アマゾン、グーグル、メタ…テック大手に蔓延する「フェイクワーク」。大量解雇を生んだマネジメントの怠慢という諸悪の根源

フェイクワーク

Arantza Pena/Insider

グレアム(仮名)はアマゾン(Amazon)に採用されたとき、夢のような仕事だと思った。

研究科学者としてアマゾンの音声アシスタント「アレクサ(Alexa)」の機能開発をサポートすることになったグレアムは、機械学習に関する専門知識を活かして、個々のユーザーがアレクサをよりパーソナライズできる、イケてる新機能の開発にすぐ携わることになるのだろうと思っていた。

しかし入社して4カ月も経たないうちに、アマゾンが自分をどう使うべきか見当もついていないことが明らかになった。

グレアムはその後の2年間、さまざまな部署を転々とした。チームを異動したり、実質的に何の成果も出していないプロジェクトリーダーたちが昇進する様子を眺めたりしながら、ただ時間をやり過ごす日々。年俸は30万ドル(約4200万円、1ドル=140円換算)以上もらっていたが、それに見合う仕事はほとんどしていなかった。

やることもなく漂流しているように感じていた彼は、次第に仕事への意欲を失い、最終的にはアマゾンの正式なパフォーマンス改善プラン(編注:パフォーマンスが低いと評価された従業員向けのプログラム)の対象となった。

解雇の危機に直面したグレアムだったが、ついに機械学習を使ってアマゾンの音楽レコメンデーションを改善するプロジェクトを任されることになる。それはグレアムが「初めて取り組んだ、本当に興味深いこと」だった。

グレアムはチームの貴重な一員になったと感じて喜んでいたが、上司から驚くべきことを告げられた。彼が1カ月以上かけて完成させたこのプロジェクトが日の目を見ることはない、と。このプロジェクトは単にパフォーマンス改善プランの条件を満たすためのもので、雇用を引き延ばすためのエクササイズだと言われたのだ。

それからまもなく、グレアムはアマゾンを退職した。

テック企業にはびこる「フェイクワーク」

今年、テック企業が何万人もの従業員をレイオフするなかで、ベンチャーキャピタリスト(VC)や企業幹部たちはグレアムのような従業員の仕事を「フェイクワーク(偽装労働)」と呼び、それを盾にとるようになった。

グーグル(Google)やメタ(Meta)といった大手テック企業では、何千人もの従業員が生産的な仕事をほとんどせずに忙しそうなふりをしながら座っているだけなのだから、解雇は必要だし賢明ですらある、というわけだ。

「こういう人たちには何もすることがありません。すべてフェイクワークです。それがいま明らかになってきています。実際のところ彼らは何をしているのか。ただただ会議に出ているんです」

これは、テクノロジー分野の著名な投資家であるキース・ラボイス(Keith Rabois)が、3月に投資銀行エバーコア(Evercore)の主催で行われたイベントに登壇した際の発言だ。

ラボイスの主張を裏付けるように、巨大テック企業から報酬をもらいながら、ほとんど何もしていないというエピソードを共有するテック関係者も複数いた。TikTok(ティックトック)で注目されたある動画では、メタの元ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョンのポリシー・アナリストであるブリット・レヴィ(Brit Levy)が、「基本的にどうにかして仕事を見つける」必要があったと語り、会社は従業員を「ポケモンカードのように」抱え込んでいるだけだと話している。

しかし、テック企業の現・元社員や管理職を含む30人以上の業界関係者に取材して分かったのは、怠惰な社員が大したこともせずに高給をもらっているという発想は、責任の所在を間違えているということだ。

多くの場合、社員はさまざまな仕事をこなしている。ただ、そのプロジェクトが会社の収益にとってさして重要でないだけだ。技術職の従業員たちは、匿名を条件にInsiderの取材に応じてくれた。

「ほとんどの労働者は、会社に来て働きたいと思っています。出勤し、8時間きちんと働き、気分よく過ごしたいのです」と、マサチューセッツ大学ローウェル校の戦略経営学教授で、インターネットブームの初期にテック業界で働いていたスコット・レイサム(Scott Latham)は言う。

「フェイクワーク」カルチャーの真犯人はただ一人、「怠惰なマネジメント」だとレイサムは言う。

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