謝罪メールにペコリ絵文字、何から何までチャットで質問。新人コミュニケーションに悩む上司の苦悩

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新人世代とのコミュニケーションに悩む上司は少なくない。

撮影:今村拓馬

新人世代とうまくコミュニケーションが取れない ──。

社会人10年目前後の「若手・先輩世代」に話を聞くと、こんな声が多く聞こえてくる。

一方で新人世代は、上司とのコミュニケーションについては、大きな不安を感じていないという傾向もある。

リクルートマネジメントソリューションズが2023年4月に入社した新入社員を対象にした意識調査(509人が回答)では、仕事をする上での不安について複数項目で選択してもらったところ「上司とうまくやっていけるか不安」は22%にとどまり、2010年の調査開始以来、過去最低の割合だった。

先輩・上司世代は、新人世代とのコミュニケーションのどこにギャップを感じているのだろうか?

急遽「コミュニケーション講座」を開催

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マサシさん(仮名)は、入社2年目の社員から謝罪メールを受け取ったが、そこには……。

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「入社2年目の若手から、真剣な謝罪のチャットがあったのですが、文末にペコリと頭を下げているスタンプがあって、驚きました」

社員数約300人のIT企業に約9年勤務するマサシさん(仮名、32歳)の会社では、新人世代のテキストコミュニケーションが、社内で問題になっているという。

4月に入社した新入社員が管理職への個別チャットにハートのスタンプを使用。部長からは「社外とのやり取りが心配だ……」という声が上がったこともあり、マサシさんの会社では急遽、新人社員にむけた「社内外へのコミュニケーションの講習会」を実施したという。

「正直にこんな講習会が必要になるとは……という気もしましたが、他社の人事部社員も同じような講習会を開いたと言っていたので、共通の課題なのかもしれません」

コミュニケーションは「タイパ」重視

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「対面での対話」を重視しない姿勢に違和感があるという声も。

撮影:今村拓馬

「対面でのコミュニケーション」を重視しない若手世代に、違和感を感じるという声もあった。

顔も見たことがない若手からチャットやメールだけで相談が来るのですが、失礼な気がします。

対面の方が相談に応じる身としても熱が入りやすいし、本当に困っているのであれば最初は直接挨拶するべきなのでは?と思うのですが、この考えって古いんですかね」

広告関連企業に勤めるケンジさん(29歳、仮名)はそう話す。

ケンジさんの企業では、過去に類似したケースを担当したことがある社員に助言を求めることは珍しくないという。ただ、ケンジさんが新卒で入社した当時は、先輩社員に連絡する際には、まずは直接あいさつするのが当然で、ケンジさんも後輩にはそう指導してきたという。

「在宅勤務を経験していたり、チャットコミュニケーションが浸透したことも理由だと思いますが、あまりに気軽に依頼されるのは気になります。

何でもネットで済ませられることに慣れている世代ならではのコミュニケーションなのでしょうか…」

「俺はGoogle検索なのか?」

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新人世代は「とにかく効率のよいコミュニケーションを求める」という。

撮影:今村拓馬

公務員のシュンさん(仮名、30歳)は、新人が「とにかくなんでも質問してくる姿勢」に、世代の違いを感じるという。

シュンさんは新卒社員に対して「出張先へのルートを事前に調べてほしい」と指示したことがあった。

同じ部署の数人が参加するその出張では、都内のオフィスから川崎市内の施設を訪問するという内容で、どの時間帯の電車に乗ればよいか、最寄りの川崎駅からはバスなのか、またはタクシー移動なのか、所要時間はどのくらいなのかを調べてほしかったという。

「指示をした後、『オフィスから川崎駅ってどれくらいかかりますか』と、調べればすぐに分かることを質問されたんです。『俺はGoogleなのか?』と思ってしまいました

新人世代と接するなかでシュンさんが感じるのは、「効率の良さ」を第一に考える傾向だ。

「上司の方が経験があるのだから、わからないことはすぐに聞いた方がタイパがいいと考えたのかもしれません。自分だったらそんな聞き方はしませんが……」

若手の反論「上司世代は効率が悪い」

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実際に新人世代に話を聞いてみると……。

撮影:今村拓馬

ここまで先輩・上司世代の声を聞いてきたが、実際に新人世代は上司とのコミュニケーションをどう感じているのだろうか?

上の世代のコミュニケーションは効率が悪いと思うんです」

都内のIT企業で働く、新卒2年目のユウタさん(仮名)は、先輩世代のコミュニケーションをこう断じる。

ユウタさんはSNSネイティブ世代。学生時代、友人とのやり取りはメールではなく最初からLINEだった。短文でテンポの良いコミュニケーションに慣れ親しんできたが、社会人になってからはそのコミュニケーションの取り方が未熟だと指摘されることもあるという。

「短文で気軽に投げかけた質問に対して、相手がすぐに答えを返してくれると思っている部分はあると思います。

でも、もしその質問が言葉足らずだったら、分からない部分を聞いてくれたらいい。その方が、最初から文章をたくさん書くよりもコミュニケーションが早いじゃないですか」

ユウタさんは「先輩のメールや社内チャットの文章は完成されていて分かりやすくて、尊敬している」とも話す。

「ただ100%の内容を送るよりも、8割の段階で相手に送り、そこから相手とメッセージの往復をした方が効率的だと思ってしまいます」

先輩・上司は「価値観を押し付けないこと」

上司・部下間コミュニケーションに詳しいリクルートマネジメントソリューションズの荒金泰史さんは次のように指摘する。

「世代間のギャップを感じることがあっても、新人世代は仕事の知識やスキルやマナーを身に着けたいと思っている人も多い。先輩・上司は価値観を押し付けるのではなく、仕事に必要なスキルはきちんと指導する必要がある

リクルートマネジメントソリューションズが実施した新人社員を対象にした調査では、「社会人として働いていく上で大切にしたいこと」について最大3つ選択してもったところ、1位が「仕事に必要なスキルや知識を身につける」(48%)、3位が「社会人としてのルール・マナーを身につける」(43%)だった。

グラフ

出典:リクルートマネジメントソリューションズ「新入社員意識調査2023」

メールやチャットでの絵文字・スタンプの使用などについて荒金さんは、「昔は電話が当たり前だったのが、テキストに置き換えられたというだけで、本質的な問題ではない」とする。

一方で、自分にとって効率がいいからと言って、先輩にすぐに質問し続けることは「ビジネスでは一方的なやり取りでは成立しない。自分のタイパを考えるだけでなく、質問に対する相手のタイパも考えるようになってほしい」とした。

また新人世代に指導する際の注意点としては「価値観を押し付けないことが大事」だという。

「上司世代への研修の場では、『人として当たり前だから』とか『人間関係において大事だ』のような人によって違う価値観に関することは、余計な一言になることがあると伝えています。

価値観に関係するようなことを言われると、指導を受けた側は『私はそうは思わない』と感情の話になってしまう。

あくまでもビジネスコミュニケーションに限って指導することが求められていると思います」

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