2022年10月の買収以降、イーロン・マスクが繰り出す施策がことごとくTwitterのプラットフォームを混乱させている。
Jenny Chang-Rodriguez/Insider; Chesnot/Getty Images
イーロン・マスク(Elon Musk)がTwitter(現在のサービス名は「X」)を買収してからまだ1年も経っていないのに、彼のTwitterはすでに、死よりも悪い運命、つまりつながりのないプラットフォームへの道を歩んでいる。
マスクがbotのない、言論の自由の楽園に変えると約束したこのプラットフォームは、これまで以上に不具合、bot、スパムが多くなっている。
2023年5月、フロリダ州のロン・デサンティス知事がTwitterで大統領選出馬を表明した時は不具合のオンパレードで、会社にとって歴史的な瞬間であったはずが大混乱に陥った。リアーナがスーパーボウルのハーフタイムショーに出演していた時など、ニュースになるようなイベントの時でさえTwitterはうまく機能しなかった。
ほかにも、ツイートできる文字数の増加から、今では悪名高い「レート制限」(ユーザーが1日に見られるツイート数を制限する措置)まで、マスクが繰り出す「新機能」の大半が、プラットフォームを改悪している。
Twitterの中核は広告ビジネスであり、上場廃止になる前に公表された最後の財務報告書によれば、収益の90%以上が広告収入だった。このビジネスで成功するためには、コンテンツを生成するユーザーと広告を購入するクライアントの双方に、Twitterは信頼に足る安定した場所だと信じてもらう必要がある。広告プラットフォームが、広告で大賑わいの一大イベントであるスーパーボウルで信頼されなければ、何の意味もない。
ロケットスタートのThreads、マスクは目に見えて不機嫌に
そして今、競争が激化している。7月6日、マスクがケージファイトを挑んでから数週間後、相手であるマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)のメタ(Meta)は、Instagramと融合したSNS「Threads(スレッズ)」を立ち上げた。
24時間足らずでThreadsのユーザー数は3000万人を超え、その中にはアレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員、ジェニファー・ロペス、NBAの人気選手ステファン・カリーも含まれている。
マスクにとって、これはリングで大敗するよりも恥ずかしいことのはずだ。Threadsが一夜にして成功したことで、マスクは目に見えて不機嫌になり、Twitterにこう書き込んだ——「Twitterで見知らぬ人たちから攻撃されるのは、痛みを紛らわすInstagramの偽りの幸福に浸るよりも、限りなく好ましいことだ」。はいはい分かりましたよ、会長。
リアルな出来事とのつながりがあることは、プラットフォームとしてのTwitterの核心的な強みだった。Twitterは決して儲からなかったし、最大のSNSでもなかった。しかし、何かが起きると私たちはすぐにTwitterにアクセスして情報を得ようとした。その魅力は、社会的に注目すべき人物の死であれ、気象現象であれ、渋滞であれ、今この瞬間の情報を収集する能力だった。残念なことに、マスクの目論見はそのつながりをすべて消し去り、他のプラットフォームに隙を与えている。
マスクは、Twitterを配車サービスからショッピングに至るまでワンストップでできる「スーパーアプリ」に変えることを示唆している。だがそれよりも、マスクがTwitterを、トランプ前大統領がつくったアプリ「Truth Social」のような場に変えてしまう可能性のほうが高い。1人の荒れ狂うナルシストと、彼に媚びるすべての人々のためのデジタル・メガホンのような場だ。
どうやって立て直すつもりなのか
マスクがTwitterの買収に乗り出した当初、私はマスクが同社を買いかぶりすぎていると書いた。買収が成立した後、彼には事業を立て直す本当の計画がないとも書いた。これらの点で、私は正しかったと言えると思う。とはいえ、私が思っていたよりもはるかに早いペースで、すべてが崩れつつある。
Twitterは確かに再建を必要としていた。買収以前から、新しい経営陣、事業の再評価、新しいユーザーを獲得するための製品イノベーションへの投資が必要だった。
Twitterにとって不運なことに、マスクは伝統的な再建を行うタイプの人物ではない。実際、彼は事業再建の専門家ではない。彼が立ち上げた事業はすべて、新興産業におけるパイオニア的存在だった。
それらのビジネスを成功させたものはTwitterでは通用しないが、マスクはとにかくそれを試みた。Twitterのスタッフの70%以上を解雇し、彼らの組織的知識を軽視した。(テスラでそうであったように)まるで自分ひとりで広告ビジネスをやれるかのように振る舞った。
そして、ユーザーがTwitterに何を求めているのかを知ろうともせず、自分が絶望的なまでのツイート中毒であるだけに、すでにすべての答えを得ていると思い込んだ。しかし当然のことながら、億万長者の「リプライ・ガイ」だからといって、一般ユーザーがTwitterを使っている理由が手にとるように分かるわけでもない。
例を挙げよう。ニューヨーク市の地下鉄やバスを管理するニューヨーク都市圏交通公社(MTA:Metropolitan Transportation Authority)は、緊急事態や運行変更に関する自動アラートを送信するために何年もTwitterを利用していた。それはサイトにとって共生関係だった。ユーザーは、立ち往生した列車や遅延したバスに関するタイムリーな最新情報を得るためにTwitterを頼り、MTAは顧客に素早く伝えられる、信頼できる手段となっていた。
しかしマスクは2023年4月、MTAが自動アラートを送信できるようにしていたTwitterプログラムへのアクセスを突然遮断することを決定した。何年もの間、比較的スムーズに運営されていたにもかかわらずだ。マスクは、Twitterのソファクッションで必死に現金を探しており、TwitterのAPIとして知られるこのフィードへのアクセス料をユーザーに請求したいと考えた。国の気象サービス、政府、緊急対応機関はどこも、Twitterが彼らを必要としている以上にTwitterを必要としていると考えたのだ。
しかしMTAは、アクセスを維持するためにかかるコストを毎月5万ドルと見積もったものの、それを支払うのではなく、マスクのハッタリだとして開き直った。MTAがTwtiterに戻ってきたのは、マスクが決定を覆して政府機関が無料で利用できるようにしてからだ。この状況によってマスクは少ない手の内を見せざるを得なくなった。
「Twitterとマスクが経営する他の企業との唯一の違いは、彼がTwitterユーザーに対して従業員よりひどい扱いをしていることだ」
債券調査サービス、ボンド・アングル(Bond Angle)の創業者ヴィッキー・ブライアン(Vicki Bryan)はそう指摘する。
シロアリを駆除するために家に火をつける
Twitterのプロダクトは、別の理由からも苦境に立たされている。ご存知のとおり、マスクが支払い遅延の常習犯だからだ。
マスクのこの傾向は、長年テスラのサプライヤーの間に不満を募らせてきた。そして今は、Twitterのオフィスが入居するビルオーナーとゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)をイライラさせている。ゴールドマン・サックスは、マスクが同社のオフィス家賃の支払いを拒否しているため、不良不動産ローンを抱えているのだ。
見出しの合間を読めば、マスクの守銭奴ぶりはいたるところに漂っている。アメリカが独立記念日(7月4日)の祝日を迎える直前、マスクはユーザーが1日に閲覧できるツイートの数を制限すると発表した。体験を向上させ、厄介なbotを排除するためだという。
もしそれが本当なら、マスクはスパムとの戦いと引き換えに、ニュース速報や自由な会話のための信頼できる発信地としてのTwitterの評判を犠牲にしていることになる。まるでシロアリを駆除するために家に火をつけるようなものだ。この狙いが、マスクのひどくケチなマネジメントから来るミスディレクションだと考えるほうが自然だ。
6月下旬の時点で、Twitterはデータベースプロバイダーのオラクル(Oracle)に数カ月間支払いをしていなかった。同月、Twitterの新CEOリンダ・ヤッカリーノ(Linda Yaccarino)は、Twitterのデータやその他のコンピューティングサービスの拠点を提供しているグーグル・クラウド(Google Cloud)への未払金を精算しなければならなかった。
これらの企業が提供するインフラなしに、Twitterはいったいどうやって存続できるというのだろう。マスクが危険にさらした得意先との関係がこれにとどまらないことは、ほぼ確実だ。
確かに、サイトへのユーザーアクセスを制限するのはbotのためかもしれない。マスクにとってそれは、Twitterを特別なものにしている何かを犠牲にしてもかまわないと思える聖戦なのかもしれない。
あるいは、botとの戦いのためなら、何年にもわたってユーザー数を増やそうとしてきたTwitterを縮小させてもかまわないと考えているのかもしれない。だが、人員不足、脆弱なインフラ、安っぽい素人愛好家だらけの経営幹部層によって、同サイトがプレッシャーにさらされている可能性のほうが高そうだ。
もしTwitterに何か素晴らしいアイデアがあるのなら、もはや誰も欲しがっていない青いチェックマークへの課金はさておき、今こそそれを共有する時だ。
マスクの買収を通じてTwitterの株式を保有したフィデリティ(Fidelity)は、2022年10月に約2000万ドル(約28億円、1ドル=140円換算)だった同社の評価額を、2023年5月に650万ドル(約9億1000万円)へと引き下げた。3分の1だ。
前出のヴィッキー・ブライアンは、マスクが買収のためにTwitterに負わせた130億ドル(約1兆8200億円)相当の負債を追跡してきた。数十年という彼女の経験の中で、これほど急激に評価額が悪化するのは見たことがないそうだ。
Twitterの本当の価格はマスクが支払った440億ドル(約6兆1600億円)などではない。あれは「落下中のナイフ」(編注:落ちるナイフをつかもうとするとケガをすることから、安くなったからと喜んで急落中の株に手を出してはいけないという投資の戒め)なのだ。
ウォール街の誰もがそれを知っている。だからこそ、Twitterの債務1250万ドル(約17億5000万円)の売却を引き受けたモルガン・スタンレー(Morgan Stanley)ら金融機関は、小銭を稼ぐために債券を売るという堕落を味わうよりも、ただ債券の山に座ったまま奇跡を願っているのだ。
ウォール・ストリート・ジャーナルによると、銀行のバランスシートに残る800億ドル(約11兆2000億円)の「ハングデット」のうちの大半をTwitterの負債が占めている。金利が上昇した現在、取引市場全体が減速局面にあるため、さまざまな買収による債券は誰も買いたがらない。負債の金利が高いということは、Twitterの負債支払いも割高になるということだ。そのため、製品としてのTwitterに投資する場合、エラーや実験のための余地はほとんどない。
「もしイーロンが銀行にもっと金を貸してくれと言ったら、銀行は『悪いけど、トンネルを走行中で聞こえない』と言うでしょう。債務を売った相手がそれを売ることができなければ、負債を増やすことはできません」(ブライアン)
今やマスクが製品に
製品がダメだとユーザーは離れていく。それがTwitterで起きていることだ。ピュー・リサーチセンター(Pew Research)が5月に実施した調査では、利用頻度の高いユーザーはまだいるが、投稿は減っていることが分かった。
問題のひとつは、トランプのトゥルース・ソーシャルと同様、マスクがウェブサイトの中心的存在になっていることだ。意図的にそうしている部分もある。マスクは、自分の人気がユーザーの間で低下していると知ると、自分のツイートをもっと目立たせるようエンジニアに命じた。
もうひとつの問題は、マスクがさんざん文句を言っていたbotを引き寄せていることだ。ピュー・リサーチセンターの別の調査によると、過去1年間にTwitterをやめたことがあるユーザーは60%にのぼった。どう呼ぼうと勝手だが、私は彼らが「イーロン疲れ」に苦しんでいたと言いたい。
Twitterの代替サイトは数カ月前から存在している。マストドン(Mastodon)、ポスト(Post)、Twitterの創業者ジャック・ドーシー(Jack Dorsey)によるブルースカイ(Bluesky)などなど、好きなものを選べばいい。
これらのサイトはTwitterの熱狂的なファンを少しずつ狙い撃ちし、ユーザーを細分化したが、どのサイトもTwitterの絶え間ないおしゃべりに対抗できるようなクリティカルマスを獲得できていない。有名人やブランド企業など私たちが大嫌いな文化的にキッチュなものを引き寄せることもしてはいない。
しかし、メタのThreadsのロケットスタートは、マスクのTwitterにとって最も深刻な脅威となりそうだ。Threadsの違うところは、Instagramとのシームレスな接続により、Twitterユーザーを狙い撃ちするのではなく、ダンプカーですくい上げ、運んでしまうことにある。
連邦取引委員会(FTC)はこれについて何か言うかもしれない。FTCのリナ・カーン(Lina Khan)委員長は、ソーシャルメディアにおける市場支配力を維持するために中小企業の製品をコピーしているとしてメタを訴えようと試みてきた。しかしこれまでのところ、カーンの主張はうまくいっておらず、マスクの手助けをすることで振り出しに戻る力が高まるとは思えない。
マスクの弁護士はすでに、Threadsを停止しなければTwitterが訴えるとメタに停止通告書を書いている。ザッカーバーグは、ケージの中だけでなく法廷でもマスクを打ち負かす機会を得たことになる。関係するすべての弁護士におめでとうと言いたい。
ヤッカリーノは経歴を見る限り、有能なプロフェッショナルであり、私のアドバイスなど必要ないだろう。しかしそれでも彼女に言おう——逃げろ! マスクはマイクロマネジメントとケチで知られており、あなたの専門知識はすべての意思決定において彼のエゴによって破壊されることになる。そして、最終的にあなたが去りたいと思ったとき、マスクはあなたがドアから出て行くまで、あなたが得るべき金を小銭に至るまですべて奪おうとするだろう。私はテスラでこのようなことが起こるのを何度も見てきた。
以前なら、マスクは自身のブランドと製品を融合させることで成功に導くことができた。Twitterでは、その融合がブランドと製品を有害な混乱に変えてしまった。そして、もしTwitterが世界的なウォータークーラーになるには毒性が強すぎるとしたら、それは衰退していることになる。
マスクの数十億ドルのおかげで明かりはついているかもしれないが、中にいるのはマスクと、マスクを自分の父親であってほしいと願う一部の勘違い人間たち、そしてポルノbotだけだろう。
「Twitterキラー」になるアプリがあるかは不明だが、マスクの素行の悪さと粗悪な製品が「鳥のアプリ」をゾンビに変えているのはもう明らかだ。Twitterは死んではいないかもしれないが、この先そう長くないのは確かだ。持続するためには脳を食べる必要があるが、そうしていくだけの脳は周りにはないだろう。
これが当初マスクが望んだ場所なのかもしれない。少なくとも、彼はそこで人気を得るだろう。