核融合への投資、世界で60億ドル突破。加速する産業化の波に日本はついていけるのか?

太陽のイラスト

核融合炉は「地上に太陽を再現する技術」と言われることもある。

naratrip boonroung/Getty Images

脱炭素社会の実現に向けた新たなエネルギー源として世界的に注目されている「核融合」。

2022年12月には、米国のローレンス・リバモア国立研究所の国立点火施設(NIF)で、核融合反応を起こすために投入したエネルギーよりも多くのエネルギーを発生させることに世界で初めて成功。大きな話題となった

2023年5月には、米核融合スタートアップのHelion Energy(ヘリオン・エナジー)が、2028年までに核融合反応で発電した電力をマイクロソフトに供給する契約を締結したことも注目を浴びた。

日本でも、この5月に京都大学発の核融合スタートアップ・京都フュージョニアリングが国内の同分野の調達では最大となる105億円の資金調達を発表するなど、研究開発や産業化に向けた取り組みが進んでいる。

米国の業界団体である核融合産業協会(FIA:Fusion Industry Association)はこの7月、世界の核融合産業に関する2023年版の報告書を発表した。

世界の核融合産業の現状と日本の立ち位置を見ていこう。

核融合産業への投資は累計62億ドルに

この1年で資金調達した主要企業。

この1年で資金調達した主要企業。日本からは105億円調達した京都フュージョニアリングの名前が。

画像:The global fusion industry in 2023

報告書によると、世界での核融合産業への投資金額は、この1年で14億ドル増加し、累計で62億ドル(約8600億円)を超えた。この内、民間投資が約59億ドル、残りが政府などの公的機関からの投資だという。

28億ドルの新規投資があった前年(2021年版報告書)と比較すると、資金調達の勢いに衰えがみえる。

ただ、インフレや銀行の破綻など、投資環境は大きく変動している。その中でも業界全体の投資総額の増加からは一定の注目度の高さがうかがえる。

投資規模や市況が変化したことで、投資の内容にも少し変化がみられた。

FIAで把握できている限り、1億ドル以上の大型投資を実現できたのは米国のTAE Technologies中国のENNの2社のみ(中国でさらに大型の投資に関する報道があったというが、真偽が確認できず報告書への記載は見送られた)。その代わりにこの1年で増えたのが、アーリーステージの核融合スタートアップに対する小規模な投資だ。

FIAでは昨年の調査以降に発表された注目の投資事例として10社の名前を挙げている。その中には、上記2社と共に日本の京都フュージョニアリングも名前を連ねていた。

ただ、研究開発に進展がみられたり、投資規模が拡大し続けていたりするとはいえ、核融合産業はまだコンセプト(核融合炉による発電)の実証が完了していない技術だ。この先、核融合を本当に産業化していくには、引き続き大型投資が必要になってくる。

実際、核融合産業に携わる企業たちは各々の手法でコンセプト実証する装置を建設するために、大規模な資金を必要としている状況にある。

FIAは報告書で、

「業界の継続的な成長を支えるために、企業は、異なる資本プールを持つ新たな投資家を呼び込むことで、起こりうる『死の谷』を越える方法を見つけなければならないだろう」

と指摘している。

世界の核融合企業マップ。

世界の核融合企業マップ。日本からは3社が名を連ねる。

画像:The global fusion industry in 2023

なお、この1年間で新たに核融合産業に参入する企業も増えてきた。

今回の報告書では、核融合産業のプレーヤーとして合計43社の名前が挙がっている。昨年から13社が新たに加わり、3社が廃業(ただし技術は移転済み)したという。

日本からは、前述した京都フュージョニアリングに加えて、核融合科学研究所の技術を生かしたヘリカル型と呼ばれるタイプの核融合炉の建設を目指すHelical Fusionと、高出力レーザーを用いたレーザー核融合炉の実現を目指すEX-Fusionの3社が名を連ねた。

核融合炉はいつ実現できるのか?課題は山積み

ヘリオンエナジーの核融合エネルギー反応実験用プロトタイプ「Polaris」の一部。

ヘリオンエナジーの核融合エネルギー反応実験用プロトタイプ「Polaris」の一部。

Helion Energy/Handout via REUTERS

実際にいつごろ核融合炉による発電は実現できるのか。

2028年に核融合炉で発電した電力をマイクロソフトに販売する契約を結んだヘリオン・エナジーはかなり野心的だ。とはいえ、世界の核融合スタートアップはそれぞれ、核融合炉の実現に向けたタイムラインを敷いている。

FIAの報告書には、43社中25社が2035年までに最初の核融合プラントを開発し、送電網への電力供給を検討しているとある。

ただ、核融合炉を商業利用するまでには、技術的に解決しなければならない課題は多い。資金をかけてスケールアップするだけ、という単純な話でもないため不確実性が残る。

報告書でも、「大半の企業が、核融合の出力効率の達成、プラズマ科学の解決、熱管理に関する技術的な科学と工学の課題がまだ多く残っていると述べている」と、技術的な課題があると指摘する。他にも核融合炉の燃料となるトリチウム(三重水素)の確保を2030年までの大きな課題として挙げる企業も多かった。

2030年までに核融合産業が抱える課題についての調査。

2030年までに核融合産業が抱える課題についての調査。

画像:The global fusion industry in 2023

一方でFIAは、現状で核融合炉の実現を目指している各企業の技術について「競合している企業がほとんどない」と言えるほど多様性があるとも指摘している。

現時点ではどの企業のコンセプトが上手くいくのか分からない状況であるため、技術の多様性を持ち続けることは核融合の実現に向けたリスクヘッジになっていると言える。

もちろん研究開発の道半ばでうまく資金が調達できなくなると、多くの企業が掲げる「2035年までの実現」は難しくなる。技術的な課題の解決は、研究開発費の安定的な確保と強く結びついているわけだ。

また、技術的な側面から重要なマイルストーンとされている国際プロジェクト「ITER」計画の進捗が遅れている点も気がかりだ。

ITERは日本やアメリカなど、フランスで建設中の実験炉で、当初、2025年に試験運転を開始(ファーストプラズマを実現)する計画となっていた。ただ、コロナ禍でのサプライチェーンの混乱や、主要パーツに欠陥が見つかったことなどが影響し、現在スケジュールの遅延や追加コストについて議論が進められている

ITER

南フランスのサン・ポール・レ・デュランスで建設中のITER(撮影:2022年4月)

画像:ITER機構

Popular

Popular

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み