デイビッド・カパブランカ氏。
David Capablanca
デイビッド・カパブランカ(David Capablanca)氏は、建築家になって、自分の死後も長く残るような建築物を建てることを夢見ていた。その目標を実現すべく、彼はフロリダ大学で建築デザインの学士号を取得して卒業し、2016年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校で大学院の学位を取得した。
しかし、社会に出て若手建築家になったカパブランカ氏は、時給約28ドルの稼ぎでは学生ローンを返済するのに10年以上かかることを悟った。何年も学校に通っていた彼は、クレジットスコアの低さや家賃、車にかかる費用も考慮しなければならなかった。
それまで彼は、大金を稼ぐことなど考えていなかった。ひたすら情熱を追求してきたのだ。しかし、医師から脳腫瘍のため脳外科手術を受けなければ余命2週間と告げられたとき、彼は目が覚めたという。
「50年分の命を医師にもらいました」とカパブランカ氏は語る。
「その50年を有意義なものにする必要があります。借金ばかりして無駄にすることはできません。クレジットスコアが低い生活をやめなければ。借金やストレスもです。30歳にもなって親に電話して家賃の支払いを助けてもらっていたんです。それをやめないといけませんでした」
カパブランカ氏はまず、選択肢として不動産投資を考えた。建築を熟知していたので、家なら簡単に売れると思ったのだ。しかしインターネットで調べるうちに、彼は株取引というアイデアに行き当たった。具体的には、ティモシー・サイクス(Timothy Sykes)氏というトレーディングの講師を見つけたのだ。バル・ミツバー(ユダヤ教の通過儀礼)で授かった現金を100万ドル(約1億4000万円、1ドル=140円換算)以上の利益に変えたと主張していることで知られる元ペニー株トレーダーだ。サイクス氏は、ペニー株の取引のやり方についてオンライン講座を開いていた。
カパブランカ氏は最初、詐欺だと思ったが、好奇心をそそられたのも確かだった。そこで彼は、サイクス氏の無料コンテンツを利用し始め、その後、サイクス氏の生徒数名に連絡を取り、彼らが本物かどうかを確かめた。3カ月後、カパブランカ氏は会員登録することに決めた。家庭教師、ドッグシッター、フードデリバリーなど片手間で稼いだお金を蓄え、「ミリオネア・トレーディング・チャレンジ」コースに約6000ドル(約84万円)を支払った。
2016年の終わりには、カパブランカ氏は数百ドルの少額取引をするようになった。お気に入りの取引は空売りで、株を借りて売り、後で買い戻し、値下がりしたらその差額を懐に入れるというものだった。なぜなら彼は、短期間の上昇の後、価格の急落につながるサインを見抜けたからである。当時、彼は口座に最低2万5000ドル(約350万円)の資金が必要となるパターン・デイ・トレード(PDT)の基準を満たしていなかったため、日中の取引ができず、夜通し小さなポジションを扱った。
少額で実践を続けるうち2020年に差しかかり、株式市場が不安定になった。カパブランカ氏は、バイオテクノロジー企業や製薬会社など、ファンダメンタルズに欠ける企業が何百パーセントも上昇するのを見て、これは株の空売りで儲ける10年に1度のチャンスだと考えた。PDTの基準を満たすために自分の口座の残高を増やす時が来たと判断したのだ。
「当時を思い返すと、リスクを背負ってやってみるのに、あの時が最適のタイミングでした」
Insiderは、2021年2月から2023年4月までのカパブランカ氏の取引に関する、毎月の証券取引明細書を確認した。パフォーマンスを追跡するオンライン・トレーディング・ジャーナルのTraderSyncによれば、彼の現在の勝率は94.91%だ。
TraderSyncの最高技術責任者であるデイビッド・オリバレス(David Olivares)氏は、カパブランカ氏のインタラクティブ・ブローカーズ(Interactive Brokers)での取引明細のデータとインタラクティブ・ブローカーズAPIを通じて入手した取引の生データについて統計調査をした上で、彼のコブラ(Cobra)の口座の取引もいくつかクロスチェックした。オリバレス氏は、誤差の可能性は2%と指摘し、TraderSyncのカパブランカ氏のインタラクティブ・ブローカーズ口座の評価を91.57%から90%に修正した。
カパブランカ氏は最大6つの取引口座を使用しているが、利益の大半はインタラクティブ・ブローカーズとコブラで作られている。6つの口座の勝率は92〜97.66%だった。
複数の口座を使うことで、1つの口座で1度に1銘柄ずつ取引するリスクを抑えられる。こうすることで、特定の取引でより大きなキャッシュポジションを持ちたいという誘惑に駆られることがなくなる。さらに、空売りをするための株を借りる際の手数料を最適化することもできる。
「全米投資選手権」の創設者であるノーマン・ザデ(Norman Zadeh)氏は、空売りをすることのマイナス面を警告する。この種の取引は損失が底なしに広がることがあるのでリスクが高い。ザデ氏は、株を空売りする場合、得られる利益は株の価格に限定されると指摘する。一方で、株価がどれだけ上昇するかは分からず、損失の可能性は無限大だ。
「ジム・チャノス(Jim Chanos)氏やジョン・ポールソン(John Paulson)氏のように、ある企業やセクターを注意深く分析し、それが暴落する可能性が高いことに気づく人物は何年かに一度現れるでしょう。彼らの成績を調べれば、彼らがどれほど偉大であったかが分かると同時に、どれほど大金を稼いでいたとしても、うまくいかなかったトレードも経験していることも分かるはずです。
ショートからデイトレードで儲けることも可能だとは思いますが、株の借り入れが難しいので、買い(ロング)からのデイトレードよりも難しくなります。そんなことができる人は、極めて少数です」(ザデ氏)
カパブランカ氏は、パイロットのフライトチェックリストに見立てたチェックリストを使っており、この方法でチェックする際は細心の注意を払う必要があると話す。
9個の指標を使ったチェックの内容
1日に40%上昇した銘柄は、カパブランカ氏のスキャナーに表示される。それが表示されると空売りトレードの基準に合うかどうかを確認するためのデューデリジェンスを行う。彼の戦略の大部分は、取引で悲惨な目に遭うのを避けることが目的であり、いくつかの指標はそのシグナルとなる。
まず、上昇のきっかけを特定するためにニュースをチェックする。中小企業の株価が急上昇するときは誇大なニュースによることが多い。ある製薬会社の新薬が第1段階の試験に合格したといったような時だ。しかし医薬品が発売されるまでにはまだ多くの段階がある。そのため上昇は長くは続かず、株価は元に戻る(下がる)可能性がある。
2月23日、遺伝子治療会社のジェンプレックス(Genprex:GNPX)がカパブランカ氏のスキャナーに表示された。時間外取引で4分間に1.80ドルから2.11ドルに上昇したためだ。彼は以前、この会社に関する有料の宣伝メールを受け取り、誇大に宣伝されていると考えたため、この株を空売りしていた。Success Traderの証券取引明細とTraderSyncによると、彼は1.91ドルで再度空売りし、約1.87ドルでポジションをカバーして、1811ドル(約25万3500円)の利益を得た。
カパブランカ氏は、浮動株(取引可能な株数)の少ない銘柄を避けている。少ない出来高で動く可能性があるためだ。彼によれば、1株あたり1ドルで取引されている銘柄が突然100ドルに急騰することもあるという。彼は浮動株が100万株未満の銘柄は空売りしないことにしている。
逆に、浮動株が2000万株以上ある銘柄はそれほど変動が大きくないため、好ましくない。これらの銘柄は、より著名な企業で、長期保有する傾向がある機関投資家が付いていることが多い。カパブランカ氏のスイートスポットは、浮動株が500万〜2000万の銘柄である。
同じ理由から、時価総額が2億5000万ドル(350億円)を超える銘柄も避けている。機関投資家の保有比率が高い可能性があるからだ。
「それは危険信号です」とカパブランカ氏は言う。
「こういった機関投資家は、何よりもまずその会社を信じています。彼らは私よりはるかに多くのお金を持っている洗練された人々です。そのうえ大金を持っているので、彼らには多くのアルゴリズムがあるのです」
正確に言えば、カパブランカ氏は機関投資家の持ち株比率が40%を超える銘柄を避けている。
彼は0.60ドルという安い株を空売りすることに意欲的ではあるものの、1株あたり2ドル以下の株は、価格がどこまで上がるか予測するのが難しいことからあまり好ましくない。浮動株が少ないのと同様、安い株は非常に変動しやすいという。
3月20日、CISOグローバル(CISO Global=CISO)が取引終了後に決算を発表し、その後の時間外取引で0.21ドルから0.91ドルへと約197%急騰したことにカパブランカ氏は気づいた。株価は2ドルを下回っていたので、彼は確認のために反転を待った。コブラの証券取引明細とTraderSyncによれば、株価が下がり始めてからカパブランカ氏は4万9200株を0.69ドルで空売りし、約0.67ドルでポジションをカバーして、984ドル(約13万7700円)の利益を得た。株価が2ドル以下で取引されていたため、大きなポジションの取引はしなかった。
一方、カパブランカ氏が空売りする株価の最高値は15ドル(約2100円)だ。これを超える株価は、より強固なファンダメンタルズとより多くの機関投資家を擁する健全な企業を示している可能性がある。
信用取引の空売り比率は、その銘柄を空売りしようとしているトレーダーがどれだけいるのかを暗示する。しかし、このレートがレポートされるのは隔週だ。そこでカパブランカ氏は、空売り比率の取引時間内指標として貸株料を見るようにしている。これは株式を空売りに貸し出すためのブローカー手数料であり、借り入れの需要が高ければ高いほど、この手数料も高くなる。浮動株が少ない小型株でコストが80%を超えている場合、空売りが多すぎる可能性が高い。その結果、ショートスクイズが発生する可能性がある、と彼は指摘する。
「インタラクティブ・ブローカーズは、多数のブローカーからの貸株料を集計して、平均金利を算出します。私はそれを取引時間内の空売り比率の指標として使っています」
カパブランカ氏は銘柄が希薄化されるかどうかにも注目している。その企業の手元資金が3カ月分に満たないようであれば、空売り候補に最適だ。直ちに現金を調達する必要があり、株式売り出しや「アット・ザ・マーケット・アグリーメント(ATM)」を行う可能性が高いためだ。これは企業が新たに株式を発行して売り出し、株主の希薄化が起こるものだ。
最後に、彼は過去1年間のチャートを見て「バッグ・ホルダー」、つまり高値で株を買い、売却が間に合わなかった株主がいる銘柄を特定する。このような株主は、株価が戻るのを待って株を手放すことが多い。これは通常、株価の過去の最高値と、出来高の多さを組み合わせることで見えてくる。
彼によれば、条件が完璧なのは上記の指標にすべて当てはまったときだ。時価総額が2億5000万ドル(約350億円)以下の銘柄が40%以上上昇し、その企業の手持ち現金は3カ月分に満たず、浮動株が1000万〜1500万株、貸株料が80%未満で、特段大きなニュースもない場合は「空売りに最適な銘柄です。もちろん私は空売りします」。
しかし、たとえ納得のいく指標になっていたとしても、人気のセクターの取引は危険だと彼は指摘する。例に挙がったのは、2021年3月3日のことだ。スーパー・リーグ・ゲーミング(Super League Gaming=SLGG)は、出来高を伴って40%以上上昇したことでカパブランカ氏のスキャナーにピックアップされた。彼は、この銘柄の浮動株が1000万を超えていたことを思い出した。当時、ファンダメンタルズはそろっておらず、きっかけとなるニュースもなかった。彼は4.98ドル付近で空売りしたが、株価は急落せず、むしろ上昇を続けた。TraderSyncによると、6.97ドルでポジションをカバーして、1万9000ドル(約266万円)の損失を出している。
敗因は、この銘柄がゲーム小売業を営むゲームストップ(Gamestop)と同調して動いていたことを見逃し、レディット(Reddit)やツイッター(Twitter)といったSNSで銘柄が話題に上げられていたことに気づかなかったことにあったのだ。