SAPの最高マーケティング&ソリューション責任者のジュリア・ホワイト氏。
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テック大手のSAPは生成AIに積極的に取り組んでおり、この新技術がマーケティングにどう役立つかを理解するため、8つほどの実験を実施中だ。現在は広告の品質向上、マーケティングのパーソナライズ、顧客からの問い合わせを適切な部署に回す作業の効率化などの業務で、生成AIの活用方法を試している。
同社はすでにいくつかの生成AIのテストを完了し、そこから知見を得た。その1つが、5月に実施した広告キャンペーンだ。ニューヨーク、アトランタ、ロサンゼルスの街頭のデジタル看板に、カルチャーやビジネスの大きなニュースに基づいた日替わりの映像を導入した。このアートは生成AIが作り、人間のアーティストが修正を加えている。
SAPの最高マーケティング&ソリューション責任者のジュリア・ホワイト(Julia White)氏はInsiderに対し、「興味深い実験でした」と語る。その結果は上々で、通常の3倍のインプレッション数が得られたという。
SAPの取引先は主に他の企業や専門家だ。そのため、生成AIを利用した次のキャンペーンは看板ではないだろうとホワイト氏は言う。
「今後、複合的なマーケティング投資の対象は屋外に存在するものではなく、よりソーシャルかつデジタルで、直接的なものになるでしょう」
SAPのマーケティングチームは、それほど派手ではないものの重要度の高い社内向けのタスクでも生成AIをテストした。例えば、社員200人が参加した3カ月間の実験では、潜在顧客へのリーチアウト、それぞれの顧客に独自にアピールするコンテンツの作成、顧客・業界リサーチの実施などのタスクでこの技術を使用している。
「非常に効率が上がりました。顧客からの問い合わせにもさらに多く対応できるようになり、顧客エンゲージメントの向上や、カスタマージャーニーの加速につながるでしょう。今後も続けていくつもりです」
ホワイト氏は、生成AIがある種のタスクに対して大きな効果を発揮することに感銘を受けたが、同時にその限界も知ったという。社員が生成AIで製品デモ用のスクリプトを作成したある実験では、実在しない製品を参照するケースがあったのだ。
生成AIツールの学習用データについても細心の注意を払う必要がある。この種のツールの開発元が、他のテック企業であることも多いからだ。
「財務、人事、サプライチェーンなどに関する当社システム内のデータは非常に機密性が高く、独占的なものです」とホワイト氏は言う。
「当社は責任あるAIの使用に関して、最高レベルの基準を設けています。AIの学習、ベンチマーク作成を目的として、匿名化したデータの提供に同意するかどうかについては、顧客とオープンな対話を重ねました」
実験がいくつかが完了し、さらに多数の実験が進行中の現在、ホワイト氏は生成AIを自身のマーケティング戦略の一部として定着させるため、その利用規模をマーケティングプログラム全体に拡大する方法を模索している。その一環として、生成AIソリューションのプロバイダー企業との提携を継続するか、それとも自社で新たにツールを開発するかを検討中だという。
「現在実施中のテスト運用は有望に見えますが、これをシステマティックに行うにはどうすればいいのか、その答えはまだ見つかっていません」
ホワイト氏は、SAPが4~6カ月のうちに生成AIを充分に理解し、マーケティング戦略の一部として定着させることが可能だと予想している。