BMWが燃料電池自動車(FCEV)に“本格参戦”。日本をはじめ、世界各国で大規模な実証実験を展開する。
撮影:湯田陽子
BMWは7月25日、水素を燃料とする燃料電池で動く電気自動車「燃料電池自動車(FCEV)」の実証実験を日本で開始すると発表した。3台投入し、同日から2023年末まで公道を走行する。
同社は実証試験に際して、約100台のプロトタイプ車を生産。日本のほか、欧州やアメリカ、中国、韓国など各国で実証実験を展開し、2020年代後半の市場投入を目指し検証を進めていく。
世界の燃料電池車市場は現在、韓国・現代自動車(ヒョンデ)がトップを独走中。日本のトヨタは2位だ。BMWの本格参戦によって、燃料電池車市場の拡大に弾みがつくのか注目される。
トヨタと駆動システムを共同研究
BMWの実証実験用FCEV「BMW iX5 Hydrogen」。約100台を生産し、日本以外でも、欧米、中国、韓国など世界各国で実証実験を展開中だ。
撮影:湯田陽子
水素を燃料にする「水素自動車」は、水素エンジン車と燃料電池車の2種類ある。例えば、トヨタ自動車が国内外の耐久レースに投入しているのは水素エンジン車で、販売している「MIRAI(ミライ)」は燃料電池車だ。
BMWもかつては水素エンジン車を開発していたが、現在は燃料電池車にシフトしている。
背景には、燃料電池車のパワートレイン(装置など)の多くを通常の電気自動車(EV)と共有できること、同量の水素で走れる航続距離が燃料電池車のほうが長い(エネルギー効率が良い)といったメリットがあるという。
BMWグループは、2011年にトヨタと燃料電池車の基礎研究を開始、2013年からは燃料電池駆動システムを共同開発してきた。
BMWが今回投入する実証実験用車両は、人気のSUV(※)「BMW X5」をベースに開発した燃料電池車「BMW iX5 Hydrogen」。約3分程度で空の水素タンク(圧縮水素タンク)をフル充電でき、約500キロメートル走行できる。
※BMWでは、スポーツ・アクティビティ・ビークル(SAV)と呼んでいる。
韓国がトップを独走、日本は世界4位
2022年の燃料電池自動車の国別シェア(普及台数)では、韓国が41%と独走状態となっている。
出所:IEA「Global EV Outlook 2023」
IEAによると、2022年の燃料電池車のストック(普及台数)は前年比40%増加し、世界で7万2000台を超えた。現在、世界の燃料電池車の半分以上を生産しているのが韓国で、2022年の国別シェアは41%と独走状態となっている(図1)。
次いでアメリカ(21%)、中国(19%)、日本(11%)と、上位4カ国が全体の9割超を占め、5位のドイツは日本の約3分の1程度にとどまる。
BMWは今回、日本各地の公道を走行する実証実験から得たデータのほか、官公庁や行政機関、大学、メディア向け試乗を実施し、そのフィードバックを製品開発に役立てる。また、教育関係のNPOとのコラボイベントなどを通し、水素の可能性や実用性に関する啓発活動も進めていく。
BMWは「汎用性の高いエネルギー源であり、地球温暖化防止において重要な役割を担う水素のポテンシャルを生かし」(BMW)、EVだけでなく燃料電池車を通じてモビリティ分野の変革を加速させたい考えだ。