※この記事は、ブランディングを担う次世代リーダー向けのメディアDIGIDAY[日本版]の有料サービス「DIGIDAY+」からの転載です。
マーケターはThreads(スレッズ)の熱狂という列車に飛び乗っている——まだ駅を出発する前から。
その類似性から、早くもTwitterとの訴訟騒ぎに発展しているメタ(Meta)版Twitterは、まだ広告機能を搭載していないが、米国と英国ではすでに多くのブランドがプロフィールを登録している。言い換えれば、Threadsではブランドの存在感とリーチがオーガニックに、つまり広告なしで構築されようとしている。
マーケターはまず、オーガニックな存在感を確立し、広告が利用可能になったとき、最大の利益を得るためにやるべきことのアイデアを練る。新しいソーシャルメディアプラットフォームが登場すると、人々がそのアプリをどのように使うかを判断する手段として、マーケターがそれを行うのが恒例だ。メタが広告に依存していることを考えると、広告が利用可能になるのは時間の問題といえる。
ブランドのアカウントは新アプリの信頼を担保
消費財(CPG)、ライフスタイル、メディア、リテールなどの業種にまたがるThreads最初のブランド群には、レアビューティ(Rare Beauty)、ウィリアムズソノマ(Williams Sonoma)、プリティリトルシング(PrettyLittleThing)、ジムシャーク(Gymshark)のほか、米国と英国のヴォーグ(Vogue)、バイス(Vice)、ラッドバイブル(LADbible)、エコノミスト(Economist)、ローリングストーン(Rolling Stone)といったパブリッシャーが名を連ねた。
ザ・ハリウッドレポーター(The Hollywood Reporter)とネットフリックス(Netflix)は、メタが厳選したブランドや有名人とともに、ベータ版アプリへの早期アクセス権を与えられ、(7月5日の正式な立ち上げより24時間早い)7月4日に投稿を開始した。6月18日にはメタの従業員のごく一部がThreadsに参加し、7月4日の時点で1000人弱のベータユーザーがいたと見られる。有名人やブランドの選定方法についてメタにコメントを求めたが、回答は得られなかった。
ほかのアプリで最初に動いたブランドも同じような構成だ。高級コニャックブランドのマーテル(Martell)とラッシュヤミーズパイ(Lush Yummies Pie)は、オーディオアプリの Clubhouse(クラブハウス)をいち早く採用し、チポトレ(Chipotle)とe.l.f.コスメティックス(e.l.f. Cosmetics)は、写真共有プラットフォームのビーリアル(BeReal)にいち早く参加した。
最初のアクション
デジタルマーケティングエージェンシーのスパロマーケティング(Sparo Marketing)の創業者兼CEO、モーリー・ロペス氏は、「ブランドはThreadsでTwitterと同じ戦略を用い、すでに成果を出しているようだ」と述べている。
たとえば、フォロワーを増やすためにインセンティブを提供しているブランドもある。リテール業者のアンソロポロジー(Anthropologie)は最初の投稿にエンゲージしたユーザーに対しギフトカードをプレゼントしており、スナックブランドのスリム・ジム(Slim Jim)は最初の10万人のフォロワーを相互フォローすることにしている。
現在のところ、マーケターとユーザーの総意は、Threadsは混沌(こんとん)としたグループチャットのようなもので、何が起きているのか、どう使えばいいのか、何を話せばいいのかを誰もわかっていないというものだ。しかし、マーケターはそのためにここにいる。そして、多くの場合、その理解はソーシャルチームに委ねられる。
インフルエンサーエージェンシーのゴートエージェンシー(Goat Agency)で戦略責任者を務めるジャゴ・シャーマン氏は、「ブランドは私たちに、どうすればいいのかと尋ねてくると思う。ここ(Threads)に何を投稿すべきか、そもそもそこに投稿すべきか? といった質問が来るだろう」と予想している。
インスタグラムによるシームレスな移行は成功
ユーザーとして参加するブランドは、多くのオーディエンスを獲得しやすいという利点がある。ユーザー登録すると、すでにインスタグラムでフォローしているアカウントをThreadsで「すべて選択」できる。つまり、このシームレスな移行のおかげで、有名ブランドは初日から多くのフォロワーを獲得していることになる。たとえば、ダゾーン・グループ(DAZN Group)のスポーツおよびメディア企業であるチーム・ホイッスル(Team Whistle)は、インスタグラムで300万人のフォロワーを獲得しており、7月5日にThreadsに参加して以来、フォロワー数はすでに約5万2000人に達している。
モバイルとデジタルメディアに強みを持つデザイン会社のデザイニット(Designit)でソーシャルメディアディシプリンリードを務めるマイケル・ハーディング氏は、「Threadsは合理的な登録プロセスを用意しているようで、チームの規模が小さいマーケターやブランドが、補完的または代替的なチャネルとしてプラットフォームの価値を試すのに最適だ」と分析する。
使いやすさだけでも、多くの市場を魅了するのにおそらく十分だが、巨大なユーザー基盤のおかげで、Threadsはすでに見過ごすことがほぼ不可能な存在になっている。誤解を招く指標からユーザープライバシーの侵害まで、メタには欠陥の歴史があるにもかかわらずだ。
メタのCEOマーク・ザッカーバーグ氏によれば、AppleのApp StoreとGoogleのPlay Storeで公開されてから24時間足らずで、Threadsは両方のアプリチャートで1位に輝き、3000万人以上のユーザーを獲得した。
つまり、2022年5月に発表されたTwitterのアクティブユーザー数4億5000万人の6%を1日で達成したことになる。しかも、ほかのTwitterの代替アプリと比べると、短期間ではるかに多くのユーザーを獲得している。マストドン(Mastodon)、ブルースカイ(BlueSky)、T2が公表しているユーザー数はそれぞれ約450万人、5万人、9200人だ。
Threadsの成長に関して特筆すべき点は、すべてのユーザーがインスタグラムのプロフィールと連携する必要があることだ(現在、インスタグラムの月間アクティブユーザー数は20億人だが、Threadsは最初の24時間でユーザー数5000万人を達成している)。メディアエージェンシーであるブレインラボ(Brainlabs)の有料ソーシャル担当バイスプレジデント、ジョン・モリーナ氏は、「メタが決算発表でThreadsの1日当たりのユーザー数をどのように報告するかにも注目したい」と話す。
Threadsも時系列フィード
一方で、アルゴリズムがどのように改良されるかを知ることはまた別の問題だ。
チーム・ホイッスルのプレジデントであるジョセフ・カポロソ氏は、「時系列なのか? フォローしている人たちを中心に構成されるのか? Twitterのおすすめ(For You)ページの要素を取り入れるのか? それとも、3つすべてを組み合わせるのだろうか」と問い掛ける。「提供されるコンテンツ、それが投稿されるタイミング、その結果、ユーザーをターゲティングしやすくなるかについてもっと知りたい」。
インスタグラムの責任者であるアダム・モセリ氏はThreadsの公開以降、そのフィードについて疑問を口にするユーザーへの回答として、「インスタグラムにもFacebookにも時系列フィードのオプションがある。だから、Threadsにも導入するつもりだ」と述べている。
気になるのはプライバシー問題と広告の導入
もちろん、ブランドセーフティやデータ収集に関する一般的な疑問もある。事実、EU一般データ保護規則(GDPR)が厳格化されたため、メタはすでにEUにおけるThreadsアプリの公開を控えざるを得なくなっている。アイルランドのデータ保護委員会(DPC)によれば、Threadsは現時点で、EUのデータ規制要件を満たしていない。
そして、すべてのマーケターが関心を持つ疑問がある。いつThreadsで広告が利用可能になるかだ。
ロペス氏は、メタがThreadsをどれくらい急速に拡大できるかを基準に、4~5カ月で広告機能が搭載されると予想している。これはインスタグラムのリール(Reels)に広告が表示されるまでにかかった時間(約10カ月)のほぼ半分だ。しかし、現時点で広告がないという事実は新規ユーザーにとって大きな魅力であり、Twitterとの差別化要因でもある。「メタは登録者を逃がさないようにしながら、新たな注目をできるだけ早く収益化するという綱渡りを演じることになるだろう」と、同氏は補足する。
一方でマーケティングサービスコンサルタント会社のケプラー(Kepler)で入札製品の責任者を務めるジョナサン・ドゥスーザ・ラウト氏は、ほとんどの広告主はTwitterと同様、リアルタイム要素のあるコンテンツを追い求めると予想している。
モセリ氏は7月6日、ジャーナリストのケイシー・ニュートン氏とケビン・ルース氏が司会を務めるテクノロジー系ポッドキャスト「ハード・フォーク(Hard Fork)」の特別編で、「もっとも可能性が高い方向性はフィード内広告」だと示唆したが、メタは現在、「Threadsの広告に全く注力していない」と明言している。
メタの広報担当者はDIGIDAYの取材に対し、「現在のところ、Threadsには広告や収益化の機能はない」と認めた。「私たちの優先事項は、何よりもまず消費者価値を構築することであり、その結果、消費者体験を損なわないかたちで、ビジネス価値を構築する方法を模索できると考えている」。