Threadsには、Twitterを多くのユーザーにとっての特別な場所にしていた「何か」が欠けている。
Twitter, Threads, Tyler Le/Insider
マーク・ザッカーバーグ率いるメタ(Meta)の新しいSNSアプリ「Threads(スレッズ)」は、サービス開始から1週間足らずでユーザー数が1億人を突破し、爆発的なスタートを切った。
データ追跡会社クラウドフレア(Cloudflare)によると、ThreadsはTwitter(ツイッター、現在のサービス名は「X(エックス)」)のトラフィックを大幅に奪う形で、史上最速ペースの成長を記録したという。イーロン・マスクがTwitterを買収し、混乱が続くようになって以来、ユーザーが求めてきたTwitterの代替アプリとしてThreadsは歓迎されている。
ThreadsはTwitterに酷似しているが、決定的な違いがいくつか存在する。
検索機能はアカウントの検索に限られており、ユーザーの投稿を検索したり、トピックで検索したりする機能はない。トレンド閲覧ページがないため、どのような話題が盛り上がっているのかを確認することはできない。通知設定も使いづらく、DM(ダイレクトメッセージ)機能はなく、フォローしているアカウントの投稿だけを表示するオプションもない。
Threadsを開発したInstagram(インスタグラム)の責任者アダム・モッセーリは、こうした機能の多くは開発中であると述べているが、たとえ機能が向上しても、真の意味でTwitterに取って代わることはないことが明らかになりつつある。
それは、メタがTwitterの後釜を狙おうとしているわけではないからだ。
Twitterは、最新情報を得て、重要な情報にアクセスできる場として人気を博した。一方のメタは、Threadsをライフスタイルブランドやインフルエンサーの溜まり場にしたいと考えている。メタはニューススタンドではなく、マルチプラットフォームモールの新たな一画をつくろうとしているのだ。
これは広告主にとっては素晴らしいことかもしれないが、人々がInstagramでいま一番盛り上がっている当たり障りのない話題に限定されることを望むとは想像しにくい。
Twitterはなぜ人気を博したのか
Twitterは決して最大のSNSプラットフォームではなかったし、収益を上げるのもかなり下手だった。しかし、そのユニークな仕様をうまく活用することに成功し、2010年代を通じてニュースや時事問題の中心的な情報源となった。
政治家、ジャーナリスト、報道関係者などがTwitterに集まり、彼ら彼女らの影響力のある仕事がかつてないほど知れわたるようになった。同時に、彼ら彼女らと一般の人々がより直接的に交流できるようになった。ドナルド・トランプ大統領のような知名度の高いユーザーは、ほとんど避けて通れない存在となり、同氏のツイートがニュースサイクルや公共政策を左右するようになった。
また、世界や自分の身近な場所で大きな出来事が起こったとき、Twitterは、記者や公的機関、自分用に記録しているだけの一般の人々からリアルタイムの最新情報を得るために真っ先に見に行く場所となった。
こうした点がTwitterの魅力だった。Twitterには影響力のあるユーザーが大勢いたが、それよりはるかに多くの一般ユーザーが、思いついたことをつぶやき、自分が熱中しているトピックについて発言し、互いに議論(または激しい論争)を交わしていた。Twitterは一般の人々にある程度の集合的な力を与えたのだ。
航空会社であれ、有名人であれ、単なる一般人であれ、間違ったことを言ったり行ったりした場合、ユーザーは団結して違反者にその問題に対処させることができた。Twitterのおかげで、ユーザーは電車の遅延を知ることができ、それについて鉄道会社に怒鳴ることもできた。それがゆえに、Twitterは便利な半面、やや中毒性もあった。
Twitterにとって、混沌とした意識の流れを収益化することは常に困難なことだった。同社の2021年の収益の90%は広告ビジネスだとみられているが、これはかろうじて費用を賄うことができるレベルだ。
こうした問題も、ビジネスを変革するという明確なビジョンを持った新しいリーダーがいれば対処できたかもしれない。だが、新しくTwitterのリーダーとなったのはカオスをもたらすマスクだった。
Twitterを特別なものにする方法を掘り下げるどころか、マスクはスタッフのほとんどを解雇し、Twitterの仕組みを変え、広告主のTwitter離れを引き起こした。
Twitterの崩壊が進むにつれ、Twitterに不満を抱いたユーザー層と広告主を頂いてしまおうと、ソーシャルメディア間の競争はヒートアップしている。
Threadsの登場
モッセーリはThreadsへの投稿で、メタの目標は「Twitterに取って代わることではなく」、「Instagramに存在するTwitterをあまり受け入れてこなかった層や、Twitter(および他のプラットフォーム)に存在する、より穏やかな会話の場を求める層向けの公共広場をつくること」だと書いている。
要するに、ThreadsはTwitterの全ユーザーを対象としているわけではなく、その一部を対象としているに過ぎないということだ。
モッセーリいわく、メタは特に「スポーツ、音楽、ファッション、美容、エンターテインメントなど」に興味があり、「政治や堅苦しいニュースに触れる必要のない活気あるプラットフォーム」を求めている人々を歓迎したいと考えているという。
ThreadsがTwitterでの自由な会話を嫌うのは、ある意味で理にかなっている。Twitterでの会話はかなり有害になる可能性があるからだ。
だがマスクがTwitterを買収する前、Twitterは最悪の事態を取り締まろうとしていた。現在、マスクはそれまで活動を禁止されていた多数の右翼過激派のTwitter復帰を許可している。また、マスクのコンテンツモデレーション方針と、マスク自身が頻繁に陰謀論や反トランスジェンダーの投稿を煽ったことが、多くのユーザーを激怒させ、不安を感じた広告主を遠ざけた。
メタはメタでFacebook(フェイスブック)上のヘイトスピーチという問題を抱えており、その効果的でないコンテンツモデレーションによって引き起こされる被害について注視され続けている。
しかし、有害な議論に対するメタの解決策はどうやら、一切の議論を遮断するということらしい。
メタのこうした考え方は今に始まったものではない。2022年、メタはFacebookのホーム画面に表示される記事リストの名称を「ニュースフィード」から単に「フィード」に変更したが、これについては「ニュースコンテンツへの投資に重点を置かなくなり、ニュースプロダクトに投資するリソースを削減する」ことを理由のひとつに挙げている。
2021年にはオーストラリア政府がグーグルとメタ(当時の社名はフェイスブック)にニュースコンテンツ提供元への料金支払いを義務付けたため、メタはオーストラリアでのニュース配信を一時的に取りやめた。現在、カナダとカリフォルニア州で提案されている同様の計画に対して、同様の措置を講じると表明している。
メタの主張は、ニュースコンテンツの収益性はかつてほど大きくない、あるいは、その代償を支払う価値がないということだ。
結局のところ、広告主は物議を醸す話題からは距離を置きたいと考えており、あらゆるものが文化戦争(カルチャー・ウォー)の火種になりかねない現在は、特にその傾向が強い。そして、メタバースがうまく立ち上がっていない今、メタは次のドル箱を探している。
ショッピングモール化したWeb空間
テクノロジー史の専門家、ジェニファー・S・ライトは1996年に、商業オンラインコミュニティの成長を、20世紀後半にかけて全米に出現したショッピングモールになぞらえた。
ショッピングモールは、郊外に逃れてきた人々に、繁華街の大通り風の空間を提供する試みだった。しかし、ショッピングモールは顧客にお金を使わせることを目的とした私有空間であったため、有色人種やホームレスなど、理想的な顧客とはみなされていなかった人々をあまり歓迎しなかった。
この廃れつつある空間へのノスタルジーを交えた色眼鏡を通して見ても、ショッピングモールが理想的なコミュニティ空間だとはとうてい言えない。ショッピングモールは人々のために設計されたのではなく、ショッピングモール内の企業が儲けるために設計された空間だった。
1990年代にWebが普及したとき、Webは当初、世界中の人々が集まり、交流できる公共の場と考えられていた。ライトの主張によると、初期の興奮とは裏腹に、この新しいテクノロジーで金儲けを急ぐあまり、Webはショッピングモールのように急速に商品化されていった。
広告がWebの中心的なビジネスモデルのひとつになるにつれ、プラットフォームは、広告主にとってより魅力的な空間となるよう、そこで人々ができること、あるいはできないことを制限し、広告費を使わせるように仕向けられた。
一方で、こうしたことが有益なコンテンツモデレーション効果をもたらした。大手企業は自社の広告が露骨な内容やヘイトスピーチ、暴力的な画像と並んで掲載されることを望まないため、この類のコンテンツを管理できないプラットフォームは商業的に痛手を被ることになる。
クリーンな空間を求めるこの願望の裏を返せば、ブランドはデリケートな政治問題に関する議論や、自社の悪行を暴露するような会話、さらにはメタ傘下の各種プラットフォームで長らく禁止されているヌード画像さえも我慢がならないということだ。
好ましくない部分が過剰に排除され、会話を無害な大衆迎合型の議論に制限しようとするこうした取り組みの結果、インターネットは誰もが対等な立場でたむろせる一般的で公共的な市場から、最もお金を費やせる人々に応えるように設計され、商品化された薄暗いショッピングモールに変わってしまった。
Threadsが次世代Twitterになる可能性は低い
自由な表現の場を提供しつつ、広告主に便宜を図る——このバランス感覚こそが、ThreadsとTwitterの戦いの核心である。
Twitterは長い間、情報提供の目的で使われてきた一方で、人々がかなり自由に投稿できる場所でもあったため、時折問題が発生した。投稿内容をどこまで制限するかについては、ヘイトスピーチを一掃したいユーザーだけでなく、ブランドへのリスクを軽減したい広告主との間でも常に緊張があった。
マスクは、Twitterの独自性を保ちながらこうした問題を解決する代わりに、Twitterを誰もが自由に参加できる方向へとさらに推し進めた。マスクはTwitterを買収することにした理由のひとつに、モデレーションを強化する試みを引き合いに出し、「言論の自由」を擁護するプラットフォームとして作り直すことを挙げていた。しかし前述のとおり、ビジネス面ではうまくいっていない。
マスクの変更に反応して広告主がTwitterから撤退するなか、メタはマスクの失敗から学び、Twitterが成し得なかったもの、すなわちショッピングモール化された、ブランドに優しいバージョンのTwitterをつくろうとしている。
Threadsは、Facebookが衰退する中でも隆盛を極めたInstagramの成功を土台にすることを目指している。Instagramの視覚的な性質と厳格なコンテンツモデレーションは広告に最適だ。そして今度はThreadsが、Instagramを利用するブランドやクリエイターに製品を宣伝できる追加スペースを提供することになる。
このことは、Threadsが優先させているユーザーを見れば一目瞭然だ。インフルエンサーや有名人には先行してThreadsアプリへのアクセスが許可され、アルゴリズムによって執拗な宣伝が行われてきた。
エンゲージメントを急拡大させるために、インフルエンサーたちはフォロワーに対して、手始めに好きな色やクッキーが好きかどうかなどの質問を投げかけていたが、このレベルの会話でユーザーエンゲージメントを長く維持できるわけがない。
Threadsがどれだけ成功するかを正確に予測するのは難しい。一部のアナリストは、Threadsによって2025年までにメタの年間収益が80億ドル(約1兆1200億円、1ドル=140円換算)増加する可能性があると試算している。
しかし、初期登録者数が急増した後、すでにユーザーのエンゲージメントが大幅に低下していることを複数の追跡会社が確認している。
最終的にThreadsがどうなるかは、時に白熱することもある実質的かつ有益な議論よりも、空虚な消費を優先するTwitter似のプラットフォームをユーザーが本当に望んでいるかどうかにかかっている。
仮にThreadsが成功したとしても、それは人々が期待しているTwitterの代わりにはならないだろう。Threadsはドル箱アプリを目指し、Twitterを特別なものにしていたすべてのもの、つまり政治的議論、電車の最新情報、クラウドソーシングの速報ニュースをすべて放棄しているからだ。
では、今後Twitterの代わりが現れることはあるのだろうか。Twitterの崩壊が続いているなか、Twitterの座を奪うアプリは登場していない。その理由はおそらく、Twitterがオンラインコミュニケーション分野衰退期の名残に過ぎないからだ。
情報にアクセスできるだけではもはや不十分なのかもしれない。どこのプラットフォームもより短期間のうちに自社のビジネスの正当性を証明することが求められているいま、オンラインモールが最も現実的な選択肢なのかもしれない。
パリス・マルクス(Paris Marx):テックライター。ポッドキャスト 「Tech Won't Save Us」 のホストを務めるほか、ニュースレター「Disconnect」も執筆。著書に『Road to Nowhere: What Silicon Valley Gets Wrong about the Future of Transportation』がある。