VRの世界でアバターに命を吹き込む「アバタークリエイター」ってどんな仕事?

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Business Insider Japan

アバターとは、ゲームやインターネットなどの仮想空間で使用する、自分の“分身”のような存在。

動物をモデルにしたキャラクターから、ロボット、人間に至るまでその形状はさまざまで、性別や体型、肌や髪の色、ひいては身につけるアクセサリーまでユーザーが自由にカスタマイズすることができます。

その日の気分やオンライン上で接する人に合わせて、まるで服を着替えるように自分の姿を変えられる楽しさも魅力のアバター。メタバースの発展に伴って需要も急増しています。

今回は、国内だけでなく海外にも多くのファンを持つアバタークリエイターのmioさんに、お仕事のスタイルや必要とされるスキル、VR(バーチャル・リアリティ)社会の可能性を聞きました。

自分自身を自由に表現するための「カラダ」を作る仕事

──アバタークリエイターとは、3Dクリエイターのなかでもアバターの制作に特化したお仕事ですよね。

mio:そうです。同じ3Dクリエイターでも、ゲームやアニメのキャラクター制作とは少し違って、私が作っているのは個人が使用するアバター用の3Dキャラクターです。

具体的には、VTuberが使用する3Dアバターや、VRChatやcluster(クラスター)といったソーシャルVRサービス上で使える3Dアバターを制作・販売しています。

mioさんが制作しているアバター。創作系の専門サイトで販売している。

(サイトよりキャプチャ)

──そもそも、この仕事に就いたきっかけは何だったのでしょうか?

mio:数年前までウェブデザイナーの仕事をしていたのですが、3Dモデルが使えれば仕事の幅が広がるのではと思ったことがきっかけです。

そのため、最初はオブジェクトのモデリングを勉強していましたが、SNSで2Dイラストのような作風のキャラクターを見かける機会があり、キャラクターモデリング(2Dで描かれたキャラクターを立体的に仕上げること)に興味を持ちました。

2Dのイラストでパースや影、手足を描くのは経験やセンスが必要で難しいのですが、3Dではソフトを使えば自動でパースが現れたり影が描写されたりします。感覚的に操作できる点が、自分に合っていると感じました。

制作過程の画面。

本人提供

──独学で勉強したんですか?

mio:はい。ウェブデザイナー仕事をしつつ、空いている時間でYouTubeのチュートリアル動画を見るなどして、半年ほど独学で勉強しました。

アバターは、ユーザーが手を加えてはじめて完成する

──アバターが完成するまでの流れを教えてください。

mio:最初にキャラクターデザインやラフイメージを描いてから3Dを作る方が多いのですが、私はあまり絵が得意ではないので頭の中でイメージが出来たらそのまま3Dでモデリングし始めます。

まずはざっくり形を作って全体のバランスをとったあとに、パーツを作り込こみながらブラッシュアップしていきます。

その際、後から手足の長さなど体のバランスを変更すると他のパーツもすべて修正しなければいけなくなるため、全体のバランスは可能な限り最初のうちに決定しておくのがポイントです。

本人提供

──制作する際は、どんなソフトを使っていますか?

mio:作業のほとんどはBlender(ブレンダー)という無料のモデリングソフトを使用しています。それ以外にSubstance Painter(サブスタンスペインター)やUnity(ユニティ)、ペイントアプリのCLIP STUDIO PAINT(クリップスタジオペイント)などのツールも使用します。

3Dモデリングというと高価なソフトが必要なイメージがあるかもしれませんが、最近はBlenderのおかげで比較的カジュアルに始めることができます。

無料だからという点だけでなく、使いやすさや性能の面でも、私はまず始めるならBlenderをお勧めしています。

──専門的なソフトが無料で使えるということは、3Dクリエイターに挑戦しやすい環境なんですね。

mio:そうですね。始めやすいので、アバターだけでなくバーチャルの衣装やアクセサリーのクリエイターも最近ではどんどん増えています。モデリングを始めて1年足らずであっという間に人気クリエイターになる方もいらっしゃいます。

──ちなみに、モデリングの技術は日々進歩するものですか? 一度習得すれば、長期的に使えるものなのでしょうか。

mio:例えばフロントエンドエンジニアの場合、1年経つとあっという間に技術が古くなり、過去に作ったシステムは環境のアップデートやセキュリティの問題で使い回しがしにくいといった問題があります。

3Dモデルの場合も作る技術は当然進歩しますが、作ったもの自体の価値は落ちにくく再利用したり資産として残り続けることができます。

──mioさんがアバターを作るとき、心がけていることを教えてください。

mio:アバターは、アニメやゲームのようにデザインが決まっているキャラクターと違い、ユーザーが自分の好きなようにカスタマイズして使うことができます。

以前、アバターの購入者に向けて行ったアンケートでは、90%以上が「何らかのカスタマイズをして使う」と回答したそうです。

そのため私は、自分が作ったアバターにユーザーが手を加えることを前提に作っています。具体的には、パーツの色を簡単に変更できるようにしたり、顔立ちを調整できる機能を付けたりしているんです。

また、アバターはトラッキングという技術で実際の手足の動きと同期して動かす事が多く、それを利用してアバターを使ったダンスなどのパフォーマンスをする方もいます。

キャラクターの手足が長すぎたり人体のバランスとかけ離れすぎると操作感が下がるため、バランスのチェックは何度も行っていますね。

ある程度完成したら、ヘッドマウントディスプレイをつけ、手やひじの位置、身体の動き方など細かいチェックをしていると言う。 (写真はイメージです)

Getty Images / golero

VRの世界で生まれる、新しい仕事

──作品を作ったら、どのようなところで販売していますか。

mio:創作物を販売することができる『BOOTH』というサイトを利用しています。

最初は見よう見まねで作って出品したので、どのような反応があるか想像もつきませんでした。

10体でも売れたらいい方だな、と思っていたら、予想以上に売れ手応えを感じたため、勉強を重ねて現在はこの仕事に専念するようになりました。

──アバターの服やアクセサリーなども、みなさんBOOTHで購入するのでしょうか?

mio:そうですね。BOOTHには、ネイルやお洋服を専門に作っている人もいます。

最近では独自のバーチャルブランドを立ち上げている人もいて、2023年5月に行われた『“Voyage” 2023 Spring/Summer』というバーチャルファッションショーイベントでも、新作衣装が発表されてとても盛り上がりました。

──バーチャル空間内でビジネスが成り立っているというのは興味深いですね。

mio:このイベントは、ほかにもディレクターや、ワールド(VR上のプレイヤー同士の交流場所)の風景を作るモデラー、ミュージシャンやダンサー、イベントの様子を撮影するフォトグラファーや司会者など、バーチャル上でお仕事をされている人たちが集まって開催されたんです。

このようにバーチャルの中で個々が能力を発揮し、そこに対価が発生しています。

上記のイベント以外でも、現実と同じように衣装を自由に変えたりネイルを楽しんだりということも活発になってきていますし、それらを作る専門のクリエイターのほか、広告を制作する人もいて、本当にいろいろな職業が生まれているんです。

現在、VRSNSユーザーの8割以上は欧米の人たちだと言われています。海外を意識した展開をすることで、VRエコノミーの市場もより拡大していくのではないでしょうか。

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本人提供

──海外を意識するとは、具体的にどういうことでしょうか。

mio:アバターの場合、日本では比較的アニメに寄ったデザインが好まれますが、欧米ではリアリティが強めのキャラクターが好まれる傾向があるようです。

最近私が作った『森羅』というアバターは、海外を意識したリアルな雰囲気で作りました。

メイクやファッションを楽しめる要素を強めに入れたことで、リアルクローズが好きなユーザーや欧米のユーザーからも良い評価を頂いています。

左が販売している状態。右のようにメイクやネイルを楽しむユーザーもたくさんいる。

本人提供

バーチャルとリアルの境界線がなくなりつつある

──これまでに大変だったことや、苦労したことはありますか?

mio:言語の壁ですね。VRSNS自体の海外比率が高いこともあり、最近では海外からの購入も増えていますが、お問い合わせのやりとり一つをとってもかなり認識の違いが出ているケースがあります。

商品説明やマニュアルなどを多言語対応する必要があると感じています。

また、先ほどお話したファッションショーのイベントには海外からの参加者もいて、通訳も配置されていました。VRやアバターに関する知識に加えて、語学スキルがあればより仕事の幅も広がりそうです。

──次にチャレンジしたいことを教えてください。

mio:バーチャルとリアルのコラボレーションにどんどん挑戦していきたいです。

数年前にアクセサリー作家の友人と「アバターがつけているものと同じデザインのアクセサリーをリアルでも身につけられる」という企画を行い、それがとても好評だったんです。

最近ではアパレルブランドが多数参入し、リアルとバーチャル両方で着られる服を販売するパターンも増えてきていますね。

──バーチャルとリアルの境界線がなくなってきているのですね。

mio:例えばアパレルブランドのBEAMSは、毎年世界最大級のVRイベントであるバーチャルマーケットに出展しています。そこでアバター用の3D衣装を販売しているのですが、同じデザインのリアル衣装も買うことができ、本人が実際に着ることもできます。

その服を着るモデルとして私の作品を使用していただく機会もあり、今後は特にファッション業界のメタバースへの参入が増えていくのではないかと思っています。そういう意味でも、大きな可能性を感じますね。

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mio
アバタークリエイター/2020年にWebエンジニアから3Dモデラーへ転身し、現在はVRやメタバース向けキャラクター3Dモデルの制作を行い、国内外に向けて販売。代表作は「薄荷」「水瀬」「チョコミント太郎」など。VTuber風のキャラクターからゆるキャラまで幅広い作風が特徴。



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