アメリカでの「保育料」は家賃に匹敵。9月以降さらに増え、危機的状況に

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米国救済計画法に含まれる児童手当は9月に終了する。

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  • アメリカでは保育料に平均して年間1万ドル(約140万円)以上かかるため、働く女性の多くが離職を余儀なくされている。
  • 多くの州が子育て支援策を提供しているが、そのクオリティは州によって大きく異なる。
  • 連邦政府による米国救済計画法には児童手当も盛り込まれたが、9月には終了する予定だ。

トイ・スミス氏は4人の息子たちが小さかった頃、企業の人事部で働いていた。彼女はシングルマザーで、子どもたちの父親から養育費の支払いもなかった。そのため、食糧支援や生活保護の受給資格があったが、それでも彼女の収入と補助金だけでは保育園に入れることはできなかった。

結局、彼女は「クレイグスリスト(Craigslist)」という掲示板サイトで、比較的安く自宅で子供を預かってくれるデイケアを見つけた。月額1300ドル(約18万2000円)の託児料は、彼女の家賃と同じ金額だった。

「働かなければいけないが、仕事に行くには子供をデイケアに預けなければいけないという悪循環だった」と、彼女はため息をつく。

高い保育料はアメリカの“危機”

保育料の捻出に苦労している人はスミス氏だけではない。保育料は家賃に匹敵するほど高く、支援団体「チャイルドケア・アウェア・オブ・アメリカ(Child Care Aware of America)」が2022年に発表した調査によると、年間保育料は平均1万853ドル(約152万円)と言われている。

米国統計局によるアメリカ人の世帯年収の中央値は7万784ドル(約990万円)。その平均的な家庭に子どもが1人いれば保育料に年間1万853ドル、所得の15%を保育料に割かなければいけないことになる。

「こんな金額を払える人はいない。これは私たちが悪いのではなく、全米で起きている問題。危機的状況だ。あらゆる所得層に影響を及ぼしている」と、前出の支援団体の臨時CEO、ミシェル・マクレディ氏は指摘する。

ニューハンプシャー大学のカーシー公共政策大学院社会政策実践センターのジェス・カーソン所長が2022年就学前教育助成金の「ニューハンプシャー・ファミリー・ニーズ・アセスメント調査(New Hampshire Family Needs Assessment Survey)」のために行ったリサーチで、クレジットカード負債を抱えていて正規の保育園の料金を払えないため、子どもを無免許の保育事業者に預けている家庭が多いという実態が明らかになった。

「子どものいる家庭は妥協の連続で、何かを犠牲にしないと回らない状況だ」

州から補助金を受けられる場合も

児童手当の内容は各州で決められているが、補助金の金額は州によって大きく異なる。

「チャイルドケア・アウェア・オブ・アメリカ」のホームページでは、子育て支援に関する情報を提供している各州の団体を検索することができる。各団体のサイトに進むと、支援を必要としている家庭の地域や所得に合った補助金や奨学金などの情報を得ることができる。

カーソン氏のリサーチは、バーモント州とニューハンプシャー州が提供している補助金を比較し、州によってどれだけ児童手当の内容が違うかを立証している。バーモント州は受給対象となる家庭の所得制限の上限も、補助金の金額もニューハンプシャー州より高い。そのため、バーモント州の家庭はニューハンプシャー州に住む家庭より子育てにかかるお金を最大2万ドル(約280万円)以上多く節約することができているのだ。

「州境を挟んで約8kmしか離れていないのに、どちらの州に住んでいるかでこれほどの差が生まれていることが分かった」

カーソン氏もマクレディ氏も、各州で子育てにかかる費用をより手頃にする取り組みが行われていることを歓迎する。その一方で、連邦政府もこの問題を優先事項にするべきだと主張している。バイデン政権はコロナ禍に、子育て世帯や保育事業者の支援に乗り出したが、その予算は9月には底をつく見込みだ。もしそうなれば、子育て支援はさらに危機的状況に陥りかねないとマクレディ氏は危惧する。

子育て支援に対する考え方を変えよう

カーソン氏、マクレディ氏、スミス氏の3人が口を揃えて言うのは、子育て支援に対する国の姿勢について、考え方を変える必要があるという点だ。国民にも政治家にも、子育て支援は公益だという認識を持ってほしいと彼らは願っている。

「”あったら良いな”ではなく、労働力を強固にし、繁栄させるために必要不可欠なのだ」とマクレディ氏は訴える。

エコノミストのジェームズ・ヘックマン氏によると、アメリカは早期幼児教育に投資すると7〜10%のリターンが得られるという。親が保育料を払えない状況では、国はそれだけ大きな利益を失うことになるのだ。

子育て支援の不足は、働く女性の離職にもつながる。「黒人のシングルマザーであるために、私は政治的になり、過激になった」と話すスミス氏は、自身の経験をホームページで綴っている。「母であることは私の考え方や働き方に深く織り込まれている。どちらも心を配る、気にかける仕事なので、切り離すことはできない」

彼女は子育てやお金、仕事などの苦労をもっとオープンにする人が増えると良いと考えている。子を持つ親たちが高い保育料に圧倒され、払いきれないと包み隠さず言うことに抵抗を感じないようになることを願っている。そして、友人や隣人、親戚が可能な時には助けの手を差し伸べるようになることを期待している。このように、オープンになれる風潮と周囲の協力があれば、子育てにかかる負担がいくらか軽減されるだろうと信じている。

「実際は社会的な問題なのに、自分たちの個人的な問題だと考えてしまっている」自分と同じ問題に直面している人を見つけ、どうしたら互いに助け合えるか話してみることが大切だ。「そうすることで少しでもこの社会構造が変わっていけば」とスミス氏は願っている。

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