アマゾン(Amazon)のクラウドインフラサービスは非常に強力だが、ビジネスアプリケーションは幾度もの挑戦を経て、その多くが目立った成功を収めていない。
Reuters
本記事公開から1カ月強が過ぎた8月末、アマゾンはアプリ開発プラットフォーム「Honeycode(ハニーコード)」のサービス提供を2024年2月末で終了すると発表した。同日以降、同サービスを経由して作成したアプリも使用不可となる。
以下は7月19日公開時点の記事内容だ。
アマゾンがクラウド部門のアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)を通じて提供するビジネスアプリケーション群が苦戦している。
強豪ひしめくビデオ会議アプリ市場で、同社の「Chime(チャイム)」が低迷を続けていることはInsiderの既報通りだが、近頃は「Honeycode(ハニーコード)」もどうやら先行きが危うい模様だ。
2020年6月にリリースされたHoneycodeは、アプリ開発の「ローコード」化という大きなトレンドに対するアマゾンの回答と言える。
ドラッグ&ドロップによる操作を基本とするシンプルなインターフェースを採用し、技術的バックグラウンドを持たない人もプログラミングやコードを必要とせずアプリを作ることができる。
しかし、内情に詳しい匿名の関係者によると、このHoneycodeについて、アマゾンはすでにごく最低限のサポートしか提供しておらず、積極的なプロモーションやセールス活動も行っていない。
そうした製品を、同社内では「開店休業(Keep The Lights On、略してKTLO)」と呼ぶ。要するに、使用を継続するごく少数のユーザーに対応するために、正式なサービス終了を見合わせている状態だ。
同関係者によれば、フルマネージド型コンテンツ作成・編集・共有サービス「WorkDocs(ワークドックス)」やマネージド型メールサービス「WorkMail(ワークメール)」なども同様の状況という。
Honeycodeはまだ「ベータ版」の位置づけで、正式な最終製品のリリースには至っていない。別の関係者によれば、同プラットフォームの社内製品ページは過去5カ月間更新されていない模様だ。
「SaaS」分野での成功は難しい
ソフトウェア・アズ・ア・サービス(SaaS)と呼ばれるビジネスアプリケーション分野で、アマゾンはいくつもの壁にぶち当たってきたが、Honeycodeの苦戦もその延長上にある。
アマゾンはすでにこれまでも、クラウドストレージの「Dropbox(ドロップボックス)」、コラボツールのSlack(スラック)、データ分析プラットフォーム「Tableau(タブロー)」などの競合製品をリリースしてきたが、目立った成功は収めていない。
ただし、クラウドベースのコンタクトセンター構築アプリ「Connect(コネクト)」のように一定の成功を収めた製品もある。
アマゾンは目下徹底的なコスト削減を進めており、過去1年間を振り返ると、製品開発やサービス提供の終了を決めた製品や取り組みは数十件におよぶ。
心拍数や血中酸素濃度などを測定できるウェアラブル端末「Halo(ハロー)」や小型配送ロボット「Scout(スカウト)」の開発販売を終了し、破壊的イノベーション創出に取り組む社内研究機関「Grand Challenge(グランドチャレンジ)」が取り組んできた拡張現実(AR)ヘッドセットなど進行中の長期プロジェクトを打ち切った。
アマゾンにコメントを求めたものの、広報担当からの返信メールは、「何百万もの人々」がAWSで構築されたもしくはAWSにホストされたSaaSアプリを現在も利用している現状を追認するのみで、Honeycodeに関する具体的な言及はなかった。
実は、社内での注目度は高かったが…
関係者によれば、Honeycodeは現時点で、AWS内のジェネレーティブ(生成)AIに特化した新たなチームの一部として、まだアマゾン社内のディレクトリに名前が残っている。
Insiderはアマゾン社内で「ネクスト・ジェネレーション・ディベロッパー・エクスペリエンス(Next Generation Developer Experience、NGDE)」と呼ばれる新部門が、2023年初頭に発足したことを過去記事で報じている。
現在、NGDE部門内でHoneycode担当チームのリーダーを務めるのは、AWSノーコード生産性アプリ部門の責任者を務めるスリラム・デバナタンだ。
実は、Honeycodeは当初社内の注目プロジェクトとしてスタートした。
その船出に似つかわしい人材として、アマゾンはグーグル(Google)やセールスフォース(Salesforce)で経営幹部を務めたアダム・ボスワースをプロジェクト担当のバイスプレジデントに据えた。
2021年8月には、ブラウザー「Firefox(ファイアフォックス)」開発元の非営利組織Mozilla(モジラ)で最高執行責任者(COO)を務めたアダム・セリグマンが同ポジションを引き継いだ。
ところが、内情に詳しい関係者によれば、AWSの年次カンファレンス「re:Invent(リインベント)」が新型コロナ感染拡大を経て2年ぶりにリアル開催されたその年(2021年)には、すでにHoneycodeの段階的廃止が噂されていたという。
トップのセリグマンは2022年8月にディベロッパーエクスペリエンス担当、さらにこの6月には前出のNGDEチーム担当と、バイスプレジデントとしての所管が変更になっている(ただし、ディベロッパー・ビルダー支援という意味では一貫していると言えそうだ)。