【佐藤優】世界幸福度ランキングのトップを独占する北欧諸国。日本が真似できない理由は明治時代にアリ

第59回サムネイル

イラスト:iziz

シマオ:皆さん、こんにちは! 「佐藤優のお悩み哲学相談」のお時間がやってまいりました。読者の方にこちらの応募フォームからお寄せいただいたお悩みについて、佐藤優さんに答えていただきます。さっそくお便りを読んでいきましょう。

日本が将来進むべき方向は、北欧型の福祉国家、社会民主主義国家でしょうか?

小泉政権あたりから始まった日本版新自由主義がさまざまな社会のひずみを起こしてきたように思えます。当時は日本がお手本にする国は米国・英国のようなアングロサクソン型国家だったように思えますが、今の米英を見ておりますと、とても日本が見習うべき国家のようには見えません。

それに対して、北欧諸国は、民主主義やメディアの成熟度、ワークライフバランス、幸福度、人権レベルや男女平等等のランキングで常にトップの座を占めています。

このようなランキングが完全に公平かというとそうでもないでしょうが、あらゆる調査でトップクラスというのは、きっと人々を幸福にする何かがあるはずです。

そういうわけで、これから我が国が目指すべき方向性は北欧諸国のような国ではないか?と思うのですが、佐藤さんはどう思われますか?

(さんふじ、40代前半、公務員、男性)

「改良型資本主義」が戦後の高度経済成長を支えた

シマオ:北欧諸国と言えば、世界幸福度ランキングで毎年トップを独占していることがたびたびニュースになりますよね。

税率もべらぼうに高いけど、その分社会福祉は充実しているし、経済もうまく回っているというイメージがあります。

佐藤さん:そうですね。さんふじさんがおっしゃるように北欧は先進的ですし、私も少し前までは北欧型の福祉国家は日本人には親和性が高いのではないかと思っていました。

少なくとも新自由主義的な自己責任論と自由競争の社会は、日本人には合わないと考えていたんです。ただ今となっては、北欧型を日本が取り入れるのは難しいのではないかという考えですね。

シマオ:それはまたどういう理由からでしょうか?

佐藤さん:そもそも戦後の日本経済が強かったのは、製造業を中心に、終身雇用や年功序列を基本にした、いわゆる家族的経営という日本独自の雇用形態があったからだとされています。

一生涯を保証された家族主義的な環境の中で、安心感とともに会社に対する高いロイヤリティとモラルを持つ。それが、生産性の向上や高品質な製品を生む原動力になったと考えられていた訳です。

シマオ:なんだか今の日本社会とは全く別のもののように感じますが……。

佐藤さん:シマオ君が生まれる前の話ですからね。1980年代、バブル前の日本の経済力は大変強く、GDPも米国に次いで世界第2位でした。

そんな日本経済の強さを分析した『ジャパン・アズ・ナンバーワン』という本がベストセラーになったのが1979年です。

シマオ:教科書で読んだことがありますが、それが今回の話とどうつながるのでしょうか?

佐藤さん:戦後の日本社会というのは自由主義経済とはいえちょっと特殊で、本質的にはかなり社会主義的な要素を含んだ「改良型」資本主義社会だったということです。

そのお陰で昭和の後半から平成の頭くらいまでは、一億総中流、かなり平等で暮らしやすい社会になっていたと思います。

シマオ:なるほど。今は二極分化が進んでいて、中流意識を持っている層が激減しているみたいですが……。

佐藤さん:いずれにしてもそういう時代があったので、日本人は高福祉国家である北欧型の社会に親和性があると私は思っていたんです。

日本人は明治から新自由主義的気質に

日本人に「北欧型」は合うのか?

イラスト:iziz

佐藤さん:ところが、明治時代までさかのぼって考えると、実は日本人は自助努力を非常に重んじた、自由主義的なマインドが強いんです。

それを詳細に解説しているのが、慶應義塾大学経済学部教授で近代史に詳しい松沢裕作さんの著書『生きづらい明治社会』です。

シマオ:どういった内容なんでしょうか?

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