女子サッカーワールドカップのアメリカ対オランダ戦は、過去最高の視聴率を記録した。写真はドリブルで駆け上がるアメリカ代表のトリニティ・ロッドマン選手。
AP Photo/Phelan M. Ebenhack
女子スポーツの注目度が急上昇している。試合会場での観戦者、テレビ放送の視聴者ともにぐんぐん増えており、広告媒体としての評価もうなぎ登りだ(以下特に断りのない場合、アメリカ国内での状況を指す)。
7月26日に行われたサッカー女子ワールドカップのアメリカ対オランダ戦は、過去最高の視聴率を記録した。
また、スポーツ専門チャンネルのフォックススポーツ(Fox Sports)によれば、この試合はアメリカの女子グループステージの試合として、過去最高の視聴者数を記録している。
実は、視聴者が増えているのはサッカー女子ワールドカップだけではない。
テレビ広告分析会社のアイスポット(iSpot.tv)によると、女子プロバスケットボール(WNBA)、女子プロサッカー(NWSL)、女子プロゴルフ(LPGA)、全米大学女子バスケットボールおよび大学女子ソフトボールの試合中継放送の広告インプレッション(表示数)は、2023年1月1日から7月19日までの合計で85億9000万世帯を記録し、すでに過去2年間の合計を上回っている。
上記期間中に試合中継の広告スポンサー上位10社が獲得した視聴世帯数は、合計13億世帯に上る。これは、同じ10社の2022年の年間視聴世帯数7億8500万世帯、2021年の4億3900万回を上回る数字だ。
【図表1】女子スポーツ試合中継の広告スポンサートップ10(2023年)とインプレッション(表示数)のシェア。集計対象は2023年1月1日から7月19日までのWNBA、NWSL、LPGA、全米大学女子バスケットボールおよび大学女子ソフトボールの初回放送分。
iSpot.tv
これら10社の広告スポンサーはすべて、2023年に入ってから女子スポーツの試合中継で放送したテレビCMの視聴世帯数が1億世帯を上回っている。
2022年の年間視聴世帯数が女子スポーツで1億世帯を超えた広告スポンサーは23年の半分以下の4社、その前の2021年はクレジットカード大手キャピタル・ワン(Capital One)1社だけだったことを考えると、2023年に入ってからの女子スポーツの人気ぶりには勢いが感じられる。
「女子スポーツへの広告出稿は、ブランドを継続な成長軌道に乗せるための正しい選択であり、賢い投資です」
そう述べるのは、Insider編集部の取材にメール回答を寄せた、ペプシコ(PepsiCo)傘下のスポーツ飲料会社ゲータレード(Gatorade)のスポーツマーケティング部門グローバル責任者、ジェフ・カーニー氏だ。
アイスポットのデータは、全米ネットワークのテレビ局を集計対象としているため、ローカル局やストリーミングサービス、インターネット放送は含まれておらず、実際の視聴世帯数はもっと大きな数字になると思われる。
また、同社は広告出稿額については把握していないが、それでも、女子スポーツが広告媒体として大きく成長する可能性を示すデータとしては十分だろう。
視聴世帯数が増加するにつれ、女子スポーツへの広告宣伝費も増加していることは他のデータからもうかがえる。
ニールセン・スポーツ(Nielsen Sports)の最新データによると、女子スポーツへの協賛金支出額は、世界全体で2017年から2020年の間に47%増加し、3億8600万ドル(約540億円)に達した。
ビュイックと日産自動車の戦略
米自動車大手ゼネラルモーターズ(GM)の主要ブランドの一つであるビュイック(Buick)は、2023年の女子スポーツ広告の視聴世帯数が2億世帯に達し、2022年の5300万世帯、2021年の1300万世帯から急増した。
そのほとんどはNCAA(全米大学体育協会)女子バスケットボール選手権での広告出稿によるもので、このトーナメントだけで視聴世帯数は1億4100万世帯を記録した。トーナメント全試合の視聴世帯数は27億世帯と2022年から倍増し、そこで放送された全CMの5%以上をビュイックが占めた。
キャデラック(Cadillac)に次ぐGMの高級ブランドであるビュイックの女性向け販売比率は50%強と、自動車業界では最も高い部類に入る。
その顧客構成から考えても、女子スポーツへの広告出稿はビュイックにとって理にかなった投資と言えるだろう。
最高マーケティング責任者(CMO)のモリー・ペック氏は次のように語る。
「視聴者にとって重要なパッションポイント(感情が高ぶるような強い興味・関心を持つ点)を見出すことができれば、そこからブランドへの親近感、一体感が生まれていくのです」
「See Her Greatness(彼女の偉大さを見よ)」と題したビュイックの2022年の広告キャンペーンは、女子バスケ界のスーパースター、アリケ・オガンボワレ選手がNCAA選手権プレーオフで決めたブザービーター(試合終了ブザーと同時の得点)を映像で紹介。
そうした全米の多くの人々の心を震わせた決定的瞬間の合い間に、アスリートの4割が女性であるにも関わらず女子スポーツがメディアで取り上げられる割合はまだ1割に過ぎないとのテキストを挟み込み、女子スポーツにもっと注目すべきと訴えた。
同社は2022年から、「マーチマッドネス(3月の熱狂)」と呼ばれ全米が盛り上がるNCAAバスケットボール選手権のテレビ放送について、男女のトーナメントに差をつけず、同数の広告枠を購入している。
その広告戦略は狙い通りの効果をもたらしているようだ。
「私たちが行った顧客調査でもソーシャルメディアでも、『次の車としてビュイックを考えていなかったが、女子スポーツを応援する広告を見てビュイックを買うことに決めた』といった好意的な反応を目にします」(ペック氏)
女子スポーツの広告スポンサーとしてビュイックに次ぐ2位の日産自動車も同様に、NCAAバスケットボール選手権で男女両方のトーナメントを協賛した。
2023年の女子トーナメント決勝の視聴世帯数は990万世帯で、スポーツ専門チャンネルESPNで放映された大学バスケットボールの試合としては、男女を問わず歴代最多となった。
ビュイックや日産と同様の動きは、自動車業界以外にも広がっている。
米金融サービスのアライ・ファイナンシャル(Ally Financial)は今回のサッカー女子ワールドカップの開催期間中、女子スポーツ全般を応援するテレビCMを放映している。
同社は2022年、それまで男子スポーツに9割を投資していたメディアマーケティング費用を男女半々にすることを決めた。
その結果、「女子スポーツファンの間でアライ・ファイナンシャルのブランド好感度、嗜好性、認知度が上がっています」と、同社のマーケティング担当役員は語った。
なお、今回のサッカー女子ワールドカップ開催期間中に放送開始したCMのうち、アメリカ女子代表選手(元代表を含む)を起用した企業やブランドは相当数に上る。
上記のアライ・ファイナンシャルに加え、ユニリーバの制汗剤ブランド「ディグリー(Degree)」、保険大手ガイコ(GEICO)、グーグル(Google)のスマートフォン「グーグルピクセル(Google Pixel)」、ナイキ(Nike)、外食大手サブウェイ(Subway)、自動車のフォルクスワーゲン(Volkswagen)、銀行大手ウェルズ・ファーゴ(Wells Fargo)などがそれだ。