みらい翻訳は新サービス「時短メール英作文サービス β版+」を無料で公開した。
撮影:小林優多郎
NTTドコモ子会社でAI翻訳ツールを提供するみらい翻訳は7月13日、新サービス「時短メール英作文サービス β版+」を開始した。
時短メール英作文サービス β版+は、登録無料で個人・法人を問わずに利用できる。
みらい翻訳は以前からベータ版として英文メール作成に関するツールを提供していたが、今回の「β版+」では、マイクロソフトの「Azure OpenAI Service」を使った文章の生成にも対応した。
みらい翻訳は、翻訳周りは自社のAIエンジン(AWS上に構築)、生成AI周りをAzure OpenAI Serviceを利用することで、入力した情報の漏洩や二次利用リスクがないセキュア(セキュリティーの高い)な環境で提供するとしている。
翻訳以外にも文面の作成も可能
時短メール英作文サービス β版+の画面。
撮影:小林優多郎
時短メール英作文サービス β版+では、単に「入力した日本語のメールを英訳する」だけではないさまざまな機能が搭載されている。ここでは3つのシチュエーションに整理して説明する。
1点目は、すでに送りたい文面がある場合。
日本語だけの文面はもちろん、英語と日本語が混ざった文章でも、きちんと英語の文面のメールになる。英語文面の一部には自信があるが、特定の言い回しが思いつかないという人向けの特徴だ。
時短メール英作文サービス β版+の特徴。
撮影:小林優多郎
2点目は、そもそも文面がない場合。ここでは生成AIの力が発揮される。
新規メール生成用のウィンドウに、生成したいメールの内容(相手の会社名や名前、メールを送る意図、結び、文体のトーンなど)を箇条書きで指定すると、生成AIが日本語の文面を作成し、翻訳された英語の文面も同時に表示される。
新規メール生成用のウィンドウ。
画像:筆者によるスクリーンショット
最後は、すでに受け取っている何らかのメールに返信をしたい場合。
返信メール生成用のウィンドウに、届いたメールを貼り付けて生成を実行すると、新規生成と同じく、返信を想定した日本語と英語の文面が同時に表示される。
いずれの場合においても、日本語と英語それぞれの文面が横に並んでいるため、どの文章がどう訳されたのかわかりやすい。
英語の文章欄の任意の箇所をクリックすると、翻訳候補が出てくる。
画像:筆者によるスクリーンショット
何か変だなと感じれば、日本語・英語それぞれの文面を任意に変更できる。英語文面の場合は、気になる部分をクリックすれば、似た意味で文面の異なる翻訳候補が列挙されるため「同じ言い回しをしてしまう」ことが防げる。
そのほかにも、英文を日本語に再翻訳したり、単語の意味やその例文の確認、ていねいな言い回しに変換する機能なども備えている。
報道関係者向けに13日に開かれた説明会では、時短メール英作文サービス β版+のデモが行われたが、文章量などによっては生成時間にややラグはあるものの、英文に自信がない人でも安心できる機能が複数搭載されており、なかなかユニークなものに感じた。
AI翻訳市場は激化、B2Bのみらい翻訳の生存戦略
みらい翻訳 CEO兼CTOの鳥居大祐氏。
出典:みらい翻訳
「ChatGPT」などの生成AIの進化と普及により、例えばChatGPT内で文章の翻訳がある程度できるなど、AIと翻訳にまつわる市場は競争が激化している。
その中でみらい翻訳の強みは何か。同社CEO兼CTOの鳥居大祐氏はDeepL等が出てくる前から多くの人が無料の「Google 翻訳」を使っていることに触れ「機械翻訳だけで見れば本質は変わらない」と述べた上で以下のように語った。
「時短メール英作文サービス β版+(のデモ)を見て分かる通り、あの作業をChatGPTだけでやるのは難しいはず。
(デモで)GPTの実行時間が長かったと思うが、あの文章であのぐらいかかっている(編集注:デモでは230字前後の日本語のメールと英語の翻訳を生成するのに10秒弱ほど)。
PDFファイルや大量文章になるとより時間がかかる。ここはまだNMT(Neural Machine Translation:ニューラル機械翻訳)を使っていくべきところだと思う。
クイックネスな部分はまだNMTを活用していき、その強みと作業を行う一連の流れをユーザー体験として提示していくことが大事だと考えている」(鳥居氏)
一方で、NMTの世界であってもDeepLの登場など、競合は多くいる。
みらい翻訳は主なサービスとして、「Mirai Translator」などのAI翻訳ツールの開発・提供、またそのAI翻訳エンジンそのものやAPIの提供など、主に法人向けに特化している。
導入企業の例。
撮影:小林優多郎
Mirai Translator自体はパナソニックや三菱商事、ダイキンなど1000社以上に提供済み。会社や提携相手によっては法務や財務、特許、医療などに関するエンジンの最適化も行っている。
ただその戦略から、多くの人があまり「みらい翻訳」のことを知らない、というのがネックだ。
例えばDeepLは日本法人設立の際の説明会で、無料サービスとしてまずは使ってもらい、サービスの質を体験して有料サービスへ誘導する、いわゆるフリーミアムの戦略を取ると説明している。
みらい翻訳の場合、コンシューマー向けには2000字までに限定した「お試し翻訳」、そして今回開始した時短メール英作文サービス β版+などは展開している。
みらい翻訳CROの瀬川憲一氏。
撮影:小林優多郎
ただ、個人向けの有料サービスはなく「個人の方が申し込まれても、法人契約しかないんです。すみませんという状況」(同社CRO 瀬川 憲一氏)になっている。
個人向けサービスを拡充していく方針はあるかというBusiness Insider Japanの取材に対し、CROの瀬川 憲一氏は時短メール英作文サービス β版+の提供の重要性についてまずコメントした。
「(みらい翻訳を含めた)AI自動翻訳サービスはこれから先、エンドユーザーの非常に細い方、お困りごとにすばやくフィットしていく。これはニーズの吸い上げと実装の速度を上げていくということ。この反復頻度と速度を上げていかないと、生き残っていけないという危機感がある」(瀬川氏)
ただし、Mirai Translatorの個人契約などの新しい料金体系の提供については「要望も多くあり、考えていかないといけない」としつつも「現在いる70万人のユーザーの方々にアンフェアにならないように配慮する必要がある」(いずれも瀬川氏)と、簡単には提供できない旨を語った。