OpenAIのサム・アルトマンCEO
JASON REDMOND/AFP via Getty Images
OpenAIのサム・アルトマン(Sam Altman)CEOが会長を務める原子力スタートアップ「Oklo」の株式公開は、電力問題の分水嶺となる可能性があると業界専門家は述べる。
アルトマン氏は、特別目的買収会社(SPAC)との合併を通じてOkloを上場(いわゆるSPAC上場)させる計画で、取引額は約8億5000万ドル(約1190億円、1ドル=140円換算)と見られている。
2015年からOkloの会長を務めるアルトマン氏は、2022年のChatGPTの立ち上げによって自身が引き起こしたAI(人工知能)革命が必要とする莫大な電力需要にとって、原子力は不可欠と主張している。
法律事務所CMSのパートナーで、電力と気候問題を専門とするマシュー・ハニーベン(Matthew Honeyben)氏は次のようにInsiderに語る。
「原子力会社の上場は、原子力がすべての人にとって電力源となり得ることを市場に明確に示すものだ。メガ・プロジェクトの開発と資金調達は、つい最近までは政府が行うことだったが、今はそうではない」
原子力は、温室効果ガスを排出せずに24時間稼働で発電できるため、発電システムを脱炭素化できる方法としてしばしばアピールされている。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が提唱している4つのネットゼロ(温室効果ガスの排出と除去のバランスが取れた状態、つまり温室効果ガスの排出ゼロ)の手法の中にも原子力は位置づけられている。
また、ロシアのウクライナ侵攻によって「エネルギー安全保障」が国際的な重要課題となったことも「原子力ルネサンス(原子力の再評価)」を加速させた。
PitchBookによると、原子力スタートアップへの投資は2023年上半期に17億ドル(約2380億円)に達しており、通期では2022年の23.5億ドル(約3290億円)を上回る見込みだ。
原子力とAIは両立可能
アルトマン氏はCNBCのインタビューで、原子力エネルギーの存在なしに化石燃料の使用を止める方法はないと考えていると述べた。また、エネルギーとAIの両方のコストが下がれば、未来は「はるかに良くなる」とも語っている。
AIが求める莫大な電力需要は、原子力への投資が賢明な判断であることを意味していると、この分野に投資しているFuture Planet Capitalのダグラス・ハンセン=ルーク(Douglas Hansen-Luke)氏は述べる。また、AIを活用して原子力の普及を促進することもできると同氏は付け加える。実際に原子炉を建設する前に、さまざまな原子炉モデルを検討できるからだ。
「AI分野以外のよく知られた投資家が公の場で、クリーン・エネルギー・ソリューションとしての原子力について語り、AIとリンクさせたのは初めてのことだ。
その意味で、これは分水嶺だ。無限の電力と、無限のコンピューティング・パワーという、世界が最も関心を寄せるべき2つを結びつけている」
そのメリットにもかかわらず、原子力発電には、24時間稼働でクリーン・エネルギーを供給する能力を上回る潜在的なデメリットを主張する多くの批判者が存在する。原子力の捉え方は各国政府によってまったく違っており、フランスが原子力発言の再評価にきわめて重要な役割を果たそうとしている一方、その隣国ドイツは原子力発電の段階的な廃止を選択している。
核分裂と核融合
原子力発電には核分裂と核融合の2種類がある。核分裂は、原子核を分裂させることでエネルギーを生み出す一方、核融合は原子核を結合させることでエネルギーを生み出す。国際エネルギー機関(IEA)によると、現存する原子力発電はすべて核分裂によるもので、世界の電力供給の約10%を占めている。核分裂は、数千年にわたって放射能を出し続ける放射性廃棄物を生み出す。
これに対して核融合技術はより安全性が高く、放射性廃棄物を生み出さないが、まだ技術的に確立されていない。AIの爆発的な普及は核融合技術の開発を促進させるが、まだ何年も先のことと、元クライメートテックのVCで、今はエネルギー・スタートアップのコンサルティングを行っているビクトリア・マクイバー(Victoria McIvor)は語る。
もちろん技術的な進展はある。2022年、イギリスの核融合スタートアップ「Tokamak Energy」は、プラズマが商業化に必要な摂氏1億度に達したと発表した。プラズマは固体・液体・気体に次ぐ物質の第4の状態で、核融合に欠かせない状態だ。
アルトマン氏は核融合スタートアップ「Helion」にも3億7500万ドル(約525億円)投資している。同社は2028年までにマイクロソフトに電力を供給するという画期的な契約を結んでいる。
核分裂エコシステムの再構築
核融合は「しばしば未来のビジョンとして高く評価」されているが、もしOkloのSPAC上場が成功すれば、核分裂も無視できないものになるだろうとマクイバー氏は話す。
他の原子力スタートアップとしては、2022年に3億2000万ドル(約448億円)を調達し、現在10億ドル(約1400億円)の調達を予定しているイタリアのNewcleoや、2022年12月にSPAC上場によって20億ドル(約2800億円)を調達すると発表した小型モジュール原子炉スタートアップ「X-energy」などがある。
核分裂は、コスト、サプライチェーンの安定供給、労働力不足、廃棄物管理、一般的なイメージといった根本的な課題に直面しているとマクイバー氏は付け加える。
「核分裂の問題は、長い間放置されてきたテクノロジーを再び手に入れることであり、その周辺のインフラをすべて再構築する必要がある」
原子力発電をよりスケーラブルで効率的なものにするために、スーパーコンピューターやAIから人的資源に至るまで、あらゆるものを備えたエコシステムの出現が期待されている。
「ネットゼロ目標を達成するためには、そのすべてがはるかに遅れており、大いに必要とされている」
CMSのハニーベン氏はそう語った。