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今週も、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄先生が経営理論を思考の軸にしてイシューを語ります。参考にするのは先生の著書『世界標準の経営理論』。ただし、本連載はこの本がなくても平易に読み通せます。
人の話を聞いているうちに話題が脱線……誰しもそんな経験があるはずです。相手の話の腰を折ることなく、要点を整理しながら話を聞くというのは意外と難しいものです。苦手な人はどうしたらよいのでしょうか? このテクニックが得意な入山先生は、あるアイテムを活用することを勧めます。
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話が脱線しても、あえて元に戻さない
こんにちは、入山章栄です。
いつもテキパキしているBusiness Insider Japan編集部の常盤亜由子さんですが、今日はなにやら浮かない顔ですね。
BIJ編集部・常盤
入山先生、私の悩みを聞いてもらっていいですか。私、人の話を聞くのがどうも苦手だと気づいたんです。
そうなんですか。常盤さんは取材などで人の話を聞くことが多いから、そういう意味ではプロなのでは?
BIJ編集部・常盤
話を聞くこと自体はいいんですが、人の話についつい聞き入ってしまって、流れをコントロールすることを忘れがちなんです。特に苦手なのが、要点の整理ができていない話をしゃべり続けて、こちらに口を挟ませてくれない人。
その点、入山先生は「ふんふん」と聞きながら、「なるほど、要するにこういうことですね」とうまく要約しつつ、相手の言いたいことを引き出すのが上手ですよね。先生は、相手に熱く語られてカットインしづらいな、というときはどうしますか?
そういうときは変にさえぎらず、気の済むまで話してもらいますね。話し手に気持ちよく話してもらうことが最重要なので、僕は基本的に相手の話にカットインしません。
BIJ編集部・常盤
でもそうすると、「本当はAというテーマについてまとめたいのに、全然違うBの話に時間がとられてしまって、Aに関する話が聞けなかった」となってしまいませんか?
Aに関する記事を書かなければいけないときに、相手がBの話ばかりをされると困るということですよね。確かに、僕は編集者やディレクターより気楽な立場なので、そこは違うかもしれませんね。何か面白いものが出てくればいい、というくらいの気持ちでいるから、「この人がBについて熱っぽく語るということは、そこに何か面白さがあるんだろう」と思って、むしろBを徹底的に聞いていきます。
そのうえで何か引っかかるような違和感のある話が出てきたら、「それってどういうことですか?」と聞いてみる。すると実はそれがあとでAに返ってくる、みたいなこともよくありますよ。まあでも、これは学者の僕のように制限時間を気にしないでいい立場なので、常盤さんのような編集者は、やはり事前に質問項目を送るなどして計画的にやることが重要なのでしょう。
論文を「はじめに」から書いてはいけない
BIJ編集部・常盤
私も取材相手に事前に質問項目を送ったりはしますが、ずっと自分のペースで話し続けるような人は、そもそも質問項目に目を通していないこともよくあります。相手の気分を害さずに、上手に流れをつくるにはどうしたらいいでしょう?
なるほど……では、僕がアドバイスするのも僭越ですが、ここからは、人の話を聴きながら要点を抑えていくコツを、僕の経験から僕なりに提案しましょう。ポイントは2つです。
第一に、これは当たり前ではあるのですが、常に「インタビューテーマの全体観」を持つことです。例えば文章を書くときもそうです。少し話しがずれますが、僕が早稲田の社会人大学院生に修士論文の指導をするとき、厳しく言うのが「絶対に『はじめに』から書いてはいけない」ということです。
BIJ編集部・常盤
冒頭の「はじめに」から書いてはいけない……そうなんですね。そのこころは?
なぜなら論文でいちばん重要なのは、冒頭ではなく、真ん中の部分だからです。「こういう理論仮説があって、それを実際に検証したら、分析結果はこうでした」という部分が論文では一番重要ですよね。でも、この核心部分をしっかり述べるためには、導入部分でぐずぐずしていてはいけない。
だから全体の構成を箇条書きで作っておいて、「今回、分かったことはこれです」という核心の結論から書き始め、その次に「なぜこの結論に至ったか」と、その論拠を述べていく、という書き順であるべきなのです。「はじめに」を書くのは、最後の最後でいいんですよ。
ところが、社会人大学院生の中でも、論文を「はじめに」から順番に書いていく人は意外と多いんです。そうすると、論文全体が「成り行き任せの出たとこ勝負」みたいになってしまう。それは論文ではなく、ただのエッセイです。
これを取材やインタビューに当てはめても同じだと思います。
よくありがちなのが、取材・インタビューの全体感や本当の目的を忘れて、やたら冒頭のイントロ的な取材が長くなることです。もちろんアイスブレイク的にその方に自己紹介してもらうとか、そういうことは必要かもしれませんが、大事なのは一番中心の核になる話ですよね。ですから、話の全体構造を考えながら、なるべく早く話の核心に入れるようなインタビューの入り方を考えるべきですよね。
BIJ編集部・常盤
なるほど、意識してみます。で、2つ目のポイントは?
これは第一のポイントもつながるのですが、全体像をつかむために、話の内容を常に頭の中で図にすることです。僕の場合はだいたい、話題をブロックで分けていきます。僕は実は脳内でいつも、「話の全体構成の図」を作っています。これはすごく重要で、多くの人は脳内で図化されていないから、構成力が弱く、取材のイントロがやたら長くなったりするんですよね。
BIJ編集部・常盤
頭に図を描くのですね。
はい。もし頭の中で図を描くのが難しいなら、実際にホワイトボードに描いてしまえばいいんです。というか、僕は人の話を聞いて整理するのが苦手な人には、それをお勧めしますね。
例えば取材の冒頭で、取材相手の方に「今日はホワイトボードに要点を書きながら、お話をうかがってもいいでしょうか」と断っておくのはどうでしょうか。「今日は最低でもAとBとCという3つの話を聞くために来ました」といって、Aについて、Bについて、Cについての話を聞きながら、それぞれの要点をホワイトボードにメモしていく。実は僕も、対談でこれをやることがたまにありますよ。メモはきれいな字でなくても、殴り書きでOK。
この方法の何がいいかというと、何をしゃべったか記録が残ること。だからあとから関連づけられる。例えばCのことを聞いている時に、Aのこともホワイトボードに描き残っているので、「それって、このAのあたりでで話したことですよね」と、気が付くと伏線回収みたいになっていることもあります。図化して可視化することで、内容が構造的になっていくのです。
取材相手だって、「ああ、この人は今日はこういうことが聞きたいのか」と全体構造を理解してくれますよね。
慣れないうちは取材相手の前でホワイトボードに書くのは、恥ずかしいかもしれませんが、書いて共有するのはものすごく有効ですよ。
ホワイトボードがないときは、大きな画用紙でもいい。なんでもいいです。ポイントは、脳内に描くべき話の全体構造の図可であり、可視化であり、それを取材相手と共有することです。「今日はA、B、Cの3点についてお聞きしたい。ついてはこの画用紙の各項目を埋めて帰りたいのでよろしく」といって、紙に話のキーワードを書き込むところを見せながら取材を進めていく。
そうすれば仮にCの話ばかり続いても、「Cについてはだいぶ埋まったな」「あれ、Aが真っ白だな」と、取材相手に気づいてもらいやすいでしょう。
BIJ編集部・常盤
なるほど、頭の中で「次は何を聞こうか」と考えているのを、取材相手にも分かるように可視化するわけですね。次に機会があったらやってみます。ありがとうございました。
入山章栄:早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所に勤務した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールアシスタントプロフェッサー。2013年より早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)准教授。2019年から現職。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』『世界標準の経営理論』など。