会見の冒頭、NPO法人POSSEのメンバーとアウティング被害に遭ったAさんがLGBTQ差別への反対やアウティング防止を訴えた。
撮影:土屋咲花
東京都豊島区の保険代理店に勤務していたLGBTQ(性的少数者)の20代男性が、精神疾患を発症したのは、職場で本人の了承なくLGBTQであることを第三者に暴露される「アウティング」の被害を受けたことが原因だったとして、池袋労働基準監督署から労災認定された。
7月24日、若者の労働問題などに取り組むNPO法人・POSSEが記者会見を開いて明らかにした。POSSEによると、アウティングを原因とする労災認定は今回が初めてという。
「泣き寝入りしたくなかった」
職場で上司からアウティング被害に遭ったAさん。「自分が被害に遭ったことを世の中に知らせることも、アウティングをなくすための行動だと思っている」と話した。
撮影:土屋咲花
「私はアウティング被害を受けた時、人間不信に陥り、家の外に出ることもできなくなりました。
自殺も考えましたが、パートナーの支援があり、なんとか病院へ行くことができました。私は泣き寝入りをしたくありませんでした。
一緒に声を上げる仲間に認められながら、会社への責任追及や労災認定をすることができました。
今回、労災認定されることで、今後他の人に同じことが起きても同じように補償を受けられる枠組みを作ることができてよかったです」
会見に出席した当事者の男性(以下、Aさん)は、今回の労災認定を受けてこう思いを述べた。
AさんやPOSSEの説明によると、Aさんは2019年、豊島区にある保険代理店に中途採用の営業職として入社した。
同区のパートナーシップ制度を利用して同性パートナーと結ばれていたAさんは、同性パートナーを緊急連絡先として会社に伝えたという。同性であることを問われたため、
「みんなの前で言える内容ではなかったので、別の場所で、上司に自分がゲイだという事、パートナーシップ制度を使っていることを伝えました。アウティングをしないでくれという意味で『他の人には言わないで』とも伝えました」(Aさん)
Aさんと会社の間では「業務上知る必要性の高い正社員のみに、Aさんが自分のタイミングで伝える」「パート労働者には伝えない」ことを確認していたにも関わらず、直属の上司がパート労働者に対し、Aさんに同性パートナーがいることをアウティングしたという。Aさんはアウティングの事実を上司から知らされた際に、「一人ぐらいいいでしょ」などと言われた。
Aさんはパート労働者に無視されるなど差別的行動を取られ、アウティングした直属の上司を信用できなくなった。最終的に動悸や悪寒、震え、対人恐怖、不眠の症状が出たため精神科を受診したところ、精神疾患と診断されたという。Aさんは長期間の休職を余儀なくされ、最終的にその会社を退職している。
アウティングが労災認定の根拠に
NPO法人POSSEの佐藤学さん。
撮影:土屋咲花
会見では、今回の労災認定について行政がどのように判断したのかを示す資料も公開された。「認定した事実」の欄には、
上司による「アウティング」のあった、令和元年6月頃から頭痛、胃痛が強くなり…(中略)「不安神経症」と診断された
と、アウティングと精神疾患の因果関係について触れられている。
POSSEの佐藤学さんは
「職場でアウティングの被害を受けて、精神疾患を発症したり、最悪の場合、自死に至ったりするケースもあるわけですが、その因果関係を今回労災として認定されたということは、加害行為に対して謝罪や賠償、再発防止などの責任追及がなされるということです。
(アウティングによる精神疾患が労災認定を受けたことによって)発生を防ぐための教育や相談窓口の設置といった整備が進み、社会的にアウティングをなくしていくことにつながると考えています」
と今回の意義を強調した。
アウティング「深刻な問題」
アウティングに関しては、2015年に一橋大ロースクールの学生がアウティングの被害を受け自殺した事件も起こっており、生死にも関わる深刻な問題であることが認知されつつある。
AさんとPOSSEはこれまでに、アウティングの加害行為に対して会社への責任追求を進めてきた。当初、会社側は「善意でやったこと」などと説明し加害を認めていなかったものの、条例でアウティングの禁止条項を定めている豊島区への救済申し立てなどを経て和解した経緯がある。Aさんはそのうえで2021年4に池袋労働基準監督署へ労災申請を行い、2022年3月18日に労災認定を受けた。
申請にあたっては、オンライン署名サイト「Change.org」で約2万人の署名を集め、厚生労働省に提出するなどしてきた。
Aさんは現在もメンタルクリニックに通うなど不調に悩まされている。今回、労災認定から1年以上を経ての会見実施となったのも、Aさんの体調を考慮してのことだ。
「(当初、アウティングを知らされたときは)本当に頭が真っ白になり、パニック状態に陥りました。アウティング被害によって、信頼関係が崩壊することが分かりました。
LGBTQの当事者たちで会社でそのことをオープンにできる人は本当にごくわずかだと思っています。これから先、制度の変化などで本人以外の一緒に働く人たちの理解が深まれば、働きやすくはなると思いますが、今のこの状況では言えないということは分かってほしいと思います。
LGBTQだから差別をするということ自体がおかしいのではないかと思うのですが、まずは、アウティングを禁止することが会社のやるべきことだと思います」