アイスワームプロジェクトで氷底コアを調べるライル・B・ハンセンとチェスター・ラングウェイ。
Photograph by David Atwood, U.S. Army-ERDC-CRREL, courtesy AIP Emilio Segrè Visual Archives.
- グリーンランドが近年まで氷に覆われていなかったことが、最新の研究で初めて明らかになった。
- 冷戦中に秘密裏で行われた軍のミッションで得られたが、長い間失われていた氷床コアのデータによるものだ。
- 気候への影響として、22世紀に海面が6メートル上昇する可能性がある。
巨大な氷の層を数千フィート下まで掘るのは簡単なことではないが、それこそが軍の狙いだった。
科学者が研究のために氷床コアを採取することは、グリーンランドの氷床に核ミサイルを埋め込む「アイスワーム・プロジェクト」の格好の隠れ蓑になった。
冷戦の真っただ中に行われたそのプロジェクトは、軍が望むような結果にはならなかった。だが、1967年に軍が計画を断念するまで、科学者は古代のグリーンランドの気候を調べるのに十分な氷床コアのサンプルを集めた。
科学者は、氷と一緒に氷床の下にあった12フィート(約3.65メートル)の沈殿物も採取した。大半の科学者は氷にだけ興味を持ったため、堆積物のコアにはラベルが付けられ、大量のクッキー瓶に保管されたまま忘れ去られていた。
冷凍庫の奧で化石のようになった豆の袋と大差ない。
しかし、それはデンマークの科学者が2018年に堆積物のコアを再発見し、バーモント大学の地質学者であるポール・ビアマン(Paul Bierman)に送るまでの間のことだ。そこで、ビアマンの研究室の博士候補生だったアンドリュー・クリスト(Andrew Christ)が、予期せぬものを見つけた。それは、生物の痕跡だ。
彼らはグリーンランドの氷が近年溶けていたことを見つけたのだが、それは驚くべきことだったとクリストは話している。
この最初の発見は2年以上前のことだったが、21名の科学者がからなる研究チームはその後氷が溶けた時期を突き止め、先日、サイエンス誌でその成果を発表した。
グリーンランドのツンドラで氷が溶けて池のようになっている。
Josh Brown, University of Vermont
その論文によると、わずか41万6000年前にグリーンランドの氷床が溶け、海面は凍っていたときと比べて5フィートから20フィート(約1.5メートルから6メートル)上がった。これは、現在の氷床が、これまで考えられていたよりもはるかに地球温暖化に敏感であることを意味すると科学者たちは報告している。
「グリーンランドの氷床の下にあった古代の凍土は、我々に警告している」と、ビアマンと共同著者であるタミー・リテナー(Tammy Rittenour)はThe Conversationに書いている。
氷床は温暖化に敏感
融解は科学者の予測よりもずっと早く起こったようだ。以前の予測では過去100万年の間に起こったと言われていた。
気候変動リソースセンターによると、地球は温暖期と寒冷期を繰り返している。41万6000年前は温暖期だった。
科学者たちは、凍ったサンプルの中に含まれる分子を調べて、過去の大気中にあったガスの量を推計し、この温暖期は通常のサイクルで起きたものだとしている。
採取したコアを見る研究者。1996年。
hotograph by David Atwood, U.S. Army-ERDC-CRREL, courtesy of AIP Emilio Segrè Visual Archives
当時の温室効果ガスの水準は、現在よりずっと低かったとクリストはInsiderに語った。
つまり、自然で穏やかな温暖化が氷の溶解を引き起こしたわけで、この氷床は、科学者が当初考えていた以上に、気温の変化の影響を受けやすいことになるとクリストは説明した。彼とビアマンは、今回の発見は氷床は我々が気候にもたらした変化の影響も受けやすい可能性があると述べた。
今後数世紀中に気候変動による気温の上昇はグリーンランドの氷床を完全に融かすという。「それは、明日起こることではない。だが、それが起こる日は早くなっているだろう」とビアマンは語った。
その結果、海面は約1.5メートルから6メートル上昇すると論文では述べられている。その高さは、例えばマイアミやマンハッタン島などの都市にどのような影響をもらすだろうか。
アメリカ海洋大気庁の海面上昇ビューアーをって、ビアマンはその結果をInsiderに示した。
海水が少しずつ、道路、そして区画、さらに周辺を侵していく。「このビューアーは最大で10フィートに設定されている、海面がこれより高くなることを想像してみてほしい」と彼は語った。