左から、仮想通貨取引所ビットフライヤー創業者の加納裕三氏、2ちゃんねる創設者のひろゆきこと西村博之氏、ビジネス動画メディア「ReHacQ(リハック)」の高橋弘樹氏。
撮影:太田百合子
7月25日、26日の2日間、東京国際フォーラムで開催された仮想通貨・Web3分野の国際カンファレンス「WebX」。
仮想通貨(暗号資産)、ブロックチェーン、NFTなどをテーマとする数多くの登壇枠のなかで、異彩を放っていたのが「ビットコイン・Web3は世の中に必要か?」と題したセッションだ。
登壇者は2ちゃんねる創設者のひろゆきこと西村博之氏と、仮想通貨取引所ビットフライヤー創業者で代表の加納裕三氏。モデレーターはビジネス動画メディア「ReHacQ(リハック)」の高橋弘樹氏が務めた。
セッションは仮想通貨は必要なのか?という議論から、玉石混淆のNFTにまで及んだ。
「NFTは価値が永遠に残ると誤解されている」
撮影:太田百合子
議論は高橋氏の「ビットコインとかWeb3って、そもそも何?」という問いかけに、仮想通貨取引所の創業者で現役のCEOという立場の加納氏が答えるところから始まった。
加納氏の説明を要約すると、
- ビットコインは仮想通貨とか暗号資産とか呼ばれていてお金の話
- Web3は技術の話で、ブロックチェーン技術を使ったサービスとか、ブロックチェーンのインフラそのもののこと
- ブロックチェーンは「消せないデータベース」と自身では定義
というものになる。
ビットコインやWeb3について「投機対象という目線のほかに、インフラとして本当に価値があるのか」と問う高橋氏に、「Web3が社会の基盤として成功するかどうかはまだわからない。(中略)技術的な革新性があると思っていて」「今までになかった使い方みたいなものがWeb3でできる可能性があるので、(中略)今後そういうアプリケーションが流行っていくと、社会のインフラになりうるんじゃないか」と加納氏。
一方ひろゆき氏は「“消せないデータベース”といっても、NFTの売買などのデータは結局会社が管理している。(ブロックチェーンを使っていない)今までと大きな違いはないのでは?」との疑問を投げかける。
加納氏は、NFTには「ブロックチェーン上に直接記録しながら流通してくるタイプ」と、「会社のサーバー内部にデータが記録されているタイプ」があり、後者は確かに会社が倒産したら取り出せないリスクはある、とする。
ほかにもNFTをめぐる課題の論点は複数に及んだが、ひろゆき氏は仮想通貨をめぐる日本の法的な利用者保護の強さを認める一方で、NFTについては「仮想通貨のように保管されて、買ったものが永遠に残ると誤解している人が結構多い」と問題を提起した。
NFTは「所有権」ではなく「所有“感”」
撮影:太田百合子
「NFTって何かうさんくさく感じる。写真とか絵は(オーナーにならなくても)Webで見られる」
と切り出す高橋氏に、加納氏は「それは絵画も同じ。ゴッホのひまわりは何十億もするけど、見るだけなら見られる。でも所有してる感覚=所有“感”を得たい人は本物が欲しい」と応じた。
ひろゆき氏は、加納氏の言う所有“感”と所有“権”の違いは曖昧にすべきではないとして、「その所有“権”と所有“感”をごっちゃにして話すの、僕、ちょっと詐欺っぽくて好きじゃないんですよ」と切り込む。所有感を売買するのはいいが、NFTに法的な意味での所有権はない。そこを一緒にするとだますことになりかねないという指摘だ。
加納氏は改めて、「所有“感”」とあえて表現するのには法律上の理由があるとする。
加納氏の発言を引用すると、以下のような内容になる。
「民法上の所有権っていうのは、デジタルものに適用されないんですね。『物権』なので、有体物にしか所有権というのは、民法上は適用されません。
なので、デジタル上の、いわゆる価値があるものに対して、所有権っていうのは一切認められないです。
でも、所有してる、なにかしらオーナーシップを持ってるっていう『感じ』を得ているから、しょうがないから『所有権』っていう言葉が使えないので、『所有“感”』っていう風に置き換えています」(加納氏)
参考:立命館法学2022年2号「NFTに対する『所有権』の成立可能性をめぐる法的議論の整理と若干の考察」
その上で、加納氏はNFTをめぐる問題の1つである「何の権利を売買しているのかわかりづらい」という点については業界として課題感を持っていることも明かす。
「何の権利を売買してるかが曖昧なんですね。 (中略)それを見せびらかす権利なのか、商用利用できるのかっていうのは、全部ご利用規約とかで定義されてる。
ご利用規約もしくはスマートコントラクト※で、お互いが合意した状態を作った時に、その権利っていうのが1個1個ていねいに移転されるべきなんですけれども……いま曖昧でやっちゃってるから、買ったとしても、何の権利をもらってるのかがすごく曖昧」(加納氏)
※スマートコントラクト:あらかじめ決めておいた条件を満たした場合、プログラムによって人の手を介することなく契約を自動実行する仕組みのこと。
と、現行法の線引きに言及した上で「だから『だまされてる人がいる』っていうのは、まさに同感です」とした。
そのコメントにひろゆき氏も次のように応じた。
「わかりやすく説明しようとして、所有“権”が入ってるかのように言ってしまうパターンと、本当にだまそうと思って『所有権を持てるかのように』言ってる人がゴッチャにいるんですよ。
僕はその所有“感”でちゃんと言って(説明して)くれるんだったら、それは全然問題ないし、好きで払うんだったら全然やってくださいと思うんですけど」
Web3について業界の自主規制はできたが……
撮影:太田百合子
かつて国内でも2000年前後にインターネットバブルと呼ばれた時代があり、当時も詐欺まがいの企業が問題視された。
その時代を間近で見てきたひろゆき氏は、それでも当時は監査法人や証券取引所などある程度のチェック体制があったが、「Web3と呼ばれる界隈」(ひろゆき氏)にはチェック体制がないのではないか?と疑問を投げかける。
加納氏は、Web3にまつわるサービスのチェック体制に対して、自主規制ルールとその限界を示す形でこう回答した。
「今、自主規制ルールっていうのができて、(いわゆる)IEO(Initial Exchange Offering、以前はICOと呼んでいた仮想通貨の資金調達)だったり、そういうもののルールが徐々にでき始めて。やっぱりちゃんと監査しましょうと。(中略)チェックするような体制がようやくスタートし始めました」(加納氏)
撮影:太田百合子
それでも、あくまで自主規制は国内向けでしかなく、国外のマーケットで日本人向けに悪意をもって始めたら止められないのでは?とのひろゆき氏の質問には、こう回答した。
「止めようはない。だから、最後はもう自己責任になっちゃうんですけれども。ある程度、国が守る形で、日本の取引所なり、信頼できるところがやってる分には、一応このルールは適用していて『相当ひどいもの』は、防がれてますよ、と。
ただ、海外は当然規制がないので、自由にできちゃう。 これをどうやって規制するんだって話であれば、僕はもう、『ほぼ手段がない』と思ってる。
ユーザーとしては、やっぱり海外発行のものっていうのは、相当気を付けていただいて取引をすると。相当、本当に詐欺的なものっていうのは多いと思うので」
また、「だまされないためには?」という高橋氏の問いに、「一番良いのは何もしないこと」と答えつつも、「いきなり何万倍になるとか、保証しますみたいな言葉があるものは、怪しいと思って避けた方がいい」と注意喚起した。
まとめとして高橋氏から、仮想通貨とNFTの現状と課題を尋ねられ、加納氏はこう答えた。
「仮想通貨は、国内では規制が進んでだいぶ安定してきました。(中略)NFT(の課題)でいうと著作権」とした上で、
「(権利者の許諾を得ていないコンテンツでも流通できてしまう)問題を解決しないと、なかなか著作権付きのNFTは流通しないだろうなと。
一方でNFTは別に著作権だけじゃない。契約書をNFTにしてもいい」
と、技術的な側面からユニークな使い方はあり得るとも言う。
「エンターテインメントとかゲームとか、ビデオとかだけじゃなくて、もう少しビジネス的な使い方でも進んでいくんじゃないかと。
もっと言うと、仮想通貨とNFTだけじゃないとも思うので、ブロックチェーンを使った新しい技術が今後生まれていくといいと思ってます」