近頃、もはや珍しい語ではなくなってきた「セルフケア」。
しかし具体的に何をするべきなのかを考えると、シンプルに答えるのはなかなかに難しい。
本連載「5 Habits 〜私が整う、ちいさな習慣」では、さまざまな分野で活動している人に、5つの「自分をケアし、整えるために普段からやっている小さな習慣」を聞いていく。
撮影:眞鍋アンナ
第3回は、アパレルを中心としたプロダクトを生み出し続け、さまざまな視点・角度から日常への提案を行うレーベル『ritsuko karita』のファッションデザイナー・苅田梨都子(かりたりつこ)さんにお話を伺った。
「余白と温度 生活とリズム」というコンセプトの元に生み出される衣服は、どこか儚くも温かさを感じられるものが多く、眺めているだけでその世界に引き込まれる。
ritsuko karita公式サイトよりキャプチャ
まるで芸術品のような高尚さを帯びつつも、決してそのデザインに堅苦しさを感じないのは、苅田さん自身が日常の気付きや些細な心の動きを大事にしているからなのかもしれない。
自分の心を見つめ続け、その時々の感情や情景を“作品”に宿す。そんな苅田さんは普段どんなセルフケアを行い、どんな習慣を持っているのだろうか。苅田さんのアトリエ兼自宅を訪ねた。
習慣1. 身だしなみをちゃんと整える
苅田さんは絶対にピアスと指輪を着けるようにしている。
撮影:眞鍋アンナ
顔を洗う、化粧をする、気分に合った服を着る。自宅兼アトリエで仕事をしている苅田さんではあるが、身だしなみをちゃんと整えることは、気分を整えるための一つのきっかけとなっている。
汗をかいたTシャツを着るよりも、洗い立てのTシャツを着た方が爽やかな気分で過ごせるように、身だしなみを整えることはある種“心の着替え”でもあるのだ。
「部屋着の私はなんだか弱いんですけど、例えば着替えた後にアイシャドウのラメを瞼に付けただけでも強くなれる気がするというか。好きなものを身につけて、身だしなみをちゃんと整えると、それだけでモチベーションが上がるんです」
習慣2. 思いっきり泣く
苅田さんが展示や映画を観るたびに感想を書き残しているというノート
撮影:眞鍋アンナ
「私は感受性が豊か過ぎるんです」と苅田さん。
心が動いたとき、文字に残すことで感情を整理することも多いと言う。自分の感情を否定せず、自分のために涙を流してあげることもセルフケアの一環になっているのだとか。
気分が落ち込んだときは、思いっきり涙を流す。気が済むまで泣くと、今度はエネルギーが湧いてくる。ネガティブな感情を受け入れ、まずはとことん落ちてあげることが、結果的に気分を整えることにつながるのだ。
撮影:眞鍋アンナ
「感情を止めておくことができないので、溢れ出てしまうものを悪いものだとは思っていません。実は先日、誕生日だったのですが、友達から嬉しいメッセージをもらって、外で嬉し泣きする……なんてこともありました。悲しくて泣くことも、嬉しくて泣くことも私にとっては必要なことなんです」
多面的な魅力を含んだ苅田さんの作品には、そんな心の透明感が真っ直ぐ表れているように思った。
習慣3. 気分やシーンに応じた香りで気分転換
種類が多過ぎて、苅田さん自身も何種類持っているのか数え切れていないそうだ。
撮影:眞鍋アンナ
苅田さんの部屋には至るところに、香水やルームディフューザーが置かれている。香りはもちろんのこと、どれも素敵なデザインをしており、その場に置いてあるだけで空間を彩るインテリアの役割も果たしているようにも感じる。
起床後や就寝前、仕事に集中できないときや、休憩してリラックスしたいときなど、苅田さんはそのときの気分やシーンによって一つひとつの香りを使い分けているそうだ。
撮影:眞鍋アンナ
「気分や天候、時間帯によって、その時々の自分に適応できるよう、薄い・濃いなどのグラデーションでさまざまな香りを使い分けています」
香りを使い分けて、その時々の自分に適応する。苅田さんにとって、香りは自分自身に寄り添うためのコミュニケーションツールなのだろう。
撮影:眞鍋アンナ
香水やルームディフューザーの他、お茶の香りや味に癒されることもあるそうだ。お茶を淹れて飲むことは、味覚・嗅覚を心地よく刺激してくれるという。
「ワンプレートで用意して、写真集を見ながらお茶を飲んだときとか、『なんで今までスマホ見てたんだろう』って思うくらい幸せでした」
さらに、どんなお茶菓子と合わせるか考えることは、美的感覚も養ってくれるそうだ。
五感で得られる情報を大切にして作品を生み出している苅田さんは、このような日常の余白からその感性を磨いてきたのかもしれない。
習慣4. ヨガに取り組む
撮影:眞鍋アンナ
ホットヨガの体験に足を運んで以来、自宅でも取り組むようになったというヨガ。毎日ではないそうだが、ヨガに取り組んだ日とそうでない日とではまるで調子が違うという。
「今日は絶対仕事を完璧にしたい……って日は、10分くらい朝ヨガに取り組んでいます。サウナに行ったあとみたいに、頭がスカッとするんです」
撮影:眞鍋アンナ
苅田さんがヨガに取り組むときは、まず楠の葉に火を点ける。細い煙が立ち上り、部屋中にスパイシーかつ清涼感のある香りが漂う。
ヨガを一つとっても、ただなんとなく取り組むのではなく、やるからにはちゃんと取り組む姿が印象的だ。
「思い切り涙を流す」というお話を伺ったときも感じたが、自分自身の感情・行動に素直であり続けているからこそ、苅田さん特有の洗練された世界観が生まれているのだと思う。
習慣5. 花のお世話をする
撮影:眞鍋アンナ
2週間に1回ほど花屋に足を運ぶという苅田さん。部屋を見渡してみるといくつものお花が飾ってあり、毎朝キッチンに全ての花を集めて、水を替えたり茎を切ったりしているという。
「お花はすぐに枯れちゃうからこそ、短い期間を大切に味わおうとすることで心が癒されるんです」
一時期は花屋に行きすぎてお金がもったいないと感じ、花を買うことを止めた時期もあったそう。しかし、花屋に行くことを止めたことによって、「どれだけ花が日常を潤してくれていたか再認識させられました」と苅田さんは言う。
撮影:眞鍋アンナ
また、苅田さんにとって花はただ飾るものではない。自分の心の調子を映し出す鏡のような役割も担っているというのだ。
「忙しくてお手入れできないとお花はすぐに枯れちゃうので、そうなると『自分、今本当に大変なんだ』って気付かされます。きちんとお花のお世話ができているってことは、きちんと自己管理できるくらいの余裕がある状態なので、お花は自分の心を映し出してくれる存在であるとも感じます」
確かに、日々を一生懸命生きていると、たとえ自分に余裕がない状態であっても、そのことを冷静に認識できることは多くないように思う。
しかし、そんなときに自分のことを振り返るきっかけとなる存在が身近にいてくれるだけで、いつもの調子を取り戻すきっかけとなってくれるのかもしれない。それは人であっても、人でなくとも、だ。
これから整えていきたいこと
撮影:眞鍋アンナ
たくさんの“好き”を持っている苅田さんだが、意外なことに「同じ環境に居続けるとすぐ飽きてしまうんです」と言う。現在住んでいるアトリエ兼自宅も、日常に溶け込み過ぎて刺激を感じることが少なくなってきたそうだ。
「環境を変えたら私生活も仕事も、新たな刺激を得られると思っていて。まだ具体的に引っ越しが決まったわけではありませんが、既に次の部屋でやりたいこともたくさん考えているんです」
東京に来てから4度目の引っ越しで出合ったのがこの部屋。
撮影:眞鍋アンナ
いつかは自宅とアトリエを分けて、お客さんと直接コミュニケーションが取れる場所を作っていくことも、苅田さんが掲げる夢の一つである。
これから環境を整えていくことでどのような刺激を受け、その時々の心情を作品に落とし込んでいくのか。苅田さんの手が紡いでいく未来を想像すると、心が躍る。
苅田梨都子
さまざまな視点・角度から日常への提案を行うレーベル「ritsuko karita」のファッションデザイナー。