ディズニーのボブ・アイガー CEO。
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ウォルト・ディズニー・カンパニー(Walt Disney Company)は2023年7月12日、ボブ・アイガーCEOとの契約を2026年まで2年延長したと発表した。
アイガーは、破壊的でコストのかかるストリーミングへの移行や深刻化する経済の逆風の中でも会社を安定させるため、リストラや広範囲なコストカットを行ってきた。
アイガーは13日、CNBCの取材に対し、自分は多くのことを成し遂げてきたが、さらにやるべきことがたくさんあるとの認識で取締役会とは一致していると語り、自分が長く会社に残ることで他の幹部が自己成長のための時間を与えられると述べた。これは、自身の後継者探しの必要性を匂わせるものだ。
アイガーは、リニアテレビ(編注:従来の ケーブルテレビやCS放送など、設定されたスケジュールに従って視聴できる番組) 事業が予想以上のスピードで衰退していることなど、同社が直面する課題に対処するための自分の能力が「非現実的」だったかもしれないと認めている。「それが私が残る理由のひとつだ。やるべきことはたくさんある」
前CEOのボブ・チャペック時代はハリウッドのクリエイティブ・コミュニティに対する失策や社内体制への不満が目立っていたため、2022年11月にアイガーは彼を辞めさせCEOに返り咲いた。その時と比べると、今回の続投のニュースは、エンターテインメント業界にとってはそれほどショックではないだろう。
アイガーは当時、後継者探しを優先すると約束していたが、彼はCEO職にあった最初の15年間で4回も契約を延長している。
ディズニーを取り巻く課題
元社員を含め同社をよく知る人たちは、社内の問題、最近のCFO(最高財務責任者)の退任、そして全米脚本家組合が俳優組合(SAG-AFTRA) と同時に実施した3カ月に及ぶストライキを含む業界の課題を考えると、アイガーは任期を再延長するだろうと予測している。
エドワード・ジョーンズ社でディズニーを担当するシニア・エクイティ・アナリストのデイブ・ヒーガー(Dave Heger)は、6月下旬にInsiderの取材に対し、後継者についての発表がないことはアイガーの任期延長を示唆していると語っていた。
「アイガーが就任して1年以上経つのに後任が決まらないとしたら、それは私にとっては懸念材料ですが、投資家たちはもっと不安になるでしょうね」(ヒーガー)
その不安は12日の発表で多少和らいだのかもしれないが、ディズニーは依然として大きな課題を抱えている。契約者やテレビ広告収入が減少する中、アイガーは55億ドル(約7600億円、1ドル=138円換算)のコスト削減を目標に、2023年春に7000人の雇用を切った。
アイガーには自身のレガシーを守りたいという強い思いがあり、彼が2年という任期で退任するのであれば、この会社に自分では解決できない問題があると感じていることの表れだ——ある元ディズニー幹部はそう語る。この幹部を含む複数のディズニー関係者が、12日に先立つ数週間の間にInsiderの取材に匿名で応じた。
テレビ・メディア業界に詳しいベテランコンサルタントのクリスチャン・クネーベル(Christian Knaebel)は、クリスティーン・マッカーシー(Christine McCarthy)CFOの最近の退任で、アイガーが任期を延長することが正当化されるだろうと見る。エンターテインメント業界の一部には、ディズニーはそのうちもっと大きなメディア企業やテック企業と合併する可能性があり、そのようなディールを実施するためには辣腕のCFOが必要になるという。
「後任を見つけることが最優先」とアイガー
任期延長についてのディズニーの発表とともにアイガーがステートメントの中で強調したのは、後継者選びは彼にとっての最優先事項だということだ。「後継者選びのプロセスの重要性は、いくら強調してもしすぎることはありません。取締役会が社内外の優秀な候補者の審査を続けるなか、私は後継者への移行を成功させることに集中しています」
チャペックが2020年にアイガーの後継者として選ばれる前は、ジェイ・ラズロ(Jay Rasulo)、ケビン・メイヤー(Kevin Mayer)、 トム・スタッグス(Tom Staggs)など複数のディズニー幹部が候補に挙がっていたが、いずれも見送られて退任した。アイガーはチャペックを選んだことを後悔しているという。
最近に挙がっている中での有力候補はダナ・ウォルデン(Dana Walden)で、彼女はディズニー映画担当の幹部を長く務めるアラン・バーグマン(Alan Bergman)とともに、ディズニー・エンターテインメントのトップに指名された。同部門は、2023年2月に発表されたアイガーの組織再編成から生まれたディズニーの3つの中核部門のひとつだ。
興行成績が振るわなかった最近のピクサー映画『マイ・エレメント』は、クリエイティブとフランチャイズを理解する幹部の必要性を明確に表している。
「ダナは、クリエイティブなテレビ番組制作の幹部として、現時点ではベストではないにせよ、他に類を見ない存在です」とヒーガーは語る。
「今、ビジネスにおける最大の課題がどこにあるのかを考えると、メディアとコンテンツ双方のバックグラウンドを併せ持つ人物に目が向くでしょうね」(ヒーガー)
バーグマンも後継候補と見られているが、内部関係者の間では、アイガーはディズニー初の女性CEOを指名する案を気に入っていると言われている。もしアイガーがウォルデンを推すのであれば、あと2年会社に残ることで、ディズニーの巨大で収益性の高いテーマパーク事業など、経験の少ない分野で彼女をトレーニングする時間ができる。
ウォルデンとバーグマン以外に後継者候補として名前が挙がっているのは、元メタ幹部のシェリル・サンドバーグ(Sheryl Sandberg)とキャロリン・エバーソン(Carolyn Everson、現在はディズニー取締役)、ディズニーOBのケビン・メイヤー、同社のパークチーフであるジョシュ・ダマロ(Josh D'Amaro)、ESPNのジミー・ピターロ(Jimmy Pitaro)社長などだ。
2023年初頭には、全米バスケットボール協会(NBA)のコミッショナーであるアダム・シルバー(Adam Silver)が候補に挙がっているとの報道が相次いだが、シルバーはそれをきっぱりと否定した。Insiderの取材に応じた2人の人物は、ビデオゲーム会社エレクトロニック・アーツ(Electronic Arts)のアンドリュー・ウィルソン(Andrew Wilson)CEOが、次期CEO候補か少なくともESPNを任される可能性があると推測している。
Insiderはディズニーにコメントを求めたが、回答は得られなかった。