逆境を経て、なぜfundbookは過去最高売上を実現できたのか

M&A仲介サービスのfundbook(ファンドブック)は、第6期の決算公告(2022年4月〜2023年3月)にて、過去最高売上である50.6億円を公表した。

2017年の創業からたった2年8カ月で35.6億円の売上を達成してから、約3年。更なる成長を目指した挑戦と失敗の繰り返しにより、一時は成長率が鈍化したというが、大胆な組織改革によりターンアラウンドを実現した。

M&Aにマーケティングとテクノロジーを介在させた独自のモデルを生かしながら、苦境を乗り越え実績を積み上げてきたこの3年間の実情と今後の展望を、代表取締役・畑野幸治氏と取締役・谷口慎太郎氏へのインタビューで明らかにする。

業界で異例の急成長を遂げ、社内体制を大きく変更

谷口慎太郎氏と畑野幸治氏

2020年3月、売上高35.6億円を達成した際は「業界異例の急成長企業」と注目を浴びた。しかし、「社内は課題だらけでした」と、fundbook代表取締役・畑野幸治氏は振り返る。2021年6月に参画した取締役の谷口慎太郎氏は「入った初日に、弛緩した空気を感じました」と言う。一体、何が起きていたのか。

一人の担当者が初回面談から成約までを担う従来のM&A仲介モデルではなく、セクターごとに分業体制を構築する独自のモデルを打ち出したfundbookは、プラットフォームを活用したハイブリッドなマッチングも機能し、破竹の勢いで成長した。ところが、35.6億円を達成した直後、新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言が発出された。

従業員の安全を確保するため、2カ月間ほとんどオフィスをクローズ。その後、働き方や社会情勢は大きく変わった。飲食業界、ホテル業界、旅行業界などコロナ禍の影響を受けた業界のM&A案件は軒並み頓挫。様々な企業から「クラスターが発生すると困る」と訪問を断られた。だが、もともとテクノロジーに強みがある会社だけに、施設見学に動画を活用したり、トップ面談をオンラインで行ったりと、柔軟に素早く対応できた。畑野氏自身、「コロナそのものが業績に壊滅的な影響を及ぼしたわけではない」と分析する。

「創業から3期目までは譲渡案件の受託(アドバイザリー契約の締結)を積み上げて一気に伸びていきましたが、ずっと課題と感じていたのは、受託から成約に至るまでの率の低さでした。当時、業界トップ水準では40%程度と言われていましたが、当時のfundbookは25%程度。これはカスタマーサクセスという当社のコアバリューやプラットフォームの介在に価値を置く当社の未来を脅かす数字だと考えていました。

この成約率を高めるために、もともと1つだったセールス組織を譲渡企業と譲受企業を担当するチームに2分割し、マッチング力の強化に向けて大きく舵を切りました。そうして積み上げられる全国の譲受企業とのリレーションシップによって蓄積されるデータベースこそ、当社のコアバリューであるカスタマーサクセスに繋がり、未来の成長力になると信じていたのです。私が自社を譲渡するなら、やはりマッチング力が日本一の会社にお願いしたいですから。

さらに、2分割によって譲渡企業を担当するチームのソーシング力が落ちないように、インサイドセールスという組織を大々的に構築し、従来は一人のアドバイザーが行うソーシング業務を分業することで、リソースの半減を補完しようとしました。普通、セールスリソースが2分割されればソーシングのパワーが落ちますので、それをインサイドセールスによって補おうと考えたのです。譲渡案件の受託件数が変わらず、成約率が向上すれば売上は伸びていく、という想定でした。

また、そのタイプの分業を実現した会社は未だかつてM&A業界にはなかったので、私たちにとっては大きな挑戦でした。なんとかここを成功させて、このモデルを軸にfundbookのセールス組織を成長させようとしたのです」(畑野氏)

約2年の挑戦を経て、創業時の想いに改めて回帰した

さらなる飛躍に向けて社内の体制を変更したわけだが、結果はどうだったか。成長率は明らかに鈍化してしまった。

畑野幸治氏

畑野幸治(はたの・こうじ)氏/fundbook代表取締役。東京国際大学商学部在学中に起業後、株式会社MicroSolutionsを設立。リユース事業を創業し、2016年に株式会社BuySell Technologiesの代表取締役に就任。2017年に株式会社ミダスキャピタルに同社の株式譲渡を実行し、株式会社fundbookを設立。2019年に株式会社Success Holders(旧株式会社ぱど)にTOBを実行し、2020年に同社の取締役会長に就任後、2022年に同社取締役COOに就任。

「インサイドセールスが新規の商談獲得を代替することで、アドバイザーの満足度は上がりましたが、M&Aの現場を知らないスタッフが電話で対応するので、どれだけトレーニングをしてもなかなかお客様と同じレベルで会話できず、結果的にお客様との関係構築がうまくいかなかった。このソーシングパワーの低下は成約率や成約件数に大きく影響し、各転換率や成約単価も下がっていきました。

また、インサイドセールス・マーケティング・譲渡企業担当・譲受企業担当とチームを分けたことで、社内に“人任せ文化”が醸成されて、不完全燃焼な組織に変貌していってしまった。谷口さんがジョインしたころには緩い空気がまん延してしまっていたというのが実情です」(畑野氏)

コロナ禍や変革の最中に、役員たちに一部の裁量を委譲したこともタイミングを誤ったという。結果の良し悪しを判断するまでに2年近くの時間を要したが、このままではfundbookが弱体化すると確信した畑野氏が自ら陣頭指揮を取って大改革に乗り出したのは、2022年1月のことだ。

「断腸の思いで改革を実行していきました。インサイドセールス組織を解体し、2分割したセールス組織を元のように1つに合併。役員に委譲した人材採用も改めて私が担当し、社内のルールや全部門のKGI/KPIを抜本的に再設計、基盤システムの改修をはじめ、データ収集基盤の構築など、過去の失敗を教訓にするべく、新しいfundbookモデルの確立に向けて動き出しました。自分は何故fundbookを創業したのか、自分が創りたいM&A業界の未来像に回帰し、強い意思を持って挑んだのです」(畑野氏)

全体の底力が上がり、成約単価も飛躍的にアップ

コンサルティングの流れ

提供:fundbook

現在の体制では、M&Aコンサルティング本部が主にソーシングとディールを担当し、M&A推進本部が企業価値評価、企業概要書作成、マッチングまでを行う。評価と案件化は企業評価部、マッチングは企業情報部が担当。マッチングにおいては、全国約2万5000社の譲受企業ネットワーク(※)をもとにアドバイザーの知見はもちろん、テクノロジー、データを活用して全方位型のマッチングを行う。インサイドセールスは廃止したが、各部門が専門特化し、連携しながら成約までサポートする特化型分業モデルは変わっていない。ただし、過去の失敗から得た教訓を兼ね備えている点からして、創業期に比べてかなりのアップデートが行われた。その1つが業種特化型アプローチだ。

谷口慎太郎氏

谷口慎太郎(たにぐち・しんたろう)氏/fundbook 取締役。明治大学経営学部卒。三菱UFJ銀行を経て、ヘルスケア投資ファンドでの投融資業務、ハンズオンでの再生業務に従事。2009年に日本M&Aセンターへ入社。医療・介護・保育を中心としたヘルスケア関連企業をメインに、運送、製造、食品、ビルメンテナンス・警備、人材派遣業と多岐に渡ってM&Aを支援。2017年に同社の執行役員に就任。2021年にfundbookへ入社。同年6月、当社取締役に就任。

「業種に特化していくメリットは、顧客と同じ目線で業界について語り合い、寄り添って課題解決の提案ができることや、僕らがプロフェッショナルな知識を持っている分、譲渡企業と譲受企業の情報格差を是正できる点などが挙げられます。したがってミスマッチが少なく、最適なお相手とマッチングできる可能性が高まるため、成約率が高くなる。今の当社は、全体の底力が上がり、ようやく筋肉質な状態になってきました」(谷口氏)

2022年度の業績は、売上高50.6億円、成約件数58件、成約単価約8,700万円と発表した。成約件数が2019年度の45件に比べて伸びただけでなく、業種特化型セールス組織が牽引し、高い単価の案件を手掛けることが多くなったという。

※fundbookが商談実績のある譲受候補企業の総数

徹底したデータドリブン経営はfundbookならでは

迷走した艱難辛苦の2年間を経て、1年半の改革で変わったこと、新たに得たものは多い。だが、創業時から一貫して変わらないfundbookらしさも残っている。

変わらない部分は、データドリブンに経営していることです。データに則って経営をしていれば、必ず正しい形が見えてきます。僕はセールスを軸にマーケティングとテクノロジーを介在させて事業を創り変えることを強みにしてきた経営者なので、そもそもデータが見えないと経営ができません。

現代ではデータドリブン経営が民主化されたので、あえてそこを押し出す気はありませんが、空気を吸うような感覚でデータ収集基盤の構築とデータを活用した経営の意思決定を行っています。その点、非公開にしていることも多いのですが、M&Aテックの領域は、業界では進んでいる方だと自負しています。

創業から6年間、積み上げてきたデータはすべてマスターデータとして整理して活用していますし、労働集約型ビジネスは従業員にいかに効率的に働いてもらうかというのが要なので、コスト・リソース配分・KGI/KPIに関するすべての係数がリアルタイムで集計できるような基盤が整備されています」(畑野氏)

今後は創業以来蓄積されてきた譲受企業のデータベースを強みに、M&Aプラットフォームを再構築し、新しいM&A仲介事業のモデルを目指す。

「現状、譲受企業はいくつもいくつも仲介会社のアカウントを開設し、案件を担当者から紹介してもらわなければならず非合理的。譲渡企業側も自分の会社を譲渡するとなったときに、全国の譲受企業にその意思を知ってもらえる場所がありません。1つの大きなプラットフォームを作り、従来のM&A仲介にテクノロジーを介在させたハイブリッド型のM&Aソリューションを提供していきたい」(畑野氏)

業界のスタンダードを変革する

畑野幸治氏

「今後の展開は、顧客が困った時に第一想起をしてもらえるブランドがM&A業界に立ち上がるよう、マーケティングに力を入れていくこと。M&Aや事業承継をしたいと思ったときに、顧客はどこに相談すればいいのか、現状では想起できる場所がほとんどありません。あるいは、M&A仲介会社が乱立する中で、どの会社に任せていいのかわからないという状況を打破したい。

2つ目はプラットフォームやAIを活用したクリアで再現性のあるマッチングを提供すること。fundbookがパーパスに掲げるこの2軸でM&A業界の構造を変えていきたいと思っています。

fundbookは再び成長曲線を描き出しました。ここまで付いてきてくれた従業員の皆さんには心から感謝しています。そして、ここからがfundbookの本領発揮。これからのfundbookに期待していただきたいです」(畑野氏)


「私たちは顧客に第一想起してもらうに相応しいサービス開発に励んできました。ですから、今在籍している従業員の皆さんには、この会社で長く活躍してもらって、自身が成長できて心身共に豊かになれる会社を一緒に作っていきたい。それが達成されたら、本当の意味で顧客に選ばれる会社になっているだろうと思います。それが、私がここにきた理由でもあります」(谷口氏)

畑野氏は、過去に「海外進出」を目標に掲げていたこともある。その夢は今も持ち続けているのだろうか。

「今は、戦国時代化したM&A業界の荒波に呑まれないように必死です。ただ、もちろん私の夢である海外への進出は果たしたいですし、当社自身がM&Aを活用して経済圏を拡大することも見据えています。個人も会社も、夢や希望は語り尽くせないほどたくさんあります」(畑野氏)


fundbookの詳細についてはこちら

fundbookによるM&Aの解説はこちら

Popular

Popular

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み