アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のアダム・セリプスキー最高経営責任者(CEO)。昨年来、成長減速の指摘される同社だが、ここに来て再成長に向かう動きが見られるようだ。
Amazon Web Service
みずほ銀行が行った最新調査の結果によれば、クラウドコンピューティング関連の予算は大幅削減される傾向にあったが、ジェネレーティブ(生成)AIブームの影響で歯止めがかかり、クラウドサービス市場シェア首位のアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)にとっては大きな追い風になりそうだという。
企業は昨年来、景気後退入りを見越してIT関連予算の見直しに着手しており、その影響で大手クラウドサービスプロバイダー3社は2022年の春先に月額利用料金収入の減少を記録。通年の売上高成長率も前年比で低下が確認されていた。
みずほ銀行がフォーチュン1000(米国の売上高上位1000社)のうち300社の最高情報責任者(CIO)を対象に行った調査によれば、2023年第1四半期(1〜3月)については、クラウド契約の締結に至るまでの時間が通常に比べて50%増となり、クラウドサービス市場全体で30〜40%程度のディスカウント契約が常態化していた模様だ。
ただし、翌四半期(4〜6月)には契約に要する時間もほぼ「通常」に戻り、クラウドプロバイダー各社がディスカウントに応じたのも、大口顧客との複数年契約の締結時に限られたことが、同調査を通じて明らかになっている。
第1四半期時点ではクラウド予算の削減に躍起になっていた各社のCIOだが、節約した分を第2四半期に入って生成AIへの投資を通じて吐き出そうとしている。
顧客企業が我先にと生成AI技術を実装し、運用に必要なクラウドストレージやクラウドサービスの調達を同時に進める中、AWSはその大波に乗ってひと儲けしようとすでに準備を整えているという。
みずほ銀行の調査レポートはこう指摘する。
「生成AIはクラウド上でのみ効率的なデプロイが可能な新技術であり、それゆえにクラウド普及の次なるスーパーサイクル突入のけん引力となって、今後数年間にわたるマスマーケットのクラウド移行を加速させることになります」
アマゾンはAWSの顧客企業向けに生成AIアプリ開発のための基盤モデル(大規模言語モデル「Jurassic-2」「Claude」や画像生成AI「Stable Diffusion」など)を提供するプラットフォーム「ベッドロック(Bedrock)」を4月に発表した。
プライバシー保護・管理に関する信頼性や安全性の高さに期待が高まり、自社の生成AIアプリ構築に向けて社内データを使用した基盤モデルのカスタマイズを希望する顧客企業が殺到。ウェイティングリストに200社が名を連ねている状態という。
こうした顧客企業の良好な反応は、市場シェア首位のAWSにとって、再成長への追い風になるかもしれない。
アマゾンが2023年第1四半期の決算発表時に示したクラウド部門(AWS)の売上高成長率は、過去最低水準となる前年比16%増。2022年第1四半期の40%に比べると劇的な減速ぶりだ。
AWSは第1四半期に黒字を計上したものの、売上高成長率の減速は「歓迎されない」結果で、「成長の再加速を実現する必要があることは間違いない」と、資産運用大手バーンスタイン(Bernstein)のアナリストは当時指摘していた。
【図表1】大手クラウドサービス3社の売上高成長率の推移。四半期ごとの前年同期比の変化率。AWS(黄線)の減速ぶりが際立つ。なお、2023年第2四半期の数値については見通し。
Chart: Andy Kiersz/Insider Source: Company earnings reports and SEC filings
クラウドサービス市場で競合するマイクロソフト(Microsoft)は対話型AI「ChatGPT」の開発元OpenAIに数十億ドルを出資し、同じく競合するグーグル(Google)も独自の対話型AI「バード(Bard)」を発表しており、AI分野でアマゾンの存在感は薄いとの声が一部のアナリストから上がっている。
だが、みずほ銀行の調査レポートを踏まえると、動きこそ派手さを若干欠くものの、AWSはAI分野におけるチャンスを着実に活かそうとしており、各企業のCIOもアマゾンの存在感が薄いとの指摘に妥当性を感じていない模様だ。