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今回お話しするテーマは、「女性社外取締役」です。
最近、フリーアナウンサー、アスリート、ミュージシャンなど、さまざまなジャンルの女性著名人が大手企業の社外取締役に就任したというニュースを見かけますよね。
著名人が民間企業の社外取締役を務めるケースは以前からありましたが、特に「女性」を登用するケースが増えています。
また、私たち転職エージェントにも、「女性限定」で社外取締役を紹介してほしいという依頼が急増しています。
その背景にあるのが、2021年6月に実施されたコーポレートガバナンス・コード改訂。上場企業に対し、「取締役会の3分の1以上を独立した社外取締役で構成する」ことが求められるようになりました。
女性活躍推進法やSDGsの5番目の目標「ジェンダー平等を実現しよう」により、「女性役員比率の向上」も課題となっています。
この2点を同時に解決するのが「女性社外取締役の採用」というわけです。
企業の女性社外取締役採用に対する温度差はさまざまです。本気で「ダイバーシティ&インクルージョン」を経営戦略の要とする企業もあれば、女性管理職比率の目標数値をクリアするための「数合わせ」的に捉えている企業があるのも事実です。
社外取締役に選任された女性著名人に対し、「マスコットキャラ的な位置づけなのでは?」という視線を向ける人も多いようですが、一般女性の社外取締役にはどのような要素が求められているのでしょうか。
企業が女性社外取締役を採用する際に重視するポイント、選任された女性が持つべき意識・姿勢について、求人企業の声と私自身が社外取締役を務めている経験を踏まえてお伝えします。
女性社外取締役の採用において、企業が求める条件
私が企業から女性社外取締役候補者の紹介を依頼される時、第一に挙げられる条件は「専門分野の知見・経験」です。
近年、上場企業の統合報告書などでは「スキル・マトリックス」が開示されるようになっています。スキル・マトリックスとは、取締役一人ひとりの専門分野の知見・スキルを一覧表にしたもの。
事業内容問わず共通する項目としては「企業経営」「財務・会計」「監査」「コンプライアンス」「労務・人材開発」「ガバナンス」「サステナビリティ」など。事業内容によって「研究開発」「マーケティング」「グローバル」「DX」「M&A」など多様な項目があります。
自社に必要な項目を挙げたうえで、スキル・マトリックスの項目の充足を目指し、現在の取締役が持っていない専門分野に強みを持つ人を求めるのです。
そして、専門性に加え、「経営の知識」も必要条件に挙げられます。
ここまではどの企業にも共通しますが、こと「キャラクター」となると、重視するポイントや期待する役割は企業によって大きく異なります。それを前提に、ある企業の人事担当者の声をご紹介しましょう。
「場の空気を読める人がいいです。自分の役割をあまりに強く押し出し、取締役会の円滑な運営を阻むような人だと困るんです」
この要望を別の言葉で表現するなら、いわば「忖度ができる人」ということでしょう。
他の取締役に比べて経営の知識・経験が乏しい人は、存在感を示そうとして、自身の専門分野の観点から些末なことを延々と述べる傾向があるのだそうです。これをされると議論が進まなくなってしまいます。
特に、「承認を得たい稟議」において、反対意見を主張されることも避けたいと考えられています。取締役会の議事録をもとに、株主から「反対意見も出ていたのに、なぜ承認・実行したのか」と詰められるなど、後々面倒が生じることもあるからです。
また、取締役会には、昔気質の高齢男性もいれば、一癖も二癖もある人物もいるもの。そうした人々ともうまくコミュニケーションをとることが求められます。
このように、萎縮することも前に出すぎることもなく、柔軟な対応ができることを期待し、「場の空気を読める人」を望むというわけです。
しかし、このような条件を兼ね備えた女性は希少。そのため、すでにいずれかの企業の社外取締役を務めている女性は「取締役会の流儀・作法を理解している」と期待され、複数社からオファーが集中している状況です。
想像するほど気楽じゃない。女性社外取締役に必要な心得
私自身も、複数の上場企業で社外取締役を務めています。
その実体験を踏まえ、これから社外取締役ポジションを目指す女性の皆さんが意識しておくべきポイントをお伝えします。
私のところには、「社外取締役をやってみたい」というご相談も多く寄せられます。ただ、実態を理解できておらず、甘く考えている方も見受けられます。「月1回の取締役会に出席して、自分の専門分野の観点で意見を述べればいいんですよね」と……。
しかし、そんな気楽なものではありません。私が実感したこととして言えるのは、
「ファイナンスが分からないと、本当にキツい!」
経営数字に対する意見を求められるため、知識がないと何も言えません。私も師匠について勉強し、決算書くらいは読めるようにしました。
また、その業界の経験がなくても、「どのように収益を挙げているか」というビジネスモデルを理解していないと、適切な発言ができません。
M&Aなど企業経営を左右するような案件の決議にも参加し、賛成・反対の1票を投じるわけですから、責任重大です。その票を投じる根拠を理論的に語れなければなりません。
株主総会などでは、社外取締役が名指しで質問を受け、説明を求められることもあるのです。
また、皆さんが社外取締役のオファーを受ける機会があれば、「なぜ私なのか」が明確かどうかを確認することをお勧めします。
私が社外取締役を務める某企業では、就任後初の株主総会で、株主から「なぜ森本さんを選任したのですか?」という質問が投げかけられました。
社長の回答に対し、さらに掘り下げる質問が続き、聞いている私はドキドキしたものです。
自分が選ばれた理由に明確なストーリーがなければ、就任しても自身がどんな役割を果たせばいいのか迷ってしまうと思います。
そして、就任した際には、その企業の「流儀・作法」を理解して対応する必要もあります。
これは社外取締役に就任した私の友人のエピソードです。
彼女は株主総会に出席する際、スニーカーを履いていきました。すると企業の運営担当者から「次回からは、できればヒールやパンプスで来ていただけませんか?」と言われたそうです。彼女は、TPOに沿ったコーディネートを求められていることを悟り、「体裁も重要なんだと気づいた」と話していました。
業種・業態によってはスニーカーでも違和感ない企業もあるかもしれませんが、社風や株主の層などを踏まえた流儀・作法を見極めることも重要と言えそうです。
経営志向の女性にはぜひ勧めたい経験
女性社外取締役についてシビアなお話もしてきましたが、経営志向を持つ女性には、ぜひ経験していただきたいと思います。
大手企業の現役経営ボードの方は、社外規定で兼業を禁止されているケースも多いのですが、自社の利益に反しないかぎり解禁すべきだと私は考えます。
何しろ、非常に学び多い機会になるのです。ミッション・ビジョン・バリューにしてもKPI設定にしても、自社と異なる経営スタイルや、組織風土・文化を体験することで、自社では気づけない新たな視点を得ることができます。
特に未上場の企業での社外取締役となると、単に取締役会へ出席するだけなく「経営へのコミット」という点で貢献を求められ、その分、より深い関与を期待されます。
視座が上がり、経営のセンスも磨かれるでしょう。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひこちらのアンケートからあなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合があります。
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。