キャンプ場にはモバイルハウスが立ち並ぶ。
撮影:雨宮百子
ベルギー人は年始から口を開けば「夏休みが待ち遠しい!」と言っていた。そして、ついに彼らが待ちに待ったバカンスの季節がやってきた。
約1年前からベルギーに留学中の私はこの夏、普段から懇意にさせてもらっているベルギーの一家のバカンスに2週間も同行させてもらえることになった。
今回の原稿では、日本人の私からすると衝撃的だったヨーロッパの「本気で“休む”バカンス」の実態を紹介したいと思う。
いざ、ジュネーブ近郊の「キャンプ村」へ
レマン湖の向こう側はスイス。
撮影:雨宮百子
キャンプ場には様々な国籍のグループが集まっていた。
撮影:雨宮百子
ベルギーから車で8時間ほど運転し、たどり着いたのはフランス東部、スイスのジュネーブ近くのキャンプ場。私も含めて家族5人と大型犬1匹、車2台で移動した。透き通った水に白鳥が泳ぐレマン湖の向こうはもうスイスだ。
彼らは過去のバカンスでは、南フランスやコルス島など色々なところに行ったようだが、今回はここでコテージを貸し切って2週間過ごすという。
ちなみにバカンスは、同居している家族だけですごすこともあれば、仲の良い友人や子どものパートナー、すでに家を出た子どもとその家族をつれていくこともある。
もちろん、ベルギー人全員がバカンスにいくわけではない。旅行が好きではない人は、自宅でのんびり過ごしている。
デンマークやイギリス、オランダからも
キャンピングカーでバカンスを楽しむ人達も多い。
撮影:雨宮百子
滞在するコテージはシンプルな造り。ベッドルームが3つとリビング、シャワーとトイレ、キッチンがあった。テラスには屋根があり、食事はここで食べる。
キャンプ場は小さな一つの「村」のようになっており、公園やレストラン、スーパー、夜におこなわれるイベントを楽しむ施設もある。
私たちのようにコテージを借りている人もいれば、キャンピングカーで来ているひとも多い。
国籍も様々。車のナンバープレートを見る限り、フランスが最も多いが、デンマークやスイス、イギリス、オランダなどから来ているようだった。
日本での会社員時代、夏季休暇といえば、せいぜい1週間程度。お盆の数カ月まえになると、部会で夏季休暇の取得について「通達」され、なかば強制されるような形でとっている人もいた。
ずっと夏休みを楽しみにしているベルギー人からしたら信じられないだろう。
食事だって「お休みモード」
白米をたき、ツナ缶と桃缶とまぜてたべる簡単な料理。私のお気に入りだ。
撮影:雨宮百子
初日は移動で疲れていたので、キャンプ場にあるレストランで食事をしたが、そのほかは最終日を除き全て自炊だった。
ただ自炊といっても普段の生活より少しシンプルなものを食べる。
朝はコーンフレーク、昼は毎朝買ってきたフランスパン(買いに行くのは一家の最年少17歳の少年の仕事)をちぎって各自ですきな具を詰めサンドイッチを作り、夜は普段通りお父さんが食事を作る。
しかしお父さんにとってもバカンスはバカンス。パスタや缶にはいったラビオリなど、15分程度でできるシンプルな一品料理がほとんどだった。
周りを見渡してみると、肉をただ焼いただけのバーベキューをしている家族も多かった。
7時起床、10時には就寝
キャンプ場の近くの山では牛が放牧されていた。
撮影:雨宮百子
ここでバカンス中のある一日の、ベルギーの一家のタイムスケジュールをみてみたい。
- 7~8時…起床
- 9時…朝食
- 10時~12時…ヨガ/スポーツ(あるいは山や湖の散歩)
- 12時…昼食
- 13時…自由時間
- 14時…湖で遊ぶ
- 16時…自由時間
- 18時…夕食
- 19時…夜のイベント/ゲーム/自由時間
- 22時…寝る
一目でわかると思うが、本当にゆっくりと過ごしている。
キャンプ場が位置するのはスイスとの国境の近くということもあり、近くには山が多かった。
朝はヨガなど軽い運動に参加し、山や湖を散歩して過ごし、午後になったら湖で泳いで遊ぶ。私も浮き輪で浮きながら太陽の日差しを楽しんだり、何人かとキャッチボールを楽しんだりした。
色々なアクティビティを楽しむこともあり、チームになってボートで川下りを楽しむラフティングや、スキーのように山頂までリフトでのぼってパラグライディングをしたりする。
筆者も人生で初めてパラグライディングに挑戦した。
撮影:雨宮百子
空いた時間は、ウノやトランプ、ボードゲームを延々と皆で楽しんだ。世界共通のルールのゲームは、言語や世代をこえて楽しむことができる。しかもかなり盛り上がる。
留学を始めた1年前は全く分からなかったフランス語も、いくらか学び、音に慣れたせいか私も少し話せるように成長した。
夜には、ちょっとおしゃれをしてお酒を飲みにいき、音楽を楽しむこともあった。音楽にのってくると、店の真ん中で踊り出す人が出てきて、それにつられあらゆる世代の人が踊りだす。
初老のカップルが仲良さげに踊り、抱えていた犬と中年女性が踊りだしたのをよく覚えている。
暇を見つけてパソコンを開いてみたものの……
木曜夜に開催されていたバブルパーティー。静かなキャンプ場だが、意外にもこんなイベントもあった。
撮影:雨宮百子
もちろん、常に団体行動をしているわけではない。
タイムスケジュールにある「自由時間」はそれぞれが思い思いにスマホをいじったり、本を読んだりする。
バカンスでも、私は暇をみつけては「ここぞ」とパソコンを開いて仕事や原稿を書き始めるのだが、「そんなに仕事が大変なのか」「バカンスなのに休めないのか」と心配される。とてもじゃないが、「仕事が好きなんです」と正直には言いづらく、適当に笑ってごまかした。
部屋にこもろうとすると「天気がいいから」といわれ、家族に囲まれ、外の机で作業をすることになる。コンセントがないので、パソコンの電源がきれるとパソコンを片づける生活に切り替えた。
正直、私にとっては2週間も一切仕事をしないことは耐え難い。たまった仕事が後で降りかかってくるからというのが一番の理由だが、もともと仕事が好きだし、仕事の関係者に対するちょっとした罪悪感もある。
でもこの感覚は、本当はアンインストールする必要があるのかもしれない。
「休み」とは「休む」ための時間
革命記念日の7月14日には花火があがった。
撮影:雨宮百子
日本の休暇文化と欧州の「バカンス」は、まるで対極に位置している。
日本で一般的な短い夏休みでは、見所満載の都市を駆け巡り、エネルギーを使い果たすことも多い。私自身振り返っても、ガイドブックに載っている観光地を巡りつくすことが多かった。自宅に戻ると、休暇前よりも疲れていた。
今回私が経験したバカンスは、これまでの私の夏休みと全く違っていた。こんなに「のんびり」したのは、小学生の頃以来だ。
またこうした過ごし方はそこまでお金もかからない。ちなみにかかった費用は、コテージの宿泊料が1人あたり330ユーロで、パラグライディングやラフテイングなどのアクティビティー、ガソリン代や食費を含めると、私が支払ったのは合計約550ユーロ。
1ユーロ155円で計算すると8万5000円となるが、2週間の滞在費として高すぎるということはない。しかも円安の影響もあって、彼らの感覚だともっと安い感覚といえる。
彼らと過ごした2週間は、真に「休む」ための時間であると教えてくれた。
日本でも夏休みシーズンを迎えている。休暇を真に休むための時間として楽しむことは、日本人にとって大切なことかもしれない。