唱者(株式パフォーマンスは低調だが株価が再び上昇する際に利益を得ることを目標に、本質的に堅実な銘柄を追い求める投資家)は、PBRを信奉する。PBRは会社のファンダメンタルズ(基礎的条件)と株価を比較してお宝銘柄をかぎ分ける手っ取り早い方法なのだ。
PBRはまた、景気循環と呼ばれるセクターの株式分析に特に役立つかもしれない。このセクターは、好景気の時には上昇するが、業績基調が健全そうでも景気後退局面では下落する。「バリュー投資家は、特に景気回復期に入る直前には景気循環株を選好する傾向にある」とタデセ氏は言う。
まとめ
PBRを見れば、ある銘柄が同じセクターの同業他社と比べて、あるいは時に市場全体と比較してお買い得かどうかがわかる。また、株価と比較してファンダメンタルズ(純資産)に注目すると、今の株価を歪めている投機的なノイズを排除できる。加えて、1つの企業のPBRを長期間にわたって追跡すると、将来株価が上昇するか下落するかを示してくれるだろう。
とはいえ、PBRは株式評価の1つの手法にすぎない。タデセ氏が言うように、他にも検討すべき多くのデータがあり、まぎれもなく市場には「多くのバリュエーション指標であふれかえっている」。そしてどの指標よりも投資において重要なことは、その会社の経営状況や作っている製品を、投資家としてあなたが好きかどうかということだ。